90. 夏の浜辺の戦い (4)
……―――ハイキャリアーに揺られること、数時間……たぶん、数時間くらい……だと、思う。
ゆっくりと走行する車体にゆらゆらと揺られていた所、いつの間にやら暇になって寝てしまっていた。この体は猫っぽいナニカが混じっているせいか、はたまた幼女のせいかは知らないけれど、生理的欲求に対して随分忠実である。
「あら、おはよう」
ゆっくりと目を開けた所で、サキの声が頭の上から響いてきた。寝ぼけながら上を見上げると……サキの顔。ど、どうやらサキの膝の上で眠っていたらしい。オレは大急ぎでサキの膝から下りて、傍にいたセシルの横へと移動した。
しかし、ずっと膝の上に重いものを乗せていたにも関わらず、何故だかサキの様子はほっくほくという感じである……何故。
「もうちょっと寝てても良かったのに」
「いや、べつに……ん?」
そこでオレは何やら違和感に気が付いた。なんというか、頭のバランスがおかしい。手を後ろに回してみると……ん、なんだこれ。房が1つ……2つ?
「……にゃにした?」
「とっても似合ってますわよ!ほら」
サキはそういうと、手持ちのポーチの中から小さな鏡を取り出して、オレの目の前へと持ってきた。
……うん、低い位置に髪が2つまとめにされていて、束ねた髪がふわふわになるように調整してある。どうやら、寝ている間に色々といじられ、髪型をツインテールにされていたらしい……。
「ほどいて?」
「それなら背中も暑くないでしょう?今日はそのままにしておきましょう」
「……む、むう……」
暑かったのは事実だし、髪をまとめてもらおうとは思っていたが……。周りを見ると、クラスの女子達が「そのままで!」「お願い!」「やる気がでるから!」と全力でこちらに訴えかけてきている……あるがままを受け入れたくはない気がするが……。し、仕方がない。
さて、気を取り直して……背伸びして外の様子を見ると、斜めに差していた太陽はすでに天辺まで動いており、向こう側には青い海が見える。どうやら目的地のすぐ傍まで来ていたようだ。この調子ならもう数分もしないうちに到着だろう。
「えー、目的地、目的地周辺でございます。橋脚を下しますので、そのままでお待ちください」
そこに、館内に控えていた乗務員さんがアナウンスをした。これはまたタイムリー、どうやら目的地に到着していたようだ。アナウンスを聞いてからしばらく座って待っていると、橋脚へと続くドアが開いて、乗務員さんがさっと手をドアの方へ差し出した。下りても良いという事だろう。
「うおー、長かったぁ」「あーようやくついたかー」
「もうヴァヴァ抜き何戦したよー?」「おー、海が見える」
まずはドア側にいた生徒たちがゾロゾロと続いて下りていく。さて、オレもそろそろ下り……あの、サキさん?なんですか?このお腹に回した腕は?
「あの?」
「やっぱり危なっかしいから持っていきますわ」
「…………。」
―――……。
「うみ!だーーーーーーー!」
オレは青々と生命の水を育む海に意味もなく叫んだ。うん、なんかこれやんないといけない気がするんだよなぁ。ハイキャリアーの壁の中から放たれた解放感、サキの腕から解放された解放感、開けた海と開けた空の解放感。うーん解放感しかない。
先程荷物は今日寝泊りをする近くの宿へと置いてきた。ちなみに部屋はワフーとかいう犬の鳴き声みたいな良く分からん様式なのだそうだ。ミロスの方の文化らしい。そういえば、それを見たリジェがいたく感動していたようだが……アレはなんだったんだろうか。
で、オレは今日は先生の部屋にお泊りになっている。折角ならセシルとか他のクラスの奴らとオトコの友情を育みたかった所だが、特待生だから、これは仕方がない…………いや、折角だ。忍び込んでやろうかな。
「ダメだよ」
「にゃんもいってにゃいぞ……」
オレの悪だくみに気が付いたのか、横にいたセシルがオレを制止した。なんか皆さん鋭すぎやしませんかね……。まぁ、その前に先生に見つかるのがオチな気がしないでもない。
さて。宿の事は後だ。魔物が海からやってくるのは明日の明朝だ。今日はビーチで遊んでも良い日だ。もう日も高いから、あまり時間は無いのだけれど、折角だから海へとやってきたわけである。
……水着?へっへっへ、宿に置いてきてやったぜ。コレで誰からも「着なさい」とか言われまい。海には入れないけど、他にも遊び方はあるし、大丈夫だ問題ない。なんだったら横にいるセシルもしっかり着込んでいる。セシルを巻き込んで遊ぼう。
「あ、マオ発見!もー探しましたわ!」
「ん?サキ?」
オレが心の中でほくそ笑んで、砂浜で遊ぶために突撃しようとしているところで、後ろから何やら大きな袋を持ったサキが手を振りながら駆けてきた。そして、こちらに着くなりオレの目の前にその大きな袋を間近に見せてきた。
「……にゃにコレ?」
「なにって、水着ですけど?マオ、忘れていたようだからとディアナ先生が渡してくれたのだけれど」
「…………がっでむ」




