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88. 夏の浜辺の戦い (2)

 

 臨海授業まで、もうあと一週間と少し。Cクラスの面々は景品ゲットを目標に掲げ、作戦会議を開いていた。どうやら、すでに各クラスも動き始めているらしく、学園全体がそわそわとしている空気がある。そして、今は文学科を取得したクラスメイトたちが、魔物の生態を調べあげている真っ最中。オレもその会議に参加するためサキとセシルと一緒の席に座って文学科たちの成果を待っている所だ。


 しばらくは他愛のない話をしていたが、勢いよく教室の扉が空いたのを合図に、皆の視線が一斉に後ろの出入口に集まる。そこには、少し息の上がった複数の生徒たちが立っていた。手にはスクロールや本を持っているようで、しっかりと成果が出たことがわかる。


「しらべてきたぞー!」


 一人がそう宣言して、教卓のほうへと小走りで進むと、ぞろぞろとクラスの皆が前のほうへと集まってきた。そして、文学科調査班はスクロールを黒板に止め、こほんと小さく咳ばらいをすると、今回の成果の報告が始まった。


「どうやら、コイツ、らしい」


 広げられた資料には……む?なにこれ?イカ?白黒のスクロールの絵ではどんな色かは分からないが、6本の長い足に、横についたぎょろっとした目、そこから上へと胴体が伸びていて、先端に傘のようなヒレがあるそれは、まごうことなきイカだ。クラスの面々も同時に頭をひねっている。うん、まぁ、どう見てもイカだし……。


「あ、コイツ識別名があるんだ。ヌルテイカ……?」


 スクロールの端に書かれた説明文を見つけたクラスメイトの女子がつぶやいた。識別名とは、必ず特定の形を象る魔物につけられる名称だ。それによると、このイカは『ヌルテイカ』というらしい。やっぱりイカだ。


「そう、ヌルテイカ、という低級の魔物らしい」


 文学科調査班の男子がそう返事をして資料を「あれ?どこだっけ」と呟きながら、いろんな本をパラパラとめくっている。どうやらかなり急いで持ってきたようで、何かの拍子に付箋を落っことしたらしい。少しして「これだ」と、見つけたようで、教卓に集まった面々にその本の内容を広げて見せてくれた。結構分厚い本……絵も乗っているから、どうやら図鑑のようだ。


「えーっとなになに……ぬるぬるとした触腕を伸ばし、相手に絡みつく」


 それ聞いた女子達が「うぇぇー」とげんなりした声をあげた。しかし、まんまな名前らしいなぁ。ぬるぬるした手のイカ。ヌルテイカ……。オレがそんな事をぼんやりと考えている間にも、説明は続く。


「全身真っ白、大きさはー……100cm弱」

「結構デカいな」「これがうじゃうじゃしてんのか」

「うぇー、大丈夫かなぁ」「これが群れてたらキモいかも」


 各々様々な反応があるようだ。イカ、イカ……そういえばミロス国ではイカって食べるとか聞いたな。なんでも輪切りにして茹でてマリネにするとか……ふむふむ、旨そうだ。ミロスに行く用事って全然無いからあまり国勢とか分からないけれど、もし行く機会があったら食べてみたいなぁ、イカ……。


「……他の魔物より、魔力に対する反応が著しく高く、強い魔力を持つ者に引き寄せられる性質が……あ……り……」


 そこまで読んだところで、クラスの視線がバッと一直線にオレにあつまった。


「ほぇ?」


 今、イカ飯の事を考えていたから、なんのことだかよく分からないのだけれど……。な、なに?なんだ?イカ食うのは御法度か?


「あ、アウトォー!!アウトですって!!」


 そこに、緑髪の生徒、リジェが机をバシーンと強く叩きながら、身を乗り出してそう宣言した。その表情はかなり憔悴したような雰囲気だ。アウト?


「た、たしかにマオちゃんにぬるぬるを絡みつかせまくるのは……」

「フツーにダメだと……」

「だよなぁー……」

「う、うん……」


 あん?どうゆう事だ?オレが絡みつかれて何かダメな事なんかあるか?そのまま短剣で切り払ってしまえばいいだけだろう?


 ……もしかして、舐められている……?今まで散々撫でまわされてきたような奴だから、イカの手を振りほどく事も出来ないひ弱な奴に違いない、と?


 ……む、むぅぅーー!!


「はっ!にゃめられたものだにゃ!オレはこんにゃイカ、怖くもにゃんともにゃいんだが!?」


 オレも負けじと机をぺちーんと強く叩いて、身を乗り出した。これでも、短剣も使えるようにと日々イメージトレーニングとこっそりやっていたり、フォークを持っての素振りは欠かしていないのだ。剣は……水着のせいで買えなかったのだけれど……。それに今も、イカに対して、ざっと10は対処法が瞬時に頭に思い浮かぶ。完璧なのだ。


「いや、多分そういう意味じゃ……」


 隣に座っていたセシルがオレをなだめようとしているようだが、それを手でばっと遮って、オレは続ける。


「オレは15さいだ!こどもあつかいすんにゃ!」


 ふー。言ってやったぜ。どうもこの体だと、心技体、全部の面で幼女だと思われているようだからな。この際ハッキリと宣言しておいた方が良いだろう。しかし、その宣言を聞いた女子達はオレの周りに集まって、肩を持って椅子に座らせると、そのまま頭を撫で始めた。


「よしよし。うんうん、マオちゃんは大人だもんね」

「だーかーらー!」

「仲間外れにしようとしているわけじゃないよぉ、ちょっと、想像できる絵面がね」

「はぁ?絵?」

「いや、でも、マオちゃんもやる気だし、そこは作戦でぇ……」

「うーん、そうだけどぉ……」


 ここで、そのままあーでもないこーでもないと大合唱が始まった。おいこら本人の意思はどこへいった。しばらくは作戦会議が続いてたが、一つ決定した事項があるらしく、一人の女子が声をあげた。


「うん、マオちゃん大丈夫らしいし、ここは皆一緒に行くってことで」


 ふむ、途中から訳が分からなくなって半分以上聞いていなかったが、どうやらオレの熱意と宣言はしっかりと伝わったらしい。撫でられた事は納得いかないけれど、まぁ、今回はしっかりと戦えるという事で、これで良しとしよう。


 その後は、クラスの面々はイカの生態を調べる、薬を調達する、戦闘を行うなど、様々な役割分担を決める事になった。オレはもちろん戦闘班だ。あとは細かい調整はあるのだろうが、それは本番に向けて追々決まっていくことだろう。



 ―――……。



 皆がバラバラに帰っていった教室、その中に何人か居残りをしている生徒達がいた。リジェ、そして、先程一緒に行くと声を上げた女子に、その他数人だ。


「残ってくれたようだな。リコさん、宣言ありがとう」


 リジェがそういうと、リコと呼ばれた女子生徒はコクリと無言で頷きながら、近くにあった椅子に腰かけた。それを機に、一同その席の周りに集まって、怪しげな集会が始まった。先程の一緒に行くという宣言、どうやらマオを囲んでの議論中に目線で会話をして、意図的に引き出されたものらしい。


「さて。問題が発生した。なんとも度し難い淫獣が今回敵となるらしい。我々、見守る会の面々としては……」

「隊長!ぶっちゃけ俺!ぬるぬるなマオちゃんも見たいです!!」

「……ふむ。君は、この前入った新入り、だな?とりあえず私は隊長じゃなくて会長だ」


 リジェは男子生徒の方を見ながら肩書を訂正しつつ、意味深にポーズを取った。


「気持ちは、汲もう。この中にも同じ考えを持つ者はいることだろう……なんだったらそれは私も見たい」

「た……会長!」

「だが!!!」


 そこで、リジェは拳を強く握りしめ、宣言をした。


「それは!あくまで我々の邪念!マオちゃんには(主に百合の)花の園で健やかに生活をしてほしい!!」

「!!!!!」


 それを聞いた男子生徒は雷に打たれたようによろめいた後、がくりと膝から崩れ落ちた。


「隊長……俺、間違っていました。そう、マオちゃんの健康が一番……それに、見るのと、意図的に見せるのでは、意味が違う!!」

「分かってくれたか……あと、私は会長だ」


 リジェは男子生徒に手を差し伸べ、椅子に座らせると、また意味深なポーズを取りつつ、緑髪をさらりと横に流しつつ、口を開いた。


「……なんとしても、守護(まも)らねばならない。しかし、気付かれてもいけない。それとなく、自然に、最大限のフォローをいれるぞ、いいな!?」

「「「いえっさぁ!!」」」


「「「「イエス!ロリータ!ノー!タッチ!!」」」」


 ……『マオちゃんを見守る会』の暗躍は続く。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何とか本日一気読みして最終話まで来ました。 猫耳幼女のお話、とても面白かった。 ポンコツだけど、とても優しいマオちゃんはとても可愛かった。
[良い点] これは神回待ったなし…«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク
[一言] 世界は百合で出来ている中身が元男の子でも見た目が女ならそれは百合なのです(断言 イエスロリータノータッチってイカにも適応されるのか
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