87. 夏の浜辺の戦い (1)
午後過ぎ、今は魔術の初段技術の復習授業の真最中。オレは頬杖をつきながら、遠い目で黒板を眺めていた。
水着着せ替え事件、あれから幾星霜……(体感比)。いや、実際には昨日の出来事なのだけれど……。フリル、パレオ、ワンピース、ビキニ、麦わら帽、貝殻etcetc、いろいろと着せられ、回され、弄られ……意識が星空の彼方へと旅立ちそうになったが、何とか2着程度買うだけで済ませられた。
「えぇ、2着!?何かあった時のために10着は用意しておいたほうがいいですわ!」
「はい、それはもう!」
「そんにゃにいらねーよ!?」
……と、まぁ、会計中にこんなやり取りがあったが、無事臨海授業のための水着は手に入れた。結局、全会一致で一番似合うと念押しされた、ユウが選んだフリルのものと、着やすかったタンキニっぽいのにしたが、以前であればそんなもの買うのなんて、絶対にしなかったのが、念押しされて自分で買ってしまうあたり、馴染んでしまっているようで少し恐怖を感じた。
……はぁ。
んにゃ、いかんいかん。ため息なんてついている場合じゃない。もう水着は買ってしまったから、海の時は仕方がないからコレを着るとして……肝心の臨海授業の内容だ。
今朝、先生から聞いたが、今日の授業の終わりに、生徒へと全体連絡があるらしい。そろそろ授業も終わる。これが終わったら、Cクラスへと集合だ。
オレとセシルが教室につくと、既にCクラスのクラスメイト達は集まっていたようで、教室の中はがやがやと賑やかだ。セシルが「あそこかな」と指を差した窓際の席にオレとセシルが腰かけると、丁度ディアナ先生が白衣を靡かせながら教室に入ってきた。
「さて、生徒は……集まっているな?皆、こちらへ注目するように」
ディアナ先生の鶴の一声に、ざわめいていた教室は声がトーンダウンし、生徒たちの視線が教壇の先へと集まる。そして、それを確認したディアナ先生はコホンと小さく咳ばらいをすると、話を続けた。
「今年の臨海授業は、去年とは異なる枠組みで進行する事になった」
「えぇ!?それって遊ぶ時間が!?」
「……一応授業だからな?」
クラスの男子の一人がそう先生に食って掛かったのを皮切りに、クラスの中はまたざわざわとざわめき始めた。しかし、ディアナ先生は落ち着けと首を横に振り、手を前に出して静まれとポーズを取ると、またクラスの声がトーンダウンする。
「安心しなさい、そういう意味ではない。当代の校長の思い付きと我儘でな。クラス対抗魔物討滅GPを開催する……だそうだ」
「クラス対抗……?」「魔物討滅GP……?」
「曰く、競争形式のほうが盛り上がるだろう、との事だ。今年の魔物は群れても滅多なことでは命を取られない種が大量発生するそうだ、それに託けたものだろう」
ほほう、なるほど、競争……。クラス対抗、という事はユウとは別チームで戦う事になるだろう。そうであれば、これは全力で取り組まねばなるまい。ルールは、まぁ名前の通り、魔物の討滅数を競うような物だと察せられる。この前の課外授業の大規模版、といった所か。
「それと、ただ競争ではつまらんから、景品を用意したそうだ」
「「「「景品!!?」」」」
景品という言葉を聞いた生徒たちは一斉に反応し、色めきだった。勿論オレもその一人だ。勝負をするのであれば、折角だからご褒美があるほうが嬉しいに決まっている。ふっふっふ、良いぞ良いぞ、ますますやる気が出てきた。
「よし、やったろうぜ!」
「Cクラスの実力みせつけてやんよ!」
クラスの男子の二人が意気投合してガッツポーズをすると、周りの生徒たちも一斉にやろうやろうと大合唱が始まった。なんというか、Cクラスはお祭り騒ぎが好きな連中が集まっている。みんなのやる気は最高潮だ。ふふ、この調子ならユウのいるBクラスなんてけちょんけちょんだろう……!
「マオちゃんは?くるよね?」
クラスが沸き立つ中、目を輝かせながら気合を貯めていたら、横に座っていた女子がオレに訪ねてきた。その問いの答えは一つだ。
「もち!オレが一番たおす!マカセロ!!」
オレが椅子の上によじ登って、腕を振り上げると、Cクラス中で歓声が上がった。おおぉ、この、賞賛されている感じ……!そう、オレが欲しかったのはこの感じだ!決して耳やら弱点の尻尾やらをもふられ、弄られ、もみくちゃにされ、というのを望んでいたのではないのだ!ふはは、素晴らしいじゃないか!GP!
「ふふっ、マオ。やる気だね」
「ふふん。オレ、つよいんだからにゃ!景品げっとにゃんてよゆーだ!」
下から声をかけてきたセシルに対し、オレは腕組みをしながら、口角を上げて告げた。この宣言に、セシルは何だか苦笑いをしていたような気がするが、クラスからは「いぇーい!」と、大きな歓声があがる。むふー、歓声が心地よい……!
「おー!さすがだぜ猫耳幼女!」
「そうこなくっちゃな、ドヤ顔幼女!!」
「俺達には無敵の猫耳ドヤ顔幼女がついているぜ!!」
「こりゃ絶対に負けられないな、猫耳ドヤ顔幼女先輩!!!」
「にゃっ…………ようじょようじょいうにゃぁぁぁ!!!!!」
うがー!この体でさえなければ、今のオレはハイパーかっこいいはずなのに!!ぐぬぬぬぬ、夏が終わる頃までには何としても戻ってやるんだからな……!
オレが歯ぎしりしている所で、ディアナ先生が眼鏡を直しながら「静かに」と少し大きな声で宣告した。おっと、やば。
クラスが静まり始める中、ひょいと椅子から飛び降りて、今度は後ろ向きにジャンプしながら椅子に座りなおした。
「やる気なのはいいが、騒ぎすぎだ。どんなに命の危機が薄かろうが、討伐は討伐。もしはしゃいで怪我でもしたら、私が特別に配合した一番沁みて、一番効く薬を塗りこむからな?」
「「「「はーい」」」」
「よろしい。細かいルールは……今策定中だ。何しろ校長の思いつきなものでな……」
ディアナ先生は眉間を抑えつつはぁと小さくため息をついた。どうやら、色々苦労している様子だ。たしか若い校長なんだったか……。入学式の時に見た感じ、30代くらいの女性だった気がする。
「と、ルールは追って知らせる。今日の所はこれで終了だ」
ディアナ先生がそう言うと、またクラスはざわざわと声が溢れだした。その内容は、どんな作戦でいくか、とか、今から魔物の生態を調べてみる、だとか、景品ってどんなものなんだろうとか、皆やる気のこもった内容だ。
さて、ならばオレも横のセシルやサキも含め、作戦を練らねば……!




