85. みずぎ (2)
やれやれ……。なんだか良く分からない事になってしまった。
ともかく、オレはお二方の反応を待つ為に先程座らされた椅子にぴょんと飛び乗るように腰かけて、足をぷらぷらと揺らした。そんなこんなで待つこと数分。ぷらぷらをやめた所で、丁度向こうのカーテンの開く音が聞こえてきた。恐らくサキが試着を済ませたのだろう。
「マオ」
「おー、にゃんだ……ってぇ!?にゃ、にゃんで着てきてるの!!?」
オレはサキの姿を見て、驚きながら、顔を隠した。目の前までやってきたサキは先程オレが選んだ水着を着たままの姿だ。
「え?マオに見せて差し上げた方がいいと思って」
「にゃんでそうにゃんの!い、いいから隠して!」
「……うん?選んだのはマオでしょう?似合わないかしら?」
む、ぐ。見ないように顔を隠していたけれど、指の隙間からその姿を覗き見ると……。
白の水着にプラチナブロンドの髪が映えている。そして、北の国の人間特有の白い肌がそれを引き立てて、形容し難い美しさとなっているようだ。
普段から鍛錬を欠かさない引き締まった体に、ふわりとハイネックの水着に包まれた程良い大きさの胸。幼いころから今まで、サキの肌をまじまじと見ることはなかったけれど、なんというか……し、刺激が、強い。
「……あ、ぁぅ……に、にあう……とおもう」
「ふふ、照れちゃって。これ、買いますわね」
「む、むー……」
サキはオレの反応を見て、随分機嫌よさそうにはにかんだ。こ、この……健全な青少年の純情な心を弄びおってぇ……!
「マオちゃーん!」
オレがムムムとしかめっ面をしていると、また向こうの方から声が聞こえてきた。ちらりと見ると……武器をダイナミックに揺らしながら、元気よくこちらへと駆けてくるユウの姿が……。当然、先程オレが選んだ水着を身にまとっているようで、いつもは制服で隠された肌が丸見えだ。
「ほら、どうかな?」
「だ、だからにゃんで着てくるんだ……」
オレはすかさず顔をさっと横に逸らして、安全な視界を確保した後、ぎゅっと目をつむった。
まったく、こいつらは……。オレは正真正銘、お年頃の男子なのだ、もう少し男子の前では、こう、恥じらいってものを持っていただきたい。
……い、いや。もうすでにコイツにはお風呂入れられたりしているから、こちらはまだ刺激は強くない……か?
オレは意を決して、顔を真っ赤にしながら目を片方ずつ開けながら、ユウの方へと向き変えると……。
大きな胸を支えている水着に、華美過ぎることのない淑やかな花柄のパレオが、流線形の美しいボディラインを引き立たせている。髪には水着に色を合わせたのであろう、ワンポイントの薄青の花飾り。少々抑えめの色を選んだはずなのに、何故か、すっきりとまとまっているような印象をうける。ここがビーチであれば、きっとこの姿はもっと美しく映えていたのだろう。
……それと……自分が選んだモノを、ユウが着ている。この事実が、心の中の良く分からない物をくすぐっている……なんだろうか、不思議と目が離せない。
「……あの、マオちゃん?流石に無言で見られるのは恥ずかしいかなって……」
「ハッ……に、にあっ……てる……にゃぅ」
「……そ、そう?じゃあ……私もこれ買っちゃおうっと」
そこから、二人はお互いの水着を可愛い、似合うと、笑いあいながら、試着室のほうに歩いて行った。
「……はぁー……」
その背中を見送ったオレは深いため息をついて、椅子にぐでんと姿勢を崩して座った。なんだかどっと疲れた、まるで嵐が過ぎ去った後のようだ。あぁ、このまま遠い世界に思いを馳せていたい気分だ……。
そして、オレの意識が遠い世界の大海の中に広がる神秘に思いを馳せていた所、きゃいきゃいと何か話し声が聞こえてくる。そのやかましさに意識がだんだんと世界から現実に引き戻されて、気が付いたら、目の前にはすっかり制服に着替え終わったお二人さんが並んで立っている。
「「マオ(ちゃん)」」
「…………ほぇ?」
「次はマオのばんですわね!」
「とびっきり可愛いの選ぶね!」
…………あ゛。
ま、不味い、逃げるのをすっかり忘れていた……体はもう既に、ユウの腕の中にすっぽりと収められていて、時すでに遅しだ……。ふとラックの方を見てみると、店員さんが悪魔のような満面の笑顔で姿勢をピンと正してこちらを見つめている。その顔は「色々取り揃えておりますよ、ええ、色々と」と、言わんばかりという感じだ……。
「せっかくだからアクセも―――」
「いいですわね!マオには―――」
「うんうん!それとね―――」
そして、もうオレを差しおいて頭上では色々と不穏なワードが飛び交っている……。
……こ、ここまで……か……。




