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84. みずぎ (1)

 

 ……くそっ、やられた……ッ!!


 夏の気配に気を取られ、後方確認が疎かになっていた……なんたる不覚……!


 ユウが臨海授業を引き合いに出していたが……確かに、これからもっと暑くなる頃、西に面したアルカ王国沖では、特定の魔物が繁殖し、活発化する。その魔物自体はあまり強くもないため、森での課外授業のように、パーティーをくまなくても対処できるのだが、如何せん大量発生するのだ。

 なので、学園は臨海授業と称して、その魔物の駆除掃討を行う奉仕活動の一環を行っている。ただし、討伐前や討伐後の自由時間は海や海沿いの街にくり出して遊んでもいいという避暑も兼ねていて、夏の行事の一つというわけだ。


 制服と違って学校指定の水着は存在しない。つまり、水着や着替えなどは持参なのだが……まぁ、勿論、女物の水着なんて持っていない。泳ぐつもりもなかったし、適当に耐水性の下着にパーカーと半ズボンでも着ていればいいかなと思っていたのだが……。どうやら、水着を買おうというイベントをユウとサキが秘密裏に企画していたらしく、オレが巻き込まれたようだ。


 い、いらない……。な、何とかして有耶無耶にして帰らねば……。


 オレが苦虫を嚙み潰したような顔をしていると、サキとユウが店員さんの誘導で用意してあるラックへと向かっていく……お?どうやら、今回はオレを弄ぶというわけではなく、二人も水着を買うらしい。


 ……よし、決めた。プランBだ、プランBで行こう。作戦名「適当にほめそやして買っている所で逃げる」!オレだけが標的でないのならば、やりようはあるはずだ!今こそ商人の息子たる圧倒的トーク力を見せつける!母さんから御墨つきを貰ったことは一度たりともないけど、火事場のなんとやらでなんとでもしてやる!


 ともなれば早速行動だ。オレは、傍にいたサキの所へと駆け寄って、選んでいる様子を見守ることにした。丁度手に取ったのか黒いビキニを持っているようだ。黒いビキニは、三角形が妙に狭いような気が……な、なんだか随分と……こう、オトナ?っぽいのを選ぶんでございますね……。


「あら?マオは選びませんの?」


 オレの襲来に気が付いたサキはその黒ビキニを持ったまま足元にいるオレを見下ろした。


「よくわかんにゃいからまずは見てマス」


 ふ、完璧な受け答えだ。この前、二人から同時に眼を見て堂々と嘘をつけと教わったからな、今こそ、そのテクを使わせてもらいますとも。オレが堂々と言ってのけると、サキはじとりとこちらを睨みつけている……にゃ、にゃんだよ。そのいかにも「アヤシイ」って目は……。


「……まぁ、いいですわ、折角ですし。マオ、これどうかしら」


 サキは手に持っているビキニをさっと服の上から体に当てて、こちらを見つめてきた。う、うぅん……ほめそやす作戦とはいえ……正直、水着の良し悪しなんてオレにはさっぱりなんだけれど……。とはいえ、ちょっと大胆すぎる気がする。


「……だいたんすぎ」

「あ、やっぱりそう思います?うーん、わが国は不凍港はほとんどありませんから……難しいものですわ」


 イングス王国は北方の国だ。確かに海に面している部分はほとんど流氷に閉ざされていて、水着を着てバカンスなんて生ぬるい地域ではない。唯一の不凍港は一番南の端っこ。そこも気温は比較的低いから、水着というわけにはいかない。子供の頃も水遊びなんてしなかったし、正真正銘これがサキにとっては初の水着なのだろう。ならば、折角だし良いもの……かぁ。


「んー……むぅ……コレ……とか?」


 周りをきょろきょろと探して……丁度、サキに合いそうなものを見つけた。ちょっとラックが高くて取れないから、オレは水着のほうを指さした。


 ハイネックにメッシュ地があしらわれた、先程よりは露出が少し抑えめの水着だ。パンツ部分は端に長めのフリルがついていて、どちらかというと短いスカートを思わせる。色は……白と、薄紫色の二種類。まぁ、短いスカートが嫌なら、その辺にあったパレオでも巻けばいいだろうし、どちらかというとお嬢様然とした恰好のサキには丁度よさそうに思う。


「あら」


 サキは小さく声をあげてからオレの指さしていた水着を取り上げて縦に横にとくるくると回し見た。そして、また、洋服の上から水着を当ててこちらへと振り返った。


「どうかしら?」

「うん、いいんじゃにゃい」

「ふふ、マオったら。興味無さそうなフリして意外としっかりと選んでくれますのね」

「うっせ」

「折角だから試着しますわね」


 サキは嬉しそうに水着を胸に抱えると、奥の方にある間仕切りのカーテンへと駆けていった。


 ……む、むう。流石に選んでおいて放置して帰るという事もできないだろう。仕方がない、逃げるのは次の機会だ。オレはふぅと一息ついてから、椅子に戻……っ……ろうとしたのだけれど、隣のラックのあたりから強烈な視線を感じる……。振り返ってみると、ユウがラック越しにこちらをじっとりと見つめている。


「……ずるい」

「……はい?」

「ずるいずるーい!マオちゃん私のも選んでよー!」

「にゃ、いきにゃりにゃんだァ!?」


 ユウは声をあげるなりオレに背後から抱きついてきた。そして、そのままオレの頭にぐりぐりと胸を押し付けている。いきなりの事に逃げる間もなく捕まったオレは奴の胸を押しのけようとするが、如何せん重量とか膂力とかで差があるせいで、もがくこともできない。ていうかずるいってなんだずるいって!


「は、はにゃせっ!っひゃん!?どさくさに紛れてへんにゃとこさわんにゃ!あーもー、わかったから!」

「えっ、いいの?」

「……じょうだんにゃの?」

「う、ううん!凄く嬉しい!」


 一瞬驚いたような表情をしていたが、オレがユウに合いそうなのを見繕うため、頭からつま先まで見回していると……随分嬉しそうな表情に変わっている。まったく、放課後に人の水着を選ぶことになるとは露ほども思わなかった。

 さて……コイツ、スタイルいいんだよなぁ……オレの今の体とは大違いにメリとハリがしっかりとしていて、ボディラインはすらりとしている割に、胸がデカい。


 この体形と髪色として……えー……似合いそうなの……似合いそうなの……。


「……んぅ……コレ?」


 オレは端のほうまでゆっくりと歩いて、途中見つけた水着を指さした。

 ホルターネックになっていて、胸の真ん中に結び目のようにワンポイントのリボンがついている。色は、鮮やかなディープブルーで、ボーダーに薄青のフリルがついている。見た感じは、多分サイズも問題なさそうな気がするけど……どうだろう?


「おぉー!」


 ユウは駆け寄ってその水着を受け取ると、くるりと回して確認した。


「サイズは……コレだと少し小さいかなぁ。大きいのあるか聞いてくるー!」


 ……アレで小さいのか……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石商人の息子…娘…ペットの猫!慧眼だな! ちなみに自分の分も完璧に似合うのを見繕うのが一番早く終わる策だぞ
[一言] 適当に済まさずにちゃんと選ぶ辺り優しい幼女だなあ さーて残るはだれの水着かなあ?
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