83. 夏の準備
「にゃつ!だーーーーー!!」
オレは天高くもくもくと聳え立つ入道雲に意味もなく叫んだ。季節は春からすっかりと衣替えをして、夏。照り返す太陽が緑を育んでいる。そして、それはオレたちにとっても衣替えの季節。つまり、暑いブレザーともおさらばというわけだ。なんだったら胸のリボンも外してしまっても良いだろう。軽装万歳!
夏と言えば……山籠もり、滝行、真夏の空の下での剣の素振りに迸る汗……絶好の修行の季節なのだ。この夏を乗り切る頃にはオレはワイルド以下略な一皮剥けたダンディズム溢れる男になっているはずだ!ふふ、首を洗って待っていろユウめ……。
さて、今は昼下がり。今日の授業は終わり、日もまだ天に燦燦と輝いている。今日は何をしようか。
……そういえば、結局模造剣をまだ新調していなかった。実家に置いてある物は身長に合っていないし、学園の物だと重すぎる。だから、仕方がないから今の自分にも何とか出来る代物を調達しようと思っていたのだ。となると、行くのは鍛冶屋だ。確か学園街にも確か1つあったはずだ。結局なんだかんだゴタゴタとしていたせいで、まだ中を見れていないし丁度良いだろう。
そうと決まれば!いざ、学園街へ買い出しにっ……!
オレがそう思い、走り出そうとしたところで、両腕をガッと何者かにつかまれた。
「標的!」
「確保ですわ!」
そこにすかさず、聞きなれた二つの声。バッと振り返ってそちらを見ると、うん、ユウとサキだね。やぁ二人共、お揃いで。で、何用かね?オレは今忙しいのだ。用なら後にしてくれないかね?いや、本当に。は、離し……。
「「連行ー!」」
「うにゃああぁぁぁーーーーー!!!?」
―――……。
あれよあれよという間に連行されてきた場所……は、うん、学園街にあるマリ監修運営のお店……の、奥にある、何だか薄暗い部屋。カーテンがしまっていて、なぜか部屋の真ん中には椅子がぽつりと置かれている。オレは部屋に到着するなり、ユウとサキにストンと中央に置いてある椅子に座らされた。そして、ユウとサキは両隣に陣取る形で休めのポーズをして、待機を始めた。
「いや、あの……にゃニコレ」
「お黙りですわ!」
「えぇ……」
随分サキがノリノリなのですが……。ユウの方を見ると、にっこりと笑って手をひらひらとさせている。あ、怪しい……というか、部屋全体が怪しい。一体何が始まるというんだ。
オレが訝しげに待っていると、突然、向こう側のドアが開いて……堂々と女性が一人現れた。よく見ると……うん?あ、この前の、ユウにデートと称して連れ出された時の、王都の服の店員さん……あの時と同じ制服を着ているし、間違いなさそうだ。店員さんはいそいそと何かを準備すると、こほんと軽く咳ばらいをして、オレの前へと進み出た。
「えーこほん。こんにちは、マオ様」
「え。あ、はい、コンチワ……?」
「本日、何故ここへといざなわれたか……お分かりですね?」
「まったくわかんにゃいです」
「ええ、ご存知だったようですね。では話は早いです」
「きいてねぇ」
オレの言葉にまったく耳を貸さずに進行するらしい。というか、店員さんの大根役者ぶりから、とりあえず台本の通りに進行していますって感じだろうか……。
……というか、これ絶対サキの仕業だろう。こういうサスペンス的なノリが昔から好きなのは把握している。そして、そのせいでお陰様で思い込みが激しい。オレがサキの方をジトリと睨みつけると……平然とした顔でにっこりと笑っている。実に満足そうだ。こいつは本当にもう……。
はぁ……店員さんも巻き込まれて、ご愁傷様……と、思いきや、なんだろう。店員さんの表情は、なんとなく楽しそうに見える。
……嫌な予感。
「では、ご覧にいれましょう」
店員さんがそう宣言し、パチンと指を鳴らすと、店のカーテンがバサッと開き、部屋の中が露わになった。まぶしさに少しだけ閉じた目を光に慣らすようにゆっくりと開けると、向こう側には……ラックが数台。そこに掛かっているのは……何だか布の面積が少なめの……。
「夏といえば海!海といえば水着、ですよね!」
「「いえーい!!」」
…………。
「あ、オレ急用おもいだしたからかえりますね。さようにゃッ……!?」
オレがさらりと帰ろうとしたところ、ボディガードAとボディガードBががっしりとオレの肩を掴んだ。じたじたと暴れてみるが、まったくと言っていいほどびくともしない。
……どうやら、逃がしてはくれないらしい。
「マオちゃん、臨海授業もあるから、用意しなきゃダメだよー」
「……勿論、買いますわよ、ね?」
「………………ハイ」




