81. 敵情視察 (2)
カバンに例の封筒を入れ込んで、寮への道を走り抜け、あっという間……ではないけれど、ユウの部屋の前へとたどり着いた。はぁ……本当にこの体の鈍足具合は何とかならないものか……。やはり完全なる巡らせるものの習得は必須か……。
まあ、それは今後の課題だとして、今はこの封筒を口実に奴の弱点を探らねば。ふっふー、今のオレはエージェントマオ。スマートでスタイリッシュな身のこなしで敵の秘密を暴き、華麗に去っていく、そんな感じなのだ。
「ユウー。いるかー」
オレはタンタンと扉を叩きつつ、扉に向かって声を掛けた。しばらくすると、中の方からガタガタと人が動く音が聞こえ、ガタンと勢いよく扉が開いた。扉には顔を赤くしているユウ。どうやら扉にもたれ掛るようにして扉を開けたようだ。
「けほっ、マオちゃん、いらっしゃぁい……」
「にゃ……う、本当に具合わるいのにゃ……」
「うんー、風邪……」
「ククは今日いにゃいのか……ほら、ベッドもどってよこににゃってろ」
オレはユウを押し戻すようにして部屋の中に戻すと、腕をひっぱってベッドの所まで誘導した。お、おう……部屋の中には脱ぎっぱなしの服が置いてあったり、薬を飲むのに使ったであろうコップがそのままになっていたりしている。どうやら、本当に余裕が無かったようだ。
ククは実家の関係か、寮を留守にいている事が度々ある。間の悪い事に、今はいないようで、こんな風になってしまっているのだろう。
オレは、いつもとは随分と異なる、ゆっくりとした動きでベッドに上がっていくユウを後ろからぐいぐいと押す形で無理やりベッドに押し込むと、はだけていたであろう掛け布団を全身の力で引っ張って、ユウに被せてから、ふぅとため息をついた。
「これ。預かったしょるい。つくえにおいとく」
「……うんー」
預かった書類を机に置く間も、後ろから荒い息遣いが聞こえてくる。
「……だいじょぶ?」
「……あたまいたい」
こ、これは本格的に辛そうな気がするな。オレは横のクロゼットからタオルを一枚拝借して、台所にやってきた。 ……む、こっちにも食器が溜まっている。もしかしたら、昨日から具合が悪かったのかもしれない。
それはさておき、蛇口を捻ってタオルを水に浸して、あとは、握力はお察しだけど、目いっぱい絞りー……ぃぃ……ぐ、ぬぬ……っの。ふぅ。本当は氷嚢でもあればよいのだが、流石に家探しするわけにもいかない。これで我慢してもらおう。
オレはその濡れタオルをぱたぱたとユウの元へと持っていき、ユウの額に乗せると、ユウがワンテンポ遅れて「ありがとぉ」と小さくつぶやいた。とりあえずはこれで大丈夫だろう。
「……ほかににゃんかある?」
「……だっこさせて」
「それはむり」
「けちぃ」
……まったく、油断ならんな。
しかし、傍によって顔色を伺ってみると……頬が少々赤く、息は荒そうだ。う、ん……こんな状態の奴を一人にしておくのは、流石に心配だ。仕方がない。しばらくはここに居よう。
オレは自分の荷物をクロゼットの横に置いて、ハンガーを一つ拝借して、自分のブレザーを壁に掛けると、ユウの方へと振り返った。
「にゃんかあったらよんで」
「……」
返事がない。もう一度顔を覗き込んでみると、寝息が聞こえる。先程まで冗談を言える程度だと思ったのだが、その実、無理をしていたのかもしれない。
……とりあえず、台所に溜まった食器を片付けて、何だか窓際に埃が溜まっていたようだし、拭き掃除をして、あとはー、洗濯物あるだろうし、それも持って行ってしまおう。
あとはぁ―――……。
……あれから2時間くらいだろうか。何だか気になって思いがけずに色々と家事をやってしまった。自分の部屋だとあんまり気にならないのに、他人の部屋の掃除とかだと、こう、気合が入ってしまう現象ってなんなんだろう……。不思議だ。
あれから濡れタオルを何回か水を交換したんだけど、ユウはまだ寝ているようだ。懐中時計を見ると……まだ時間はある。仕方がない、このまま本でも読んでいよう……。
それにしても、まったく。折角のコンディションだったというのに、間の悪い奴だ。ユウがいないと決闘が出来ないじゃないか。次に決闘するときは絶対にぎったんぎったんにして『まいりました』って言わせてやるんだからな。それで、オレの事をまず、絶対的な敵であり、ライバルだと認めさせて、それで、ちゃん付けをやめさせて、それでそれで……。
………………。
………………つまんない。
…………早く良くなって欲しいな……。




