80. 敵情視察 (1)
学園の昼下がり。
「む、むむぅ、よく見えにゃい」
オレは廊下でBクラスの中をしげしげと観察していた。今日はユウの奴に一泡吹かせるべく、戦場へと赴いているわけだ。
作戦はバッチリ、今日はお邪魔も無く、しっかりと果たし状も書けた。しかもクラスの奴の占いによると、運勢はバッチリだし、外は晴天!そう、ヤツに引導を渡すにはこれ以上ないコンディションなのだ。
この前はよくも、以前の女子会の話を聞いて「羨ましい!ずるい!」とか言いつつ、随分撫でくりまわしてくれたなこの野郎。今日は、絶対に勝ってやる!
と、意気込んで来たは良いものの、ユウの様子を伺おうと思ったのだが、何か作為があるのかと思うくらいに人が視線の先を塞いで先が見えない。
「……むー、そこの奴、もうちょっと横にどけっ。あーちがうそっちじゃにゃい、あっ、もうひとり……こ、このぉ」
ぐぬぬ、このままでは埒が明かない。 ……仕方ない、ここは人が途切れるのを見計らうのではなく、直接行って確かめることにしよう。
「よし……っふぉ?」
オレが意を決してBクラスに飛び込もうとした次の瞬間、地面から足がふわりと離れ、視界が一気に高くなる。これは……。
無言で後ろから持ち上げられたオレは、そのままの体勢でBクラスの中を突っ切っていき、丁度真ん中辺り、ユウのいつもいるあたりの席の椅子にストンと下された。
「にゃーちゃんいらっしゃい」
「だからにゃーちゃんじゃねえええ!」
くそ、またコイツか!名前はご存じない三つ編み女子!!
オレは奴に目いっぱい食って掛かったが、奴はニコニコするだけでどこ吹く風だ。いや……待て、落ち着けオレ。今はそれが目的じゃない。ポケットに入っているこの果たし状 (カッコいいバージョン)をユウにたたきつけなければ。
……む?しかし、周りを見回してみたが、ユウらしき人物が見当たらない。
「……ユウはどこにいんの?」
「あれ?にゃーちゃん聞いてないの?」
「きいて……?にゃんのこと?」
「ユウさん、今日欠席だよー。体調崩しているんだってさ」
「……えっ、うそ、ユウってたいちょう崩すことあるの?」
今まで会ってきた時も、体調を崩している事なんて一度もなかったのだが、どうやら今日は病欠のようだ。そういえば、今日は魔術の講習があったが、ユウの姿を見ていなかった。てっきり別の所の講習に顔を出しているものかと……。
そうか……奴が体調をねぇ……ふーん……へぇ、そう……。
「にゃーちゃん、そんな落ち込まないで」
「おちこんでねーよ!」
オレが耳を畳みながら考え事をしていたら、三つ編み女子が頭を撫でながら慰めてきた。
まったく、何故、奴の不調でオレが落ち込まないといけないんだ。ユウもユウだ、こんなコンディションの良い時に居ないとは、実にけしからん。
しかし、今日の午後はユウとの決闘で時間を使おうと思っていたから、これで予定が無くなってしまった。さて、どうしたものか……。
「……あ、そうだ。にゃーちゃんにゃーちゃん」
「そのよびかたやめろ」
「えっとー……あった。これ、ユウさんに届けてくれない?」
「……む?」
三つ編み女子は机の横に置いてあったカバンの中から、大きめの封筒を取り出してオレに手渡した。中には2~3枚の紙が入っている。内容は分からないが、恐らくは何かお知らせ的なものだろう。
「……にゃんでオレが?」
「私が行こうと思ったんだけど、にゃーちゃん寂しいなら、ね」
「ハァ?」
三つ編み女子が言っている事がイマイチ良く分からない。先程から周りの生徒からも何だか保護者的な暖かい視線を向けられている気がするし、一体何がどうなっているんだ。
…………いや、待てよ?お使い……これは好都合なのではないだろうか。
オレは今までにユウが弱っている所は一切見たことがない。つまり完全な調子の完璧超人の状態しか知らないわけだ。しかし、今まさに奴は弱っている。すなわち、今ならユウを観察し、弱点を探り当てることも可能なのでは無いだろうか。
そして、いきなり「お見舞い」なんてそんなこっぱずかしい事はしづらいが、この封筒……つまり、お使いを理由にすれば簡単に奴の懐へと潜り込み、スパイ活動に勤しむ事ができる。
さらに、当初の予定とは少しズレたが、午後の時間も有効活用できる。一石三鳥だ。 ……ふっ、今日の占いの結果は当たっているらしい。今度またお願いしよう。
「わかった!オレにまかせろ!」
「ふふ、元気になって良かった!それじゃあにゃーちゃんよろしくね」
「おう!」
よし、そうと決まればここに用はない。オレは三つ編み女子に了解の返事をすると、両腕に封筒を抱え込んでぴょんと座らされた椅子を飛び降りた。目指すはユウの部屋だ。待ってろ必勝の弱点!
オレはくっくっくと含み笑いをしながら、教室の外へとぱたぱたと駆け出した。




