78. いらっしゃいませ (2)
オレとククは、たちまち上がった黄色い感嘆の声に迎えられ……というか、引っ張られ、あれよあれよと部屋の中に引きづりこまれた。どうやらこの恰好は大盛況のようで、みんな一様に可愛い可愛いと大合唱をしながら、質問攻めをしている。
「凄い嬉しいんだけど、どしたのコレ!?」
「……ケーキの為のとーとい、ぎせい、にゃ」
「??? そっかぁ?マオちゃん今日は自分の事、オレって言わないんだねぇ」
「きょう……は、マオっていえって言われてる、にゃ」
「似合ってるよぉ可愛すぎ!ね、ね、何してくれるの!?」
「……それは考えてにゃい……にゃ」
……既に羞恥心が限界突破していて、ククを盾にするように後ろにしがみついて、全身を見せないようにしているのだけれど、どうやらそれも何に刺さったらしく、周りの目が、こう……生まれたての子猫を見るような目になっている。一方のククは照れてはいるようだが、何故だか嬉しそうである。
「でも、さすがにお料理とか運ぶの大変じゃない? ……あ、そーだ!」
「……いやにゃ予感」
「アレ、食べさせてほしいなぁ~……なんて。ダメ?」
「む? ……まぁ、それくらいにゃら。にゃ」
「やった!」「あ、ずるい!」「わたしもー!」
ふーむふむ、どうやら皆、お皿に盛り分ける係をやってほしかったらしいな。そうだなそうに違いない。まあ、ちょっと机は高いけれど、少量乗った皿を運ぶくらいならばオレだってできる。
さて、トングはー……無いからフォークで良いか。
……なぜ、期待の目で見られているのだろうか。そして、なぜ、オレがフォークで料理を差した所で、こちらにずいっと顔を向けているのだろうか。
……いや……うん、分かってはいました。お皿に取り分けろってことでしょ?とごまかそうとしたけど、皆さん準備万端なようで……。さすがに、ごまかし切れなさそうだ……。
……し、しかたにゃい……まぁ、逆じゃないだけマシだろう……。
「……あ、あーん……」
「……んー!美味しい!やば、何かに目覚めそう……!」
目覚めるってなんだ目覚めるって。現在、この空間は盛り上がった空気のせいかどことなくおかしい感じになっている気がする。
……っていうか、皆ノリが軽い。服装もどちらかというとラフだし、貴族のお茶会的な何かを想像していたけど、どうやらここでの女子会というのは割と気軽なものだったらしい。くっ、あのままカラクのケーキがバレなければ服を理由に逃げられた物を……っ!
「じゃ、はい。マオちゃんも」
……なぜ、フォークを持ったのだろうか。そして、なぜ、先程の料理を差して、オレの目の前まで持ってきているのだろうか……。いや、逆もやらせるんかい……。ちらりと顔を見ると、純粋な期待に満ちた瞳でこちらを見ている。
「……あむ」
んー……んむ、一口大のチキンソテーだろうか。味は深みがある感じで、とてもおいしい。流石母さんのプロデュースする店なだけはある。しかし、オレの口には一口が少し大きかったから、もごもごと口を大きく動かしていると、対面では複数の女子達がニコニコとした顔でこちらを眺めている。
「一生懸命お口動かしてる……はぁぁ~」
いやどんな感情だ。こちとらただお肉食っているだけだ、見せもんじゃねぇぞ。
ゆっくり味わいたいから、ちょっとうつむき加減に食べていたが、それが恥ずかしがっているように見えてしまったのだろうか、皆してニコニコしている。凄まじいアウェー空間である。
……さて、まだお客様どもはキラキラした目で待っていやがるわけだ、早く終わらせてしまおう―――。
無事に全員終わっただろうか……。こんな感じでじゃれあっている間も、お店の人たちが注文していたであろう料理を運んでくる。ククはたまに手伝っていたようだが、それでもこちらで談笑している時間のほうが長い。どうやらオレとククは元々お店としての戦力にはカウントされていなかったようだ。はぁ……絶対料理を運んだ方が楽だった。後半の方はもう慣れてきていたけれど。
今は皆お腹いっぱいになったのか、思い思いに色んな所できゃいきゃいと会話をしている。オレは食べさせる度に食べさせられるものだから、すぐそばの長いソファ状の椅子に座って、お腹休めの状態だ。
「そいえばマオちゃんってなんで耳と尻尾生えているの?」
そんな中、シィがオレに話しかけてきた。何だか、暗黙の了解みたいな感じになってきて、みんなツッコミすらしなくなってきたが、よく考えたらコレ、今まで初めて尋ねられた気がする。周りの女子らも気になった様でこちらに耳を傾けている。まぁ、聞きたくてもなんとなく聞けなかったという所だろう。
「魔法つかったらはえてきたにゃ」
「魔法……って。もぉ、魔法なんてお伽噺だよぉ~。マオちゃんってミステリアスなのに面白いよねぇ」
「む。しんじてにゃいにゃ?」
……と言っても、まぁ、荒唐無稽な話なのに違いはない。そもそも、本当にどんな魔法だったのかも良く分かっていない。オレ自身こんなことになってしまって今だ困惑中だ。信じられないのも当然だろう。
「それよりは、実はにゃんこの国のお姫様、なんて言われた方がしっくりきそうだもの」
「にゃんだそのくに……」
そんなファンシーな国の姫になった覚えは無い。というか、姫じゃない。じとりとオレが呆れた顔で見ているのに気が付いたシィは可愛い可愛いとオレの頭をわしゃわしゃと撫でている。
頭はヤメロとその手を払いのけ、あちらこちらと体を揺らしながら逃げまどっている所、丁度ククが台所のお手伝いを終えたようで、手をプラプラと揺らしながらこちらに歩いてきて、オレの横にトスンと座った。
「マオはー……どちらかというとこっちのほうが好きかの?」
どうやら先程のやり取りの一部始終を見ていたようだ。ククはすっとオレの顔に手を伸ばすと優しく頬の下あたりをさすった。
「んにゃっ!?やっ……はうっ、うにゃ……ゴロゴロ……あ、ちがっ!」
ククの手はちょっとひんやりしているが、よく手入れされているのか触れられた感覚が柔らかい。そして、オレの頬を撫でるその手つきはテクニシャンというのがぴったりだ。思わず気持ちとは裏腹に、喉からご機嫌な音が漏れてしまう。こ、この、いや、しかし……はうぁ。
「これが拝めただけで来た甲斐があった」
「寿命が10年延びた」
そんな攻防を見た周りの女子達は何やら訳の分からん事を呟いている。
いや、ほ、ほんと……たすけっ、こ、これ以上はダメだからぁぁぁぁ!!!




