77. いらっしゃいませ (1)
ルーンウィンド、王都1号店。この店は、連日賑わっており、従業員も日増しに増えている。
店の雰囲気は、一言で表すならば「お洒落」である。木材をベースとした建物はシックさというより、ナチュラルな清潔さを生み出しており、端々に添えられた緑と花はよく手入れがされている。また、店に置いてある小物類は厳選したであろうアンティークや細工類であり、一級品だ。
区画ごとに趣を変えているらしく、何度来ても楽しめるようにと工夫が凝らしてあり、統一感が無くなってごちゃごちゃしそうなものなのだが、何故だかそんな感じもなく、まるでテーマパークのようだ。
大きさは他のバルに比べれば少々大きめに作られているのだが、机や椅子はずらっと並んでいる訳ではなく、ある程度のゆとりを持った配置になっている。また、奥には広めの個室スペースも設けられている為、宴会なども楽しめるようだ。今回はこのお店の個室で一番大きな部屋を貸し切っているらしい。
そんなお店の従業員スペース。
学園街のマリ監修店の例の魔窟から一着の制服……と呼ぶには憚られる物を身につけさせられたオレは今、従業員のお姉さんたちにもみくちゃにされている。
制服……どうみても、ロリータなのだが、白を基調にしたレースのフリルがあしらわれていて、小さなフリルエプロンに薄い青のリボンが取り付けられている。もはやエプロンとしての体を成していないだろと思うのだけれど、「かわいいからヨシ!」という事らしい。よくねぇ。
スカートは丁度丈が膝にかかるくらいのもので、こちらも各所にフリルがあしらわれていて、横についているワンポイントのポケットには肉球のアップリケが縫いつけられている。
尻尾を出すところもしっかりとついていて、根元は青のリボンがついている。尻尾の先もおしゃれをという事で、なぜかリボンと小さな鈴も取り付けられ、もはや何をかいわんやである。
髪型は、制服らしきものと揃えるようなカチューシャ型のヘッドドレス。毛先の方を何やら良く分からない魔道具でゆるく巻いたふわっとした髪型にされていて、歩くたびに髪がさらりではなく、ふわっと揺れる。なんだこの謎技術。そして唇には、薄くリップが塗られていて、甘い香りがする。
……結論。めっちゃ盛られた。逃げたい。
お姉さんたちの可愛い攻撃を避けようと、横をみやると、オレとは色調の違う制服に身を包んだククがふんふんと鼻歌を歌っている。何やら随分と乗り気で、先程から鏡の前でくるっと回ってみたり、ポーズをとってみたりしているようだ。こちらも可愛いと先程から言われていて、満更でもなさそうだ。本人曰く「こんなの実家では絶対にやらせてもらえんからのー、良き良き」との事である。
ちなみに授業参観という事で、母さんも今日はここの一室で仕事をしており、逃げ出そうものなら、一時間では済まないお説教が待っているから、どのみち逃げることはできない。ぐぬぬ。
そして、マリはというと……昨日、どこで知り合ったのかは分からないのだが、同じクラスのリジェと向こうで何かを話し合っていたようで、ちらっと聞いた内容だと「試作1号が完成した」とかなんとか……。
今日はそれの話に出ていた物なのかは分からないけれど、何やら眼鏡のレンズのような何かがついた箱……?のような物を色んな所に取り付けている。なんだアレ……。本人曰く「上手く出来たら、報酬とする予定」だそうだ。意味が分からんが……害はない……よな?
そんなこんなで人が慌ただしく動いている中。時を告げる鐘がカランカランと音を立てた。シィたち、女子会の参加者達がそろそろやって来る時間だ。前もってシィにはククから「サプライズ……?があるから、わしとマオは先に店で待っとるから」という話がされていて、オレとククが出迎える事になっている、らしい。
ま、まずいぞ……このままでは、マリのいじわるを本当にやることになる……。何とかこの惨状を打破する方法は……。
「にゃ、にゃあークク。オレ、おにゃかイタイ」
「んお? ……む、嘘じゃな?いかんぞ、マオ。ほれ、笑顔で接客!」
「ぐ、ぬぬぬ……」
精一杯の嘘も一瞬で見抜かれた……。
そう、この恰好だけでも穴を掘って入って蓋して優雅に暮らしてやりたいくらいなのに、マリから色々とヤレと言われた事があるのだ。具体的には以下の通りである。
1.今日はその恰好のままいること
2.接客が始まったら自分の事は「マオ」と呼ぶこと。
3.語尾に「にゃ」をつける事。
4.一番最初に指定された言葉をちゃんと言う事。
……曰く、「反省と自覚を促すための措置」だそうなのだが、絶対ただのいじわるだ間違いない。
しかし、破ったら次は「ばにぃすぅつ」とかいう民族衣装を着せるからと言われている。マリの言う「ばにぃすぅつ」が何なのかは良く分からないが……なんというか、響き的なモノがヤバさを物語っている気がいて、結局ロクな抵抗もせずに頷いてしまったからやるしかない……。
間もなくして、入口の方から「わぁー」という黄色い歓声と話し声が聞こえてきた。どうやら、到着してしまったらしい……。
「よし、いくぞー」
「や、やだぁ……」
「ほれ、わがまま言うな」
「にゃうあぁぁー……」
オレが更衣室の椅子にしがみついていた所にククがひょいとオレを持ち上げると、すたすたとシィたち女子会メンバーの居る部屋へと歩を進めだした。
廊下を抜け、少し歩いた先。例の大きな部屋が見えてきた。ククはすぐそばにオレをストンと下すと、ノックをしてから、返事を待たずにバンとさっさと扉を開けた。どうやら辞退した者は居なかったようで、部屋には約20人くらいの同学年の女子達が集まっている。ユウがいないのがせめてもの救いか……。
しかし、それでもこの大人数……オレとククの一点に視線が集まり、尻尾がぼわりと膨らむ。
「いらっしゃいませ! ……ほれ、マオ」
あ、アレを……い、言うの……?この状態で?う、うううぅ……うぅー……。し、しかたにゃいぃ……。
「……ぃ……いらっしゃぃませぇ……にゃ。きょ、きょう、は……オ……マオが、ごほうし、しましゅ……にゃ」
ぷるぷると全身を震わせて、涙目で睨みつけながら言い放ったソレに、一同は何やらポカンとしているようだ。ほら絶対こういう反応になるじゃんかぁ!おのれマリめェ!!
「…………か。」
…………か?
「「「「「「かわいいいいいぃぃぃぃ!!!!」」」」」」
「んにゃぁぁぁぁああああ!!!?でじゃヴにゃああああ!!!?」




