73. カフェテリアにて (1)
あけましておめでとうございます!今回はマオ視点となっています。
(コロコロ視点を変えない方がいいのは重々承知してますが……未熟、未熟故……!)
あれから、数分。
オレはあふれ出る涎を押さえつけながら、例のイケメンに手を引かれ、先程の王都外部の通りを抜け、中央街の方へとやってきていた。
中央街といえば、王城のお膝元。つまり、貴族達が住んでいるエリアとなる。という事は、例の純白の乙女とは、やっぱりお高いもののようだ。正直、母さんの仕事の用事以外ではほとんど立ち寄らないから、土地勘がない……というか、一般的な市民はほとんど立ち入るような事は無いのではないような場所だ。つまり、この男は、何かしら貴族に絡んだ人物、という事になりそうだが……本当にこの男ナニモンだ?
「どこまでいくんだ?」
「おっと、お嬢様はお疲れかい?」
「だからそのよびかたやめろ」
……うん、なんというか、さっきから質問してはこんな感じにはぐらかされてるんだよなぁ。このままついて行って到着した店が、怪しげだったらさっさと逃げ出そう。まぁ、正当防衛ってヤツだったら、多少魔術をぶっぱなしても何とかなるだろう。
オレがヤツの一挙手一投足を見つめる中、男は「おっ」と呟いて、少しだけ歩く速度が早くなった。そして、少しオレから離れたところで、手のひらを表に上げ、にかっと笑った。その手の指し示す先…は、少々派手目のお店。店の外装は石造りの柱がつるつるに磨き上げられており、白を基調に装飾が施されている。玄関は扉の上に小さなステンドグラスが嵌っていて、取っ手は銀の装飾。看板には宝石の意匠とティーカップの絵に「ジュエリ・カフェ」と書かれている。若干宝石店や魔核店みたいで紛らわしいのだけれど、しっかりとケーキも食べられそうなカフェのようだ。
うーん……しかし、随分とお高そうで今の恰好的に滅茶苦茶不釣り合いなお店だ……それこそ、スーツとか着て入った方がいいんじゃないかと思うんだけれど…。
「さ、入って話をしよう」
「……ん」
……まぁ、コイツの恰好も大概だし……何か言われそうだけど、大丈夫だろう。
扉をくぐると、華奢な飾りの壁に、掃除の行き届いた綺麗なエントランスになっていた。横には生け花が植えてあり、正面の机には小さなベルが取り付けられている。カフェにこんなエントランス付けるのかぁ……と感心していた所、男は机のベルを摘まみ上げてチリンチリンと鳴らした。すると、程なくして、奥のカウンターから褐色肌の女性が現れた。制服らしき恰好をしているから、恐らくここの店のウェイトレスさんだろう。
「やぁ」
「いらっしゃいませ。お席へご案内いたします」
ウェイトレスさんは男を見るなり頭を下げて、こちらですと軽く会釈をしてから、案内を始めた。
……いや、普通はこんな店にこんな恰好で入るんだから、何かしらあってもおかしくない気がするんだけど……何故かはわからないけれど、随分とすんなりと入れてしまった。この店が普段から来る人拒まずなのだろうか?それとも、意外と高くないお店なのか??
オレは頭にハテナを浮かべながら二人についていくと……階段を上がった先、いかにもVIP席ですと言わんばかりの個室に案内された。ウェイトレスさんをちらっと見上げてみると、微笑んで「どうぞ」と言われたから、間違いなくこの席らしい。うわー……居心地わる……。
しかし、ケーキの為だ。居心地悪そうな椅子だろうが座ってやろうじゃないか。オレは流石にこういう店内で帽子もアレなので、ベレー帽を外してすぐそばの壁の帽子掛け……。
……たかい……。
「まぁ……。あ、いえ。帽子、お預かりいたしますね」
オレがハンガーを見上げてフリーズしているのに気が付いてか、ウェイトレスさんがオレの猫耳に驚きつつ、帽子を預かってくれた。そして、ハンガーに掛けると、今度は多分届かないのだろうと察してか「失礼いたします」とオレの体を持ち上げて、席に優しく座らせてくれた。気が利いているとは思うけれど……ぐぬぬ……屈辱。だ、だがまだケーキ食べてないから帰らんぞ。
「ご注文がお決まりになりましたら……」
「ああ、ホワイトを1つ。あとはー……君、熱い紅茶は飲めるかい?」
「のめるわい!」
「だ、そうだから、サイランを2杯」
「かしこまりました」
男がメニューを渡される前にさらりと注文を言うと、ウェイトレスさんは、綺麗な所作で頭を下げて、静かに厨房へと向かっていった。サイランは地名。スーディーン首長国にある紅茶の産地だ。確か実家でも相当量扱っていたはずだけれど、結構良いお値段がする茶葉だ。ホワイト……というのは良く分からない。ということは、これが例のケーキなのだろう。それにしてもコイツ、随分と手慣れている……常連か、お店の関係者なのだろうか。
「あんたほんとにゃにもん?」
「はっはっは。では、名乗ろうか」
オレが訝しげに尋ねたのを皮切りに、男は大仰に笑って帽子とサングラス、羽織っていた野暮ったいマントを脱ぎ去った。隠れていた素顔が明らかになり、男は会ったとき同様のにかっとした笑顔を見せた。
……といっても、サングラス程度だから、ある程度見えていたのだけれど…。
「改めて。俺の名前はカラク。カラク・リシッタ・ディアモンドだ」
「カラク・リシッタ……ん?リシッタ?ククの家の人?」
「うむ、ククは俺の妹じゃな。いやなに、放っておいた小鳥から伝言を預かってな、お主の事は知っている。ククがいたくお気に入りのようだ、とな。まぁ、今日見つけたのは偶然じゃが、例の事もあるし、丁度良かったからな」
……ほぇー……。この金髪イケメンで、小鳥さんと会話するけったいな人がククの兄ちゃんなのか……素顔を見るに、結構歳が離れていそうだ。あと、先程とはうってかわって、口調が砕けている。古風な話し方はスーディーンの方言だ。今までは無理してアルカの標準語に合わせていたのだろう。ということは、あのヘンテコな恰好の意味は、お忍びだ、という事のようだ。なんというか、変装下手だな……。
「……言っとくが、小鳥は護衛という意味じゃ。あと変装下手だとか思っとらんか」
「……そんにゃコト、オモッテにゃいヨ」
……一体何故、オレの考えは読まれてしまうのか、まったくもって謎だ。しかし、この男……カラクがククの兄ちゃんだということは分かった。けれど、オレをここに誘い出した理由が勿論あるはずだ。
「で、はにゃしって?」
「ああ。単刀直入に言おう。マオ、うちに嫁にこないか?」
…………。
は、ハァ!!? よめぇ!!?!?!?




