72. マリ・ウィンディさんの到着
こ、こん……ふぅ……こんにちは、マリ・ウィンディです。
馬を走らせる事数十分。ようやく、王都に到着しました。「とりあえず速い馬を」と、リクエストした所、確かに速かったのですが、道中、上下左右にがっくがくに揺らされ……うう、お尻が痛い……。でも、他ならぬ兄さんの為です。このくらいは我慢。無事だったなら、この分は後でたぁっぷりと徴収させてもらいます。
さて、件の馬は先程、王都側の厩舎の方へ返してきたので、あとは服と髪を整えながら、商会本部へと急ぎましょう。
アルカ王国王都、総合商工会議所、通称商会本部。ここは、アルカ王国のみならずアイミス連合の富が集まる場所。見た目は最新建築様式を採用しており、堅牢かつ重厚な造り。言ってしまえば、とても物々しい感じです。
大仰な門をくぐると、広々とした筒型のエントランスが見えてきて、ここで会議所の予約、会合の出欠確認などが行えます。私は幾度か来たことがあり、勝手は知ってはいますが……やはり、あまり来たくはない所ではあります。お母さんも「しょうがないから行くけど、私は現場のほうが好き」だそうで、うちに会議所の人が「お願いだから出席してくれ」と直談判しに来ることがよくありました。
見渡してみると、エントランスでは人があちらこちらで移動しており、何やら急かされるような感覚があります。とりあえず、フロントの方は話しかけても問題なさそうなので、こちらで伺いましょう。
「すみません、ラミさんはどちらに?」
「……あら?ここは王都総合商工会議所です。子供の来るところではありませんよ?」
「いえ、わたしは……」
「……優先順位がありますので、後で伺いますね」
……あ、らら。ぶっきらぼうにフラれてしまいました。新人さんでしょうか。今の恰好は馬に乗ってきたので、コート姿だったのが良くなかったのかもしれません。ふむ、困りました……。
「ひぇっ……!ちょ、ちょっと、代わって!マリお嬢様ですね!ラミ様は今は第5応接室を予約されています!」
「あ、はい。ありがとうございます」
私がどうしようかと手をこまねいていると、それに気がついた隣のフロントの方が血相を変えてこちらに飛んできました。
ふむ、こちらの方はどこか見覚えが…あ、商会の方々がお母さんに直談判しに来た時に、一緒に来ていた方でしょうか。何やら気を使わせてしまった様子……ですが、結果的にお母さんの居場所は分かったので良しとしましょう。
(あの子はウィンディ商会の会長の娘さん!!)
(えぇ?!)
……ひそひそときこえますね。第一声で名乗らなかった私にも落ち度はあるはずなので、フロントの方に悪い事をしてしまったようです。後で正式に謝罪するとして、今は急ぎましょう。
商会本部はかなり大きな建物であり、応接室は十数室、会議室、小ホールなどの設備が乱雑に配置されており、正直迷いやすい構造になっています。私は館内見取り図を見ながらなるべく早足でお母さんのいる応接室へと向かいましたが、それでも数分歩くほどです。第5……ここか。
私がノックして部屋を開けると、すぐそばで母さんが複数の人たちと立ちながら話合いをしていました。風貌からして、警備兵や衛兵の方。そして、制服姿ではない方々は恐らくこのあたりの商家を取り仕切っている方、でしょうか。恐らく、情報の収集をしていたのでしょう。
「お母さん、兄さんの足取りは?」
「あら、マリ。 ……今、目撃情報を片っ端から集めた所。確かに銀髪の幼女が男に連れられ、中心街のほうへ向かったという情報があったわ」
……中心街。王城を囲うように整備されているこの場所は、貴族階級の人たちが住んでいるか、別荘を立てている所です。 ……となると、相手は貴族に雇われた男といったところでしょうか。
状況はどちらかというと悪い方向のようです。貴族、いわゆる特権階級の人々は腹の内を探られるのを極端に嫌います。また、格式という盾があるせいで、強硬的な捜査もできない。色々と時間がかかってしまうのです。やましい事がないのならシャムロック侯爵様のように堂々としていてほしいものですが、こればかりはどうしようもありません。
「…………厄介……」
「ホントよ……。はぁ、あの子、今は幼い女の子だという事をもっと、しっかりと叩き込むように教えないとだったわ……。まさかこんなに、こんなに危機感が無いなんて……」
お母さんが目元を抑えながら、深めのため息をついて、顔を横に振りました。元はちゃんと15歳の男子ですし、お母さんがため息つくのも無理は無いのですが……。
兄さんは元々ちょろ……いえ、純粋な性格なので、騙されやすいのです。こうなる前に手を打つ予定のポッポくんZだったのですが、今回は後手に回ってしまったわけなのです。まったく手のかかる兄兼妹を持つと苦労が絶えません。
「急用により失礼いたします!マオ様の居場所特定出来ました、中心街西の高級カフェテリアのようです!」
……っと、お母さんと腕組みしながら次の一手を考えている所で、ノックをしてからすぐに入ってきた警備兵と思わしき方が、早口で情報を伝えてくださいました。さすがお母さん。この短時間で居場所を特定まで行くとは。
……それにしても高級カフェテリア……?なぜそんなところに……。しかし、西のカフェテリアであれば、ここからそう遠くはありませんし、特に貴族の息もかかっていません。状況は好転したようです。となると……。
「「カチコミね」」
どうやらお母さんも同じことを考えていたようです。
……周り人達の視線が「この親にしてこの子在りだな」というように見て取れますが、今は緊急事態なので、放っておきましょう。
次辺りからマオ視点に戻ります。




