71. マリ・ウィンディさんの始動
こんにちは。マリ・ウィンディです。
緊急事態です。緊急事態が発生いたしました。
丁度学園街のお店で在庫管理を行っていた所、私が秘密裏に接触を図り、信任と裏のボスとしての地位を得ていた「マオちゃんを見守る会」から、連絡が入りました。伝書筒からの封書によると、王都で兄さんが一人で知らない男の人と手を繋いで、どこかへ歩き去ったというのです。 ……流石の兄さんもそこまで危ない事しないだろう……と高を括っていたのが裏目にでてしまいました。
男の容姿は褐色の肌に金髪。顔には大きめの眼鏡をかけていて、遠目では顔の特徴は不明。服装は丈が長く、全身の隠せそうなマントにハンチング帽。
……あ、怪しい。怪しすぎる。なぜ兄さんはこんな奴について行ってしまうのでしょうか……というか、兄さんは今、可憐で幼気でにゃんこな妹だという事を忘れているのではないでしょうか。
…………忘れていそうですね……。
いけません。このままでは、兄さんが誘拐され、身代金を要求されたり、人には言えないようなエッチな事をされかねません。早急に何とかしなくては。
……しかし、私が飛び出したところで、広い王都の中から兄さんを探し出すのは、恐らく無謀に近いでしょう。ここは……冷静にお母さんに連絡を取りましょう。
それに、もしかしたら、金髪……という所しかあっていませんが、彼の見間違いでお父さんだったという可能性や、単純にお母さんの仕事の遣いの方だったという線も考えられます。
さて、そうと決まれば行動あるのみです。丁度良い物の開発が最近終わったので、これを使いましょう。 ……我が家の最新ホットライン、ポッポくんZを使う時が、早々とやってきたようです。
これは、伝書筒の前には主流だった伝書バト形式の魔道具。対応する魔道具を持った相手の所に飛んでいって言葉だけ伝えるもの。しかし誤送、飛んで行った先での物の破壊、伝書の紛失など、事故が多く発生する事から現在は廃れてしまいましたが、このポッポくんZは障害物をきっちり避け、確実に相手の元へと届く、信頼率99%まで高めた特注品。物凄いスピードでお母さんの元に飛んで行って言葉を伝えてくれる、まさにZな代物なのです。
開発……もとい、改良されて、試験が終わったのが最近だったので、そんなにすぐに使うことはないだろうと、兄さんにはまだ届けていなかったのですが……こんなことなら、すぐさま兄さんにも持たせるべきでした……。
……今更悔やんでも仕方ありません。さて、ポッポくんZの使い方は簡単。スイッチを押して、目が赤く光ったら伝えたい声を録音し、録音が終わったらもう一度スイッチを押して、外に放つだけ。後は自動で母さんの元まで飛んで行ってくれます。
「お母さん、緊急連絡。兄さんが知らない男の人について行ったという情報が入ったの。男の容姿は金髪褐色肌、眼鏡にハンチング帽。服装は丈の長いマント」
録音を終え、私が勢いよく外へとポッポくんZを投げると、ポッポくんZはバサッと翼を広げて天高く飛び上がり、そのまま王都の方へと光のような速さで飛び立っていきました。
……あら?お母さん、今は王都の方角にいるのでしょうか。てっきり実家の領で執務に励んでいるものかと……。まあ、それならば、なお都合が良いです。後は連絡を待ちましょう。
しばらく……という程待ちませんでした。私がポッポくんZを放ってから、約10分くらいでしょうか。空を見上げながら、外で待っていると、ポッポくんZが戻ってきました。どうやら無事届いたようです。
さて、ポッポくんZのスイッチを押し、録音を再生……と。
『マリへ。お父さんは今、王城でお仕事中。私もそのような人物はマオの元へと送っていないわ。 ……丁度、王都の商会にいるから、いまからお母さんが見つけ出します』
……希望的観測は外れていたようで、どうやら、本当に緊急事態のようです。それにしても、再生された音声の最後の声色が……修羅のソレだったので、お母さん、これはマジモードのようです。
お母さんのマジモードは、何度か経験しています。直近だと、私がしつこく求婚され、あわや誘拐……みたいな話があった時でしょうか。あの時のお母さんは氷のような笑顔でプチプチと相手の逃げ道を潰していき……いえ、これ以上はやめておきましょう。
……と、頼もしすぎる助っ人を得たわけではあるのですが、流石に私もこのまま指を咥えて見てるだけではいられません。私の、私だけの妹。可愛い可愛いマオちゃん……そんな彼女をいじめていいのは私だけなのです。どこぞの馬の骨とも知らない野郎になんて、絶対にあげません。
「皆さん。私は急用が出来たので、このまま出掛けます。お店はお願いいたします」
私は最近雇った方たちと、ウィンディ商会の管理官に挨拶を済ませてからささっと荷物をまとめ、店を後にしました。まずはお母さんと合流しましょう。王都の商会本部で、今、動いているところでしょうから、そこへ行けばいいはず。
馬車……では遅いですね。久しく乗馬はしていませんでしたが、馬を借りて乗っていってしまいましょう。
……こういった時、不便なのですよね……いっそ、最近開発されている鉄道を小さくした感じの乗り物を作れないものかしら……。
……今はそれどころではないですね、先を急ぎましょう。




