6. お家へ帰ろう
ここは学園警護の衛士達の集う取調室。しっかりとした石造りに、硬化の魔術がかけられており、並の人間では脱走や脱出をすることは困難だろう。あの後、あえなく連行されたオレは念のためという事で魔封じの首輪を付けられ、石畳の上に正座している。
……まあ、取り調べとお説教である。
「で。さっきの魔法は君のもので間違いないのだね?」
「……ハイ」
教師であろうモノクルを耳の横にぶら下げた30代くらいの男性の問いに素直に頷く。こってりと絞られたオレはもうすでに反抗の意思は全くない。ユウは別に取り調べを受けたらしいが、特に問題行動無しということですでにここにはいないようで、事の原因のオレは追加調査という事で、教師と対面で話している。教師はふむと一言発するとこちらをまじまじを観察している。
「不思議なものだ。確かに入試の際の君の波長とぴったり一致しているし、本人という事になるのだが……まあ、詳しい事はもっとちゃんと調べてもらわねば分からんな。とりあえず、今日は帰りなさい。ほら、首輪は外そう」
「……ゴメンにゃサイ」
よ、ようやく解放された……。が、この後も問題がある。というのも、この魔術、解除方法がさっぱり分からない。この状態は、魔術で体を変化させているような状態だと思うのだが、もうあれから約3時間ほど時間が経っていて、それだけ時間が経てば治るかと思っていたら、全く治る気配がない。
あと、先ほど外されてしまったが、魔封じの首輪を付けられれば、術式を打ち消すだろうから、流石にこれならば治るかと思ったが、なんと、これでも治らない。そうなると、治るまでの問題は様々、星の数ほどあるのだが、目下でとても大きな問題がある。
「……これ、家族ににゃんてセツメイしよう……」
……うん、下手すると、帰ったところで自分だと信じてもらえず、最悪町の衛兵に突き出されたりする気がする。いや、さすがにこの見た目で突き出される事は無い……か?となると、妙な迷子扱いだろうか。
正直、鏡を見ていないし客観的な自分を見たわけではないから、容姿がどんな事になっているかは見れる範囲でしかわからなかったが、髪を見た感じはそのままの自分の色だ。そこに賭けて何とか信じてもらうしかない。
はぁ……帰り道が遠い……。気持ち的な意味もあるが、体が小さくなったせいで、物理的にも遠い。なーにが自己強化だ……むしろ弱体じゃねぇか……。乗合馬車の停留所……まだか……。
―――……。
着いてしまった。
乗合馬車ではぎょっとした顔をされたり、不思議そうに見つめられたり、色々と大変だった。一縷の望みで、帰っている最中に術が解けるハッピーエンドも夢想していたのだが、猫っぽい動物の耳と尻尾は未だに自分にくっついているし、背丈も変わらなかった。現実は非情である。
玄関の扉の前、オレは緊張して硬直していた。握る手に力が入って、鼓動が早くなる。辺りはもう暗く、どっぷりと夜の帳が降りていて、この状態で放り出されるのは流石にきつい。大きなため息をついた後、意を決して、扉に手を掛け……か、掛け……こ、この、高……回しづら……!
と、悪戦苦闘しはじめると、同時に扉が後ろに引き込まれて、ドアノブに手を掛けていた自分も同時に家の中に放り出された。驚いて上を見ると、母さんがこちらを見下ろしているのが視界に飛び込んできた。思いがけないエンカウントに冷や汗が流れたが、やっとで声を喉の奥から紡ぎ出す。
「た、ただいま……母さん」
……気の利いた言い訳を馬車の中で必死に考えてきていたのだが、全部吹き飛んでしまって、当たり障りのない台詞になってしまった。
……ど、どうだ……?
「……っぷ、あははははは!ほ、ほんとにかわいくなってる!!!ひ、ひー!あはっ、あははははは!!!」
「……にゃっ……笑うにゃあああああ!」
「あはははは、ご、ごめん、ごめ…ふっふふふ、や、やっぱ無理!あっはははははははは!!!」
「んみゃああああああああ!!!!!」