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68. 治験 (5)

 

 朝。


 ククは浅い眠りから覚め、意識がだんだんと鮮明になっていた。しかし、その過程でなにやら体に違和感、片腕だけ妙に熱がこもっているように感じ、ククは「む?」と小さく呟いた。


 ぼんやりとした意識の中、カーテンの隙間から差す薄明りを頼りに顔だけ横へとやってそれを確認すると、銀の髪を猫耳パーカーのフードから豪快にはみ出させた幼女が腕にきゅっと抱き着いているのが見える。どうやら、抱き枕にされていたようだ。


(……なんだ、この感覚は……)


 そんな中、腕にマオを引っ付けたククは心の奥底から湧き上がる何か不思議な感覚に頬をほんのりふやけさせながら考えた。


(はっ……これが、母性……!?)


 ……結論は、あらぬ方へすっ飛んだようである。しかし、ここでククは更に考えた。


 母性、それはすなわち母たる素質だ。何やら多幸感に包まれている今であれば、こう、体の中のそういうものに作用する物質が働くのではないかと。


 ククの悩みの一つ。それは幼児体型だ。今、横にくっついている本物マオと比べれば、差は歴然としているが、この世界の一般的な同学年の学生と比べれば、背は低いし、肉付きも良くない。効果音にすると「ストン」だ。


 それが今、ククの言う所の母性の目覚めにより、体にメリハリ……そう、あの憧れの乳が手に入るのではないかと。今まで散々体の肉付きが良くなる食べ物だとか、育乳だとか、背を伸ばすために牛乳を朝晩飲むだとか、そういったものをこっそりと続けてきたが、今この瞬間が一番自身の中の栄養という栄養が大人の体になるべく躍動しているのではないかと……!


「むふふ……」


 少々怪しげな笑みが零れたククの声に反応してか、マオの向こう隣りのユウがもぞもぞと動き出し、ゆっくりと布団をずらしながら、のっそりと起き上がった。


「ふぁ……ん、ククちゃんおはよ……」


 欠伸をしながら、ユウはによによとしながら、まだ寝ているマオに四つん這いになって近づいて、フードから豪快にはみ出ている銀髪をさらりと横に流した。二人に観察されているマオは、そんなことは露知らず、少し身じろぎした後、コロンと仰向けになってまたスースーと寝息を立て始めた。


「……はー……ククちゃんとマオちゃんで倍可愛い……」


 ユウは元来可愛いもの、特に可愛い女の子や人形が好きで、少々……いや、大分拗らせている所がある。一方、丁度自身の体型について考えていたククは横の本物(マオ)とセットにされた挙句、四つん這いになった途端に見せつけるように谷間が見えるユウを敵視するかのように睨みつけた。


「この……乳魔人めが……!」

「えー……ククちゃんみたいに小っちゃくて可愛いのがいいよぉ」

「やかましいわ、貧乳の敵!」


 自身の邪なる願望に水を差されたククは少々狂暴になっているようだ。仰向けのマオの腕からすっと抜け出して、疾風の如くユウの方へ迫ると、パジャマの上からでも分かるハリのあるそれ()をぐわしと両手で掴みあげた。


「この、この肉が!このにくがぁー!」

「っひゃん!ちょ、ククちゃんんん!?」


 僻みマシマシで食ってかかる狂犬(クク)にユウが珍しく圧されている。そんな喧騒を聞いたからか、寝ていたマオが小さく「うぅん」とうなされたところで、二人のプロレスは終了し、部屋は一転静寂に包まれた。


 二人は顔を見合わせ、目線で会話したのち、コクリと頷いて、マオの両隣の位置に音を立てないように戻った。


 ククがベッドの横に引っ掛けてある懐中時計を開けると、まだ6時過ぎといった所。今日は休校日だから、マオはこのまま寝かせておいても問題ないだろう。ククはうなされた拍子に顔に掛かってしまったであろうマオの前髪を優しく横へと流しながらはぁ……と大きめのため息をついた。


「はぁ……マオ、お主はこのまま小さくいておくれ……」

「あ、それは賛成」

「お主には聞いとらんわ!」


 ククはユウの一言に思わず声を上げた後に、はっと口を両手で押さえ、大急ぎでマオの方を見た。 ……どうやら、セーフだったようで、平和そうな顔をして眠っている。起こさずに済んだと、ククは胸を撫でおろすと、むすりとした顔でユウの方を睨みつけた。



 ――――……。



 ふわふわした感覚がある。


 思考は妙な靄が掛かったようにぱっとはしないが、心の中はまるで、喉につっかえていた何かを思いっきり吐き出した後のような解放感がある。正直言語化しづらい感覚に身を任せていたが、急かすようなベルの音が遠くから聞こえてきて、オレの意識は段々と現実へと引き寄せられていく。


 段々と鮮明になってきた視界に映りこんできたのは…二つの丸を帯びた壁だ。まだ意識はぼーっとしている上、体が妙に暖かく、気を付けていないと、また眠りに落ちていきそうになる。耳には何やらトクントクンと小気味の良い音が等間隔で聞こえ、これが更に眠気を増し……うん?トクン……?


「……む、起きたか?」

「……?」


 ふと、その壁の上から覗き込むようにして見たことがある顔が飛び込んできた。褐色の肌に、真っ白な髪。ディアナ先生だ。まだ頭はぼーっとしており、逐次NowLoadingといった具合で、状況が読み込めないオレは「むー……」と声にならない声を上げながら目を擦った。


「ふむ……まだ意識に混濁が見られるか…?」


 耳元で良く聞こえるディアナ先生の声に段々と意識が戻ってきたオレは、ハッとして「ほぇ!?」と素っ頓狂な声を上げて、ディアナ先生の腕からばっと離れた。


「おっと、お目覚めか。おはよう、マオ」

「え、あ、ハイ、おはよ……ゴザマス……?」


 ど、どうやらディアナ先生に抱かれていたようだが……状況が理解できないオレは噛み気味にディアナ先生へ返事をした。辺りを見回してみると、どうやらここはオレの部屋のようだ。オレが離れた事で、ちょっとだけ名残惜しそうな顔をしたディアナ先生はコホンと一つ咳払いをして、オレの方へと向きかえった。


「……まぁ、聞きたいことは色々とあると思うが……とりあえず。色々と観察上で分かった事はあるのだが、今回の治験は不発だ」

「ちけん……ふはつ……にゃう……」


 う、うん。なんかまだ頭の中が混乱しているようだから、とりあえず順立てて色々と思い出そう……?


 ……おや、何だろう。オレの中のゴーストが全力でやめておいた方が良いと訴えているような気が……。いや、冒険者の心得。困ったときはまず冷静に状況確認だ。


 …………。


 …………あー……。


 ……………あああぁぁぁぁー………。


 お、お、お、お…おれ、おおおお、オレ……こ、これ……。


「……あー。顔がゆでだこのようになっているが……大丈夫か?」

「……だ、だいじょばにゃい……」

「その、だ。う、うむ。まぁ…すまなかった」


 オーバーヒートしたオレを見て、ディアナ先生は色々と察したようで、ポンポンとオレの肩を叩いた。


 一方のオレはもう何が何やら一杯一杯になり、すぐ傍のベッドの奥深くへ大急ぎで潜り込んで、籠城を決め込んだ。いいい、いや、いや、も、もう、今日は閉店!閉店です!!明るかったから多分外は昼下がりだけど閉店です!!!!!


「ま、まぁ、起きないマオをユウたちが心配していたから……私から大丈夫だと伝えておく」


 ディアナ先生はそういうと、そのままたかたかと足音を響かせ、この部屋を後にしたようだ。


 ……ち、治験……いと恐ろしや……。


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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、これは母性!誰がなんと言おうと母性! そういうことにしないと面倒なことになる(マオが) 一回じゃ絶対かどうかわからないから定期的に治験しよう
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