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67. 治験 (4)

マオさんが元に戻るまでは三人称視点となります。

 

 シャワーを浴びて、夕食も食べ終わり、歯もしっかりと磨いたところで、もうすでにマオはうつらうつらと船を漕いでいる。元々マオは今の体になってからは夜更かしが出来ないが、今の状態だと尚更本能に忠実なのだろう。


「む……マオはもう眠いかの?」


 横の椅子に座っていたククが制服を整えながらマオの顔を覗き込んだ。その顔はもうほとんど瞼が落ちかかっており、ククの声も届いてなさそうだ。


「……そう、みたいかな。ちょっと早いけど、私たちも寝よっか」

「そうするか」


 先程折角だからとユウがベッドをドスンと軽々と横にくっ付けたおかげでベッドの上は広々としている。ユウはその真ん中あたりにマオをそっと抱き上げて寝かせると、それを見届けたククが「消すぞ?」と一言声を掛けてから照明の魔道具を消し、部屋は薄暗い夜闇に包まれた。


「……ん、もう寝てる……はぁー……可愛い寝顔……」

「抱きつぶすなよ?」

「そんな事しないよぉー」


 ククがベッドにもぞもぞともぐりこみながら、怪訝そうにユウをにらんでいるが、ユウはお構いなしにマオの寝顔を堪能しているようだ。その後、ククとユウがマオを挟むようにベッドに入った所で、マオとユウを横目に見据えたククがぽつりとつぶやいた。


「……にしても、お主、マオに随分構っているが……何か理由が?」

「マオちゃんはね、私の一番大事な子なんだー」

「お、おう……? ど、どうゆう意味でだ?」

「あー、そっか」


 ククは入学前のマオの事情を知らない。このような反応になるのは至極当然の事だろう。横目にククの様子を見たユウは唇に指を当ててしばらく考えた後、目を閉じて話し始めた。


「マオちゃんは今はこんな感じなんだけどー……」


 ―――……。


 シャムロック家。アルカ王国の代表貴族である四候の中で、武芸と織物に優れた家である。


 片喰が揺れれば国が揺れるとまで言われるほど国への影響力も強く、ユウはシャムロック家では現在は唯一の後継者だったため、幼い頃から、政治という魔手にさらされてきた。


 ユウが生まれた後、父であるアーク・シャムロックが魔物による被害で亡くなってしまった為、兄弟はいない。本来であれば貴族は断絶を避ける為、すぐにでも嫡子を増やすものだが、母であるエル・シャムロックは頑なに再婚せずにいた為、異父兄弟も存在はしていなかった。


 そうなると、必然的に正統な後継者のユウには幼いころから様々な計略、政治、結婚。様々な悪意が降りかかる事になった。エルもそれは重々承知していたようで、火の粉の振り払いは神経質な程行っていたようだが、それでもすべての火の粉を落としきれるわけではない。時に誘拐未遂、時に強引な求婚…様々な事があり、出会う人々すべてが自分に様々な色眼鏡を使っている事を何となく察していたからか、幼かったにもかかわらず、ユウはすでに達観した少女となっていた。


 たまに家に尋ねてくる男子の大体の訳は、御機嫌取りからの婚約話だ。そんな物は死んでも御免だったユウは近づくなという意味を込めて「遊ぼう」と誘ってから、勝負を仕掛けるようになっていた。


 幸い、ユウは父や母から受け継いだ抜群の戦闘センスがあった。5歳頃には既に大人にも負けずとも劣らない腕っぷしだったから、大体の男の子はこれで退散させていたのだ。


 そんなある日に、商談で初めて訪れたマオに出会うことになる。


 ユウはいつものように容赦なく剣を突き付け、負かした後に「こんな弱いとは思わなくて…」と言い放ち、さっさと事を終わらせようとしていた。しかし、「ほら、さっさと居なくなって」というユウの思惑とは裏腹に、マオは「むっ」と、立ち上がって頬を膨らませながら剣を構えた。


「もっかい!」


 いつもとは違う反応に「えぇ……」と聞こえないようにユウは呟いたが、マオは真っすぐに剣を構えている。そんな様子に圧されたユウは「うん、いいよ」と笑顔を作って、何度も何度も容赦なくマオを吹っ飛ばした。流石にこれで諦めただろうとユウは「疲れちゃったから、これでおしまい」と、土まみれのマオを起こそうと、手を差し伸べたが、マオはユウを睨みつけながらその手を振り払って自分で起き上がると……。


「オレはまだまけてないんだからな!おぼえてろ!」


 と、負け惜しみを言い放ち、ダッシュでその場から去っていった。まぁ、もう会う事もないだろう。と、ユウはその場は作った笑顔で手を振って見送ったが、それからしばらくも立たないうちにマオは現れ、今度は逆に勝負を挑んできたのだ。


「あの日はひきわけでおわったけど、今日はオレが勝つ!」

「……えー、ぜったい私の勝ちだったよ?」

「ひ・き・わ・け!で!!おわったけど!!!えぇい、かくごぉ!」


 ……そこから長きにわたり、家に来ては逆に勝負を挑んでくるマオをいなす日が続いていく事になる。


 しかし、打算もなく、ただ純粋で真っすぐに勝負を挑んでくるマオにいつしかユウは心を開いていた。そんな様子に気がついたからか、エルも、元々学生の頃から仲が良かったラミにお願いして、商談ではマオの事も連れてきてくれると嬉しいと言っていたようだ。


 そこから妹であるマリも含め、家族ぐるみでの交流をするようになり、ユウも作り笑いではない、本当の笑顔を見せる事が多くなったのだ。あのまま勝負と言いながら、誰とも関わらないようにするような事をしていたら、ユウは確実に塞ぎ込んだりして、今のように明るく振舞えるようにはならなかっただろう。だから、マオはユウの中で一番大事な子、なのだ。


 ただ、勝負に勝ってしまえば、こうやって尋ねてくることも無くなってしまうかもしれない、と、ユウは勝負では絶対に手を抜かなかったし、絶対に負けるつもりはなかった。時に、ちょっと意地悪をしてしまうのも、照れ隠しも込めた行動だ。


 ……が、その結果……マオにはそんなユウの気持ちはこれっぽっちも伝わっていないわけである。そして、必然的にライバル的な立ち位置に収まってしまい、今に至るわけだ。


「―――……ってカンジ」

「そうか……って、それでいくとマオって」

「うん、ちゃんと15歳」


 ククは衝撃を受けつつ、マオを見つめた。そんな事は露知らず、マオはすーすーと静かな寝息を立てている。思わずククは寝ているマオの頬を人差し指でツンツンとつついて見たが「や、やわっこい」と言う感想が漏れるばかりである。


「こ、この見た目でか……どう見ても幼女にしか見えん……」

「うん、必死に挑んでくる姿も可愛かったんだけど、更に可愛くなっちゃって!」

「いや……まぁ……そ、そうじゃな……?」


 ククはマオに少々同情しつつ、優しくマオを撫でているユウの方を見て……。


(まぁ、そうゆう関係もあるかの……)


 と、飽きれ半分にふっと笑うと、闇に身を任せるように目を閉じた。



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[一言] 本気で勝ちに行ってるのに可愛いがられる幼女w
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