62. ディアナ先生とのお話 (2)
……いきなり人外認定を受けオレは困惑した。いやまぁ、頭のどこかではオレもそう思っていたからか、そこまで衝撃的では無いのだけれど……。こんな事を医者から言われるのは後にも先にもオレだけなのではないだろうか。
オレが戸惑った顔をしている所、ディアナ先生はさらに続けた。
「そこで問題が起こってしまってな……」
「もんだい?」
ディアナ先生はトントンとペンの裏側でクリップボードを叩きながらため息をついた。
「君の体を元に戻す為に治療を施行しようにも、どうなるかが分からなくなった」
……お、おーう……。
た、たしかに考えてみれば、ディアナ先生の言う所の人外となってしまった今だと、例えるならば獣医さんが人間を診ているー……みたいな事になってしまうのか……それは大変な問題だ……。
「そこで君に……意思確認をする必要がある」
「……んぅ?」
「くっ……あざと……あ、いや。えぇとだな。具体的な実験を兼ねた治験が必要になると言いたいのだ。そして、最大限影響の無いように配慮するが、これがどのような結果をもたらすか未知数な部分がある。だから、君がもしリスクを取らないという話ならば、私による治療は断念し、保護観察のみを行うという事になる。マオ、君はどうする?」
「おねがいします」
「お、おいおい早いな。ちゃんと考えたか?」
ディアナ先生はオレからの即座の返答に戸惑っている様子だ。
オレの考えは、真剣にしっかりと意思を聞いてくる先生を信じたいし、魔法なんてお伽噺の事象をしっかりと受け止めてくれる先生なんてディアナ先生以外見つけられそうもない。
それに多分……これ以上悪くはならないと思うし、大丈夫だろう。いっそ悪くなったとして、もうここまでくれば何でも来いという感じだ。
オレがコクリと頷いたのを見た先生は「そうか」と一言つぶやいて、クリップボードのカルテにまたさらさらと何かを書き足してから、ボードを机の上に置いた。
「では……一つだけ試してみようとしていた魔術がある。前にも話したが、君の体は完全に変わってしまっている。すなわち、元に戻すというのは元に戻るように作り変えるということになる。そこで……復元魔術を使おうと思っている」
「ふくげん……」
「魔力の記憶部分に干渉……いや、原理は良いか。つまるところ元の状態に寄せてみよう、という感じだ。本来は狭い範囲でゆっくりと傷口を治したりする時に利用するものなのだが……」
「おー……!」
ふむふむなるほど、難しい事は良く分からないけど、何だか良い感じに治せそう、というのは分かった。オレがうんうんと頷いているのを見て、ディアナ先生は「本当に分かっているのだろうか……」という感じの微妙な笑みを浮かべながら続けた。
「そこに……さらに元の状態に戻れるように、可逆式と時限式を設けて、時間が来たら魔術が解除されて元の状態に戻るというようにしようと思う。時限は…微量の変化でも見られれば良いから、1日から2日にかけてくらいだろう。さて、概要はこんなところだ。質問は?」
「いつやるんですか?」
「もう治療魔術の式自体は完成していてな。早ければ明後日には治験を開始できるが……」
「じゃあ明後日で!」
「……あ、ああ。分かった。では明後日から開始だ…体調が悪かったり、体に異変があったりした場合は中止するからな?」
「はーい!」
ディアナ先生はなぜかあまり乗り気ではなさそうな顔をしているが、善は急げだ。これが上手くいけば元に戻り、剣で、魔術で、ユウに挑む事ができるはず。そして、色んな人に撫でられたり抱かれたりペット扱いされたりはおさらばだ!
ふっふっふ……ふ……う、うん。何だかこの含み笑いをすると、最近ロクな事が無い気がするからこのくらいにしておこう。この治験だって上手くいかないどころかディアナ先生の言う通り、何が起こるか予想がつかない。ここはクールに行こう、そうしよう。
「じゃあせんせー、また学校で!」
「マオ、ちょっと待て。もう一つ」
「んにゃ?」
「課外授業の森での一件、あの空まで届く竜巻と光線が一部界隈で話題になっている。表面上はベテランの冒険者の一斉攻撃としてあるが、もし、君が関わっているとなると、その力を狙う輩が現れても不思議ではない。十分に注意しなさい」
「……? はーい」
……ふむ?課外授業の内容を誰かが見ていた、という事だろうか。ディアナ先生の声色は真剣だ。何を注意したらいいかは良く分からないが、留意はしておこう。
オレは一礼してから、保健室を後にした。さて、治験かぁ……どうなるかなぁ……。
―――……。
マオが去った後、ディアナはカルテを鍵の付いたデスクにしまった後、着ていた白衣を机の上に置いて「あー」と気の抜けた声を上げながら椅子に体を放り出した。
「あー、なんですぐ了承してしまうんだぁー……絶対そのままにしておいた方が良いだろうー……。い、いやいや、ダメだ。本人は戻ることを望んでいるし、私を信頼してくれている。研究の事もあるし、向き合っていかねば」
……やはり隠れた天敵のようである。




