5. さらば戦友
な ぜ だ !
どうして、どうしてこうなった!?確かにあの魔術書には力を解放し、潜在能力を引き出すと書いてあったはずだ!それが、終ってみれば滅茶苦茶に体が縮んでいるし、なんか声が高い!というかオレの声じゃない!それに、いつもより肌が白いしぷにぷにしている気が……美肌効果でもあったのか?潜在能力ってそうゆう事!?
あと、先ほどから妙な感覚がある。音が良く聞こえて、なんというか、頭の上に動かせる何かがある感じがする。恐る恐る手を頭にのせて、まさぐってみる。すると、人差し指に何か当たる感覚があったと思うと同時にこそばゆさが全身を駆け抜けた。
意を決してそれ掴んでみると……生暖かい。そして、確かな感覚がある。手触りは……ふわふわで……そう、動物のようである。
……ははは。いやそんなまさかねぇ……。
…………。
「……みみぃ!!?」
それは確かに存在した。というか、さっきからお尻の方にも自分の意思で若干動かせるモノがある。手元に持ってきて掴んでみる。銀色にうねるそれは、どう見ても動物の尻尾だ。自覚したくない。絶対にしたくはないのだが…。
はい、どう考えても普通の人間ではありません。ちくしょう!
とにかく、他に異常はないかと、ぺたぺたと体を触ってボディチェックをすることにした。腕や手の感触はすべすべもちもちだ……。触ってみれば見るほど、なんだか自分の体ではない感じがする……。胴はまさしく幼児……あぁ、服がぶかぶか……脚もこんな小さ……。
……。
…………?
………………。
……………………!!!?!????!!!!!??
な…な…な……。
「にゃい!!!!?!?!?」
気が付いてしまった。お腹の下に目を移すと、今まで苦楽を共にしてきた戦友が二階級特進していたのだ。戦友は跡形もなく消え去り、代わりに毛が生えていない荒野に佇む小さな丘陵と崖は、恐らくかの有名な……。そう、決して男は持っていないアレだ……。そ、そんなバカな……!嘘だ、あり得ない!!
驚きのあまり、全身の力が一気にどこぞへ消え失せ、思わず腰が抜けて、地面にへたり込んでしまった。足腰に力が全然入らない……。そんな状態でわなわなと震えていると、正面からゆらゆらとこちらに向かってくる大きな人影がある。
し、しまった。コイツの事を完全に忘れていた。オレの前で停止したユウはこちらを見下ろしてくる。自分が縮んだせいでユウがいつもより大きく見え、正直に言うと、滅茶苦茶コワい。思わず震えそうになる体を押さえ、恐怖でぼわぼわに膨らんだ尻尾を体の後ろに隠すと、恐る恐るユウを見上げて、言葉を絞り出す。
「あ、あの……その……こ、ここ、これは……ちがうんです……」
「…………か」
…………か?
「かわいいいいいいいい!!!!」
「んにゃあああぁぁぁぁあああああ!!?!?」
いきなり抱き着かれたオレの口からあられもない悲鳴が飛び出した。抵抗してみるが、これがまた、全く歯が立たない。足で蹴ってみても、手でぺしぺし叩いてみても、しっかりホールドされ、身動きが取れない。な、なんて奴だ、パワーがダンチだ。
「はにゃれ!は、はにゃ……!にゃがいえにゃい……。はにゃれろ!!」
「んふー、かわいい声!はぁー、なんてこと!」
なんて事はこっちの台詞だっつの!
しばらくこのやり取りが続いた所に、先ほどの光を見たのであろう教師や衛士が森の外から走って近づいてくるのが見えた。何かしらの襲撃だと思ったのか、しっかりと武装もしているようだ。
……まずい。ぶっちゃけこんなに派手だと思っていなかったから、周りの目を気にしていなかった。