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55. 課外授業 (3)

 

 課外授業の開始からそれなりに時間がたって、もうそろそろ戻ろうかと声がかかる頃だろう。


 あれから何度か魔物を倒していて、討伐は順調だ。王子が腰から下げている袋は倒した魔物の魔核で、ふくらみが出てきている。


 そんな中、オレ達のパーティは森の深くの方までやってきていた。ここまで来ると、木は更に高くなって、足元を見ると、少しだけ植生が違うように思う。涼しさはどちらかというと寒さに代わり、ちょっとだけ指先がかじかむ。恐らくは北のイングス王国が近いのだろう。


 サキは結構薄着なのに全く動じていない様子だ。やはり、北方の生まれだから、寒さに強いのだろう。フォリアは……馴れているのだろうか、全く寒そうな素振りを見せない。やはり王子の護衛ともなると、寒さなど物ともしないのかもしれない。王子は鼻の頭が少しだけ赤くなっていて、澄ました表情こそしているが、寒そうだ。うーむ、女性陣が強い……。


 オレは冷たくなってきた手を横腹のほうに持って行って、自分の尻尾をくるんと巻き付けて暖を取った。 ……意外と便利。逆に尻尾が寒いけど。森の中は魔術の灯りや火を付けると、魔物に先手を取られる可能性が高くなって危ないから、こうでもしないと暖を取れないのだ。


 ……段々と手が温まってきたところで、ミシリと何かが押し潰れるような微かな音が、向こうの方から聞こえてきた。


 これは……。


 オレは急いで手から尻尾を解くと、腰の短剣を構えてから耳を澄ました。大きな耳になってから、聴力が上がっていて、耳に全神経を注げば、普段気がつかないような音も聞き取れるようになっている。索敵には便利だ。 ……多分、ここから数十メートル先だろうか。あの音からして、大きい何かが静かに動いている、そんな気がする。


「にゃんかいる」


 オレが静かに告げると、皆が無言で頷いて、得物を構えた。音は段々大きくなってきていて、こちらに近づいてきているのが分かる。 ……正面から、斜め右だ。


「あっち」


 オレが静かに指を差すと、皆が一様にそちらへと構えた。 ……音的に、そろそろだろうか。静かに移動をして、気取らせない相手というのは、それだけで厄介だ。今まで遭遇したのはどれも小型で、低級の魔物ばかりで、あまり危険は無かったが、もしかしたら大物がかかったかもしれない。


 目を凝らしてみると……大きな影が揺れたのが一瞬見えた。


 ……ヤバい、思ったより近い!


 オレは大急ぎで詠唱をして、両手を前に突き出した。


「やみのかべ!」


 オレの掛け声と同時に、ガツンと分厚く大きな黒の壁が宙から降ってきて、その影の目の前を塞いだ。その刹那、ゴウと大きな音がして、壁の端の地面が抉れた。そして、音が収まった所で、壁が砕け散って、相手のその姿が露になった。


 目の前に立っていたのは、黒いもやを纏った、ゆうに大人二人くらいの高さがありそうな、巨大なトカゲだ。どうやら、姿を現すと同時に衝撃波のブレスを吐いたようで、間一髪それを受け止められたようだ。


 全身に王子の防護魔術が張られているとはいえ、あんなのを食らったら、吹き飛ばされていただろう。危なかった、間一髪だ。


「これは……!」


 ケイシー先生が、すぐさま前に出て、オレ達とトカゲの間に割って入った。どうやら、緊急の案件らしい。


「皆さん。これはC級。かなり強大な魔物です。私が時間を稼ぎますので、手筈通りに撤退しましょう」


 これは……思わぬ大物を引き当ててしまったようだ。ケイシー先生の言う手筈、これは緊急のエスケープシーケンスの事だ。


 ケイシー先生がカバンから小瓶のような道具を取り出して、片耳を塞いだ。それに合わせて、ウィズ王子が周りにシールドを張るとオレたちは急いで目と耳を塞ぐ。すると、すぐさま、パァンと大きい音がして、光が弾けて広がった。目くらましの魔道具だ。


 オレは足が遅いので、フォリアにしがみつくと、全員その場から大急ぎで駆けだした。しかし、唯一振り返る事が出来るオレが後ろを確認すると、トカゲは目くらましを物ともせずに追いかけてきているようだ。ケイシー先生が応戦するように攻撃をしているが、それをいなしながら、オレたちを追ってきている。


 ……今までの魔物もそうだったが、どうやらオレが魔物に狙われやすいらしい。というか、ほとんどの魔物がオレに向かってきている。アイツも例外ではないらしい。…魔力が高いせいだろうか。


 皆は木々を縫いながら、全速力で走ってはいるが、間合いは段々と狭まってきている。このままだとマズそうだ。


 …………こうなれば……。


 オレは背中に揺られながら指でくるくると光を紡いで、ある魔術を詠唱する。


「ほむらのごとく、ちしおよもえよ。活水のごとく、ちしおようずまけ」


 ……未完成だが、巡らせるもの。自己強化の魔術だ。これで、皆の負担は減るはずだ。魔術が発動したのを確認して、オレは後ろで驚いているサキを尻目にバッとフォリアの背中から飛び降りると、全力で横道に逸れるように走った。


 それに合わせて、後ろのトカゲはぐっと頭をオレの方に向けて、一直線にオレの方へ駆けてきた。ふん、やっぱりこっちに来るようだな、トカゲ野郎。思い付きで飛び出したけど……これで、3人は安全だろう。あとは、オレがなんとかするだけだ。


 オレはトカゲがしっかりとオレの方に向かってきている事を確認した後、タンと地面を蹴って、皆と離れるように駆けだした。トカゲとの追いかけっこの開始だ。


 ……今のオレは体が小さい。道が悪くてもある程度、機転を利かせれば隙間をひょいひょいと避けながら進めるから、身体能力さえあればオレ一人の方がすばしっこく逃げられる。


 オレは逃げながら、魔術を詠唱した。もうここまで来れば山火事なんて気にしていられない。なんだったら雨でも降らせて消すから、今は許してもらおう。オレは十分な距離が開いた事を音で感じ取り、後ろを振り向いて手をかざした。こっそりいくつか用意していたうちの一つ。


「炎撃つらぬけ!ほのおのやり!」


 これは火の中級攻撃魔術であるフレイムランス……を、まだ覚えていなかったので、初級の火球を直列に繋いでそれっぽくした物だ。だが、威力は結構あるはず。


 オレはブンと腕を振るって炎の槍をトカゲに向かって放った。トカゲは前進したままでは避けきれなかったようで、頭から直にほのおのやりが当たった。


「グぉ……グるゥ!」


 トカゲはうめき声を上げて、少しよろめいたが、倒すには至らないようだ。くそ、ならばこれでどうだ!


「地の友、おたけびをあげよ!いわのとげ!」


 これは地の中級攻撃魔術であるグランドスパイク……を、まだ覚えていなかったので、適当に地面をトゲ状に隆起させることでそれっぽくした物だ。しかし、これにはトカゲも対応したようで、飛び上がって避けたようだ。ダメか……もう一つ!


「やみの紋、ねじまげろ!やみのたま!」


 ……言うまでも無さそうだが、これは闇の中級攻撃魔術であるダークボール……を、まだ覚えていなかったので、黒い腐食のエネルギーを一点に集めてそれっぽくした物だ。オレは一気に振り返って、振りかぶりながらその黒いボールをトカゲに放った。


 しかし、トカゲはこれにも対応して、横にさっと避けると、今度はがぱっと大きな口を開いた。その瞬間、トカゲの口からブワリと衝撃波が広がってオレに襲い掛かった。


 げ……これ、マズ……!


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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、森ってことで蔦系の魔物でエロいことt…えらいことになるとおもってたら割とシリアスに(´・ω・`)
[一言] 最新話に追い付いた 可愛い 最高 てぇてぇ
[良い点] ねこちゃんピンチ
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