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54. 課外授業 (2)

 

 ぶー……って、ちがうちがう。今のオレは大人の余裕を持った、スナイパーマオ。静かに闘志を燃やしつつ、敵を狙い撃つのだ。


 オレはさっと膨れた頬を戻してから目を閉じて、なんとなく腕組みをして大人の余裕という感じの表情を作った。 ……ふと横をみると、王子が押し殺すように笑っている。おいこら王子笑ってんじゃないよ。


 ともかくだ。これでメンバーもそろったわけだから早々に森に入りたい。早くしないと、獲物がいなくなってしまう。


「はやくいこ」

「あ、あぁ。そうね。それでは、皆さん、気を付けて行動してくださいね」


 ケイシー先生に軽く「はーい」と返事をしたオレたちは、フォリアを先頭にして、森へと足を踏み入れた。陣容はフォリア、王子がそれぞれ左右の前を歩き、オレはサキと後方。その後ろからケイシー先生が続いている。


 森はまだ数メートル進んだだけだというのに、木々が快晴の光を遮って鬱蒼としてきており、森の中に吹き抜ける風はどこか冷たい。地面はぬかるんでいるわけではないが、落ち葉などで荒れ放題の所為で、滑って歩きづらい。そこに木の根なんかの硬い突起があったりするから、戦う場所、戦っている最中も注意が必要そうだ。


 ……ふと耳を澄ますと、ガキンという金属がぶつかったような音が遠くから聞こえてくる。もう既に接敵しているパーティもあるようだ。むむ、オレたちも負けていられない。


 道の悪さに悪戦苦闘しながら、しばらく木を縫うように歩いたところで、突然フォリアが立ち止まって目線を前にやったまま手をひらひらとこちらに揺らして合図した。オレがひょっこりとフォリアの陰から顔だけ出すと……前方に黒いもやが見える。目を凝らしてみると、何やら真っ黒な犬のような四足歩行の獣が唸っているようだ。


 ……これが魔物。人類が、長年悩まされている災害の一つだ。


 魔物は生物ではない。黒いもや、瘴気と呼ばれている物質が形を取った物だ。何故か生物の真似をするような形を取り、魔物以外の生物を襲う。特に人類のような、非力な割に魔力を多分に持ち合わせている生物なら尚更らしい。


 アイミス連合王国が外へと版図を広げられない理由はこの魔物にあり、連合王国外は全て未踏破の地域となっている。この森は外の未踏破地域と一部面している部分があるからこのように魔物が入りこんでしまう。だから定期的に討伐を行っているのだ。


 この魔物は小型。オレもこのくらいの小さいものだったら以前見たことがある。比較的相手にしやすいものだが、油断は禁物だ。


「……じゃ、いくよ」


 オレはぽそぽそと静かに詠唱を始めた。すると、周りにオレの手のひらより少し小さいくらいの水塊がふわふわと漂い始める。これが初級のさらに初歩の水の魔術。あまり戦闘向きの物ではないが、これに一手間加え……。よしよし、煮えてきた。これが、隠し玉その壱!


「ねっとうボール!」


 オレは魔物目掛けて、湯だつ水魔法をヒュンと放った。ねっとうボールは緩やかにカーブしながら飛んでいくと、魔物の横腹にバシャンと大きな音を立てて当たった。よっし、どうだ!


「……グルぁ?!」


 魔物がうめき声を上げて少しだけよろめいた。しかし、ねっとうボールが当たった所は湯気が立ってがいるものの、魔物はフルフルと体を振るわせて水を振り払って、こちらを見つけて睨んでいるようだ。ダメージは薄そうな気が……うーん。どうやら火力が足りないようだ。


 オレが次弾を詠唱し始めたところで、魔物が凄い勢いで地面を蹴ってこちらに突っ込んできた。それに気が付いたフォリアが背負った剣を鞘ごと抜き取ってオレの目の前に剣を盾にするように立ちはだかった。その刹那、フォリアの所でガツンと鈍い音がしてくる。魔物はそのまま剣に食らいついたようだ。さすがは王子の護衛、動きがとても正確だ。


「……っせい!」


 フォリアは一歩足を前に踏み出すと、魔物が食らいついている剣をそのままブォンとフルスイングして、魔物を吹き飛ばすと、鞘から剣を取り出して、前に構えた。合わせて、他のメンバーもそれぞれの得物を構え、戦闘態勢を取った。


 オレはもちろん剣を……持てなかったので、腰に差した小さな短剣を取り出した。無いよりマシと言った感じだ。 ……いいもん魔術でカッコよく戦うから。


「グぉぉぉオォぉ!」


 皆が戦闘態勢を整えたところで、吹き飛ばされた魔物が態勢を立て直して、しゃがれた声で雄たけびを上げた。


「行きますわ!」

「はい!」


 魔物の雄たけびに合わせ、前衛二人が息を合わせて弾かれたように地面を蹴って飛び出した。フォリアが魔物目掛けて剣をぶん回す。魔物はそれに反応して、剣を避けるように後ろに大きく飛び退けると、身を翻して後ろの木を蹴り上げた。


 すると、フォリアやサキの頭上を大きく飛び越えて……どうやら、オレ目掛けて向かってきているようだ。前衛二人には目もくれていないらしい。 ……なんか……オレがエサと思われているような……。


「我らに光の加護を。ライトシールド」


 向かってきた魔物に対して王子がすっと左手を前に掲げると、キンと音を立てて薄く半透明な壁が宙に現れた。おぉ……光の防御魔術だ。見た目は薄そうだが、その壁は魔物を受け止め、弾き飛ばした。思い切り壁に頭をぶつけた魔物は足がフラフラとおぼつかない様子だ。これは……チャンスだ!


「ゆらぎゆらいであらわれろ!」


 オレは短剣をばっと前に差し出すと、空中に黒い雲がもくもくと渦をまくように出来上がっていく。ふっふっふ、これが隠し玉その弐……その名も!


「かみにゃり!」


 オレの掛け声に合わせて、雲に猫耳がぴょこんと生えた後、猫雲はピシャンと音を立てて、下に雷を落とした。魔物は直に雷の一撃を受けて、シュウシュウと音を立てながら、その場に倒れ込んだ。


 ……これが無ければカッコイイんだけどなぁ……何度やっても猫っぽい形の雲が出来上がるので、もういいやと諦めた。


 しばらくして、サキが魔物に近づいてみたが、魔物は起き上がる気配がないようだ。オレ達も確認しようと近づいたところで、魔物の体のもやが輝いて空中に霧散し、魔物もまたスーッとその場から消えていっている。これは浄化。魔物を倒すと起こる現象で、瘴気が形を保てなくなり、空気中、もしくはオレが当てた魔術の魔力と混じって消えていく、と授業で習った。魔物の体が完全に消えると、その場に小指大の紫紺の石が転がっている。これが、よく魔道具に使われる魔核だ。


 ……と、いう事は……。


「やったぁ!はつとーばつ!みたかぁ、はっはっは!」

「ふふ。がんばりましたわね、マオ。ウィリーも防御魔術、お見事ですわ」

「ありがとう、君のような可憐な女性のお褒めに預かり光栄だ」

「いいですねぇ!この調子で、どんどん行きましょう!」


 ふっふっふ、まずは快勝!まだまだ課外授業はこれからだ。どんどん狩りまくるぞ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 「かみにゃり」だから雲に猫耳生えるのでは?笑
[気になる点] >かみにゃり むしろそれでよく発動したな・・・ 猫雲の数増やすなり遠隔操作できればまた別の魔法と化しそうではある [一言] >「ねっとうボール!」 そのままだとほぼ対人用魔法だけど、タ…
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