52. 課外授業の果し状
Cクラス教室。オレは机に向かって腕組みをしていた。
机の上には筆状のペンと真っ白な紙が1枚。オレの愛用している果たし状セットだ。これから、ユウへの果たし状を書くべく、構想を練っている最中というわけだ。やはり、果たし状はカッコよく、そして綺麗に書かねばなるまい。綺麗さで言えば、オレは字や絵なんかは綺麗に書けると自負していて問題は無いから、内容の方に力を入れるつもりだ。
「うーん……こたびは課外じゅぎょ……んー、授業ってことばがはいるとちょっとしまらにゃいよにゃー……」
むむ、中々に難しい問題だ。いっそ今回の課外授業の目的地である国境の森、あそこの地名を使って……。いや、分かりにくいかなぁ……?
「あれぇ?マオちゃん何をしているんですか!?」
オレがむーんと唸り声を上げていると、後ろから元気で声量大きめの声が聞こえてきた。少し驚きながら振り向くと……そこには何やら壁?が、ずずんと聳え立っていた。
上を見上げると……大きなふくらみがある。不意にそのふくらみがグンとオレの目の前に下がってきたかと思ったら、上から桃髪の顔が見えてきた。昨日パーティーに誘ったフォリアだ。
フォリアはウィズ王子と一緒にAクラスに所属しているらしいから、わざわざCクラスまで足を運んできたらしい。急用だろうか?
「ふ、フォリアか。にゃんかよう?」
「はい、折角パーティを組むのですから、仲良くできたらなぁと!で、マオちゃんは一体何を?」
どうやら急用ではなかったらしい。フォリアはオレの机を上から覗き込んで首を傾げているようだ。
「はたし状をかいてたとこ。次のかがいじゅぎょーはユウより良いてんすうとるの」
「……果し状……?筆のペンで書くんですかぁ……」
オレの返答を聞いて、フォリアは何やら不服そうな感じだ。ふむ?果し状といったらこのスタイルが一番カッコよくて、定番だろう。
そんなやり取りをしている最中、先ほどまで武術科で片づけをしてくると出ていってたサキが戻ってきて、こちらに近づいてきた。
「フォリアにマオ、御機嫌よう」
サキは一礼すると、フォリアと同様にオレの机の上に目をやって「何をしていたんですの?」と言うように、こちらに視線をやった。
「サキさん!マオちゃんが果し状?を書いているそうなのです!」
「……そうなんですの。私にも見せてくださいます?」
……いや、オレはカッコいい果し状の文面を考えていただけだ。見ても楽しいものではないと思うけどなぁ……。
サキはオレの果し状セットを見ると「なるほど」というように、一度頷いてからふぅと一息ついて軽く腕組みをしながら口を開いた。
「マオ…いつもお返事をくださっていた手紙も、飾り気がないのが……。マオ、良い?なんにしても手紙というのは、相手を想って書くものですわ。無地の紙に黒の筆って、さすがに無骨すぎますわ」
「そうそう!私もそう思いました!」
二人は何やら意気投合したように笑いあっている。いや、飾り気も何もこれは果し状だ。手渡すときも丁寧にじゃなくて、こう、バシーンと叩きつけたりするものであって、無骨でなんぼのはずだ。
「ほら、これ使ってください!」
オレが困惑していると、フォリアがオレの果し状セットをすっと横に除けて、カバンの中から何やら取り出してオレの目の前に置いた。確認してみると……薄ピンクで小さな花がちりばめられた可愛らしい感じの便箋のようだ。
「あと、文面は丁寧に、ですわね。ほら、こんな感じで…」
「えぇ……?」
いや、それじゃ果し状としての意味が……って、あーどんどん書き上がってく―――……。
―――……。
……と、オレは果し状(?)を書き終え……いや、押し付けられて、Bクラスに来ていた。
果し状……は、あれよあれよと事が進んで、何だか綺麗に封されたメッセージカードのような感じに仕上がっている。 ……断ろうと思ったら二人分の圧力がかかって、結局これを持ってきたというわけだ……。
まずはバレないように扉からそろりと中の様子を伺うと……むぅ?何やらユウの周りに人だかりが出来ている。
「ユウさん!私とパーティを組みませんか!」
「いや、俺の所に!」
聞き耳を立てると、どうやらスカウト合戦が行われているようだ。まぁ、ユウは完璧超人だからな。課外授業においても引く手数多なのだろう。そういう所は敵ながら流石だ。
しかし、これでは果し状を渡せなさそうだ……。この後はサキ達と実際の戦闘での連携の確認をしようって話があるから、今日は今くらいしか渡すチャンスがないのだけれど……。
……5分くらい、その場でタイミングを図ってみたが、人だかりが引く気配は無さそうだ。仕方ない、今日のところは諦めるか……。
「どしたのー?」
「んにゃぅ!?」
オレがふぅとため息をついて去ろうとしたところで、いきなり目の前に髪を三つ編みにした女子生徒が現れて、オレは驚いて尻もちをついてしまった。その女子はオレの手に持った果し状(?)を見て「あー」と一声上げると、いきなりオレの体を後ろからひょいと抱き上げて、そのままずんずんとBクラスへと入っていき、人込みを物ともせずにオレはあっという間にユウの目の前に連行された。
「ユーウさーん。にゃーちゃん連れてきたよー」
「だれがにゃーちゃんじゃコラぁぁ!はにゃせえぇぇぇ!!」
オレがバタついたところで三つ編み女子は「おっと」と一言呟いて、オレをその場にすっと下した。その様子を見ていたユウはキョトンとした顔でこちらを見ている。
「マオちゃん?どうしたの?」
「…………これ!それじゃ!」
生来、オレはアクシデントに弱い。いきなり連れてこられたものだから、啖呵も考えてきたのだけれど全部吹き飛んだから、とりあえず例の果し状を机の上にばしっと置いて、そそくさと撤退した。
……まぁ、渡せたからヨシ。あとは実戦でケリをつけるのみだ。
―――……。
マオが去った後、Bクラスでは何やらほんわかしているような、不思議な雰囲気が流れていた。
ユウの机の上に置かれた可愛らしいメッセージカード。扉から様子を伺っていて、いざ対峙したと思ったら、カードだけ渡して何も言わずにそそくさと去っていく幼女。傍から見ると、ファンレターとかラブレターとかそういったものを渡して恥ずかしがって去っていったようにも見えなくはないからだろう。
「で、ユウさん。それ、なにが書いてあるの?」
ユウを連れてきた女子生徒は興味津々にユウに訪ねた。
「……うーん。多分果し状かな?」
ユウはカードを手に取って、ポツリと呟いた。中を確認すると……時節の挨拶から始まって、丁寧に「オマエを倒す」という内容が書かれている。
その場の一同はユウの一言に一瞬「えっ?」という素っ頓狂な声を上げてから、ユウが中を確認して「やっぱり」と呟いたのを聞いたのち「えぇ……?」と更にどよめきを上げた。
「……本当に面白い子だねぇ、あの子……」
「うん、今日は一段と、だねぇ」
Bクラスの面々は一様にうんうんと頷いて、マオが走り去っていった扉を見つめていた。




