47. お持ち帰りの朝
「……すー……すー……ふにゃっ……。んあー……?」
……なんだか安心するようなぬくもりの中、オレはうっすらと目が覚めた。目を閉じたまま首を動かすと、柔らかい何かに包まれているような、そんな感覚があり、小さく鼻で息をすると、優しい香りが鼻をくすぐり、もう一度安らかな眠りに落ちそうになる。
オレは無意識に寝返りをしようとしたところでふと気がついた。そういえば、ひと眠りしたからかどうかは分からないけれど、体が動くようになっている。
そこで、寝ぼけつつ、手を使って自分を包みこんでいるものを確認してみることにした。手のひらでそれをそっと押してみると、まるでマシュマロのような、むにむにとした柔らかいもののようだ。もう一度、押してみる。 ……柔らかい。もう一度……やっぱり柔らかい。
……なんだろう、この「手で柔らかいものを押す」というのが凄く……クセになりそうというか、安心するというか……言葉にするのが難しいけれど、気持ちが安らいでくる。
しばらく目を閉じながら右手、左手と交互にそれをふみふみと押していると、何やら柔らかいソレがもぞもぞと動き始めた。
「……くすくす」
「…………?」
不意に頭の上の方から何やら押し殺したような静かな笑い声が聞こえてきた。うっすらと半分だけ目を開けて、見上げてみると……ぼんやりと、人の顔のようなものが見えてきた。
「……おはよ、マオちゃん」
声の主はユウだったようだ。なぁんだユウか……。オレは声の主を確認できたところで、もう一度もぞもぞと被っている布団の奥のほうへと体を進ませて、全身を縮こませたところではたと気がついた。
……ん?ユウ……?
「マオちゃん、甘えんぼさんだねー……かわいい」
「……!?」
大急ぎで二度見すると、上の方で、ユウが優しく微笑んでいるのが見える。
…………ま、ままま、待って、待った。いいい、い、いったん、い、一旦落ち着こう。こ、こうゆうときはまず冷静に状況を確認だ。
1. 朝、オレ目が覚める。
2. ユウの腕の中にいる。
3. WHY?
……どういうことなの……。そ、そうだ、昨日の夜に何かあったはずだ。寝起きで頭が回らないけど、思い出せオレ!
えぇとたしか、保健室からユウに攫われて、夕食を食べさせられた後…。
『……ふにゃぁ……』
『次は体ね~』
……そう、歯みがきされた後、お風呂に無理矢理入れられて、またとろとろにされて、ぽけーっと惚けている間に色々と洗われたり、そのまま湯舟に入れられたりして、気がついたらお風呂を上がっていてー……。
『にゃんでこんにゃのもってんの……』
『『『『かわいい!!!』』』』
かわいい感じの猫のイラスト柄で、フリルが縁にあしらわれた肩掛けと、首の所にポンポンが付いたネグリジェを着せられて、その場のほとんどの女子も集まってきてかわいい攻撃を浴びせられたと思ったら、そのまま髪を乾かして、ヘアブラシで髪を梳いたり留めたり色々されてー……。
……むむむ、ここで現実逃避をしていたあたりからの記憶が……。うーん、ううーん……。
「マオちゃん、髪を梳かしていたら、そのまま寝ちゃったんだよ?」
あーそうかそうか、オレ知らないうちに寝ちゃってたのかぁ。いやぁ、うっかりー……。
…………って……。
「……それで、にゃんで一緒にねてんの!?」
「え?マオちゃんが私を離さなかったからだけど……」
「……へ?」
オレが……ユウを……?ど、どうゆう事?寝ていたから、全く記憶にないぞ……。まさかだけれど、恥ずかしい寝言とか言っていないだろうな……?
「寝言でいかないで、いかないでって泣きながら……私の服をずっとぎゅって掴んでいたんだよ?流石にそんな子を一人にするわけには行かないから……みんな心配してたよ」
「……え……そんにゃこといってたの……?」
ユウから予想外の回答が返ってきて、オレは更に困惑した。 ……本当にどうゆうことだろう?夢の内容なんていつも覚えていないから、何が何だかさっぱりだ。
……あ。そういえば昔、母さんからも同じような事言われた事があった気が……。たしか、寝ている間にずっと「行かないで」って言ってうなされていたから、ずっと子守歌を歌って宥めてたって……。
その時は本当にまだ幼かったから起きたらけろっとして「そうなの?」位で済ませてしまっていたし、最近はそんな事があったと聞いていないから、もうほとんど忘れかけていた記憶だ。それが今になって、という事だろうか?体が縮んだ事と何か関係がある…?
「で、ゆっくりベッドに寝かせようとしたらぎゅって甘えてきてね。もーかわいくてかわいくて……で、一緒に寝てみたら、安心したみたいに笑顔になってね、それで――……」
「……す、すとっぷ。もうやめて…」
その後続いた事実を受け止めきれないオレはユウの顔を見ないようにしながら、ユウの言葉を遮った。な、なんたる事……なんだか、この学園に来てから、ユウにオレの弱点のようなものばかり見せている気がするぞ……。これは、まずい。なにかこう……テコ入れのようなものが必要な気がする……!
…………それは、ともかく……。
オレはそのままもぞもぞと布団に潜り込んで、ユウの足の方で布団から抜け出して、ベッドから降りた。
まだ上手く体が動かず、ちょっとだけフラフラするが、もう介護なんぞ必要無い。
「……こ、これで勝ったとおもうにゃよ……っ」
もう、羞恥心がキャパオーバーだったから、キョトンとしているユウにネグリジェの隅を掴んで小声でそう言い残し、オレは自分の部屋へと戻る為、ユウの部屋の玄関の戸を大急ぎで開けて飛び出した。一体なんの勝負だよとか、もうそんなの気にしていられない……!
途中、ユウが後ろで何かを言っているのが聞こえた気がしたが……もうそんな余裕はない、オレ、帰る!
部屋を出てから、走れないから早歩きで自分の部屋の前までたどり着くと、オレは戸を急いで引っ張った。……しかし、カチャンという乾いた音がするだけで、扉は動かない。
……し、しまった……。鍵がない……。しばらく扉の前で硬直していると、ぱたぱたとユウがオレの部屋のものであろう鍵を持って駆けてくると、中腰で、その鍵をオレの目の前に差し出してきた。
「マオちゃん、鍵……」
「…………むぅぅー……!」
……もう、オレにはユウを涙目で睨みつける事しかできなかった。




