45. 先生の言う事は…
「というわけで!やってきました修練場!」
「……マオ、誰に話しかけているの?」
「きにすんにゃ!きあいいれてるだけだから!」
放課後、オレはセシルと共に、修練場を訪れていた。メモをとった日はさすがにもう遅かったので、本日に持ち越したというわけだ。
オレはもうわくわくで、今日の授業はあまり内容が耳に入ってこなかった。セシルはそんなそわそわしたオレの様子が気になって、ついてきたらしい。ふっふっふ、観客がいるというのもまた良い。ここはセシルにオレの雄姿をしっかり見ていてもらうことにしよう。
「で、今日は何をするの?」
「うむ!めぐらせるものをしらべてきたから、それをつかってみる!」
「調べて……って、大丈夫なの……?まだ授業で基礎すら教わっていないのに……」
「だいじょうぶだいじょうぶ。もーせいこうする気しかしにゃいから!」
「あぁ……相変わらず根拠の無い自信をこの子は……」
なに、成功させてしまえばこっちのものだ。あの本を見る限りでは、発動は極端に難しいわけでもなさそうだし、特に問題はないだろう。
オレは鼻歌を歌いながら、早速空にくるくると指で魔術陣を描いた。メモの通りで行けば、この形で問題ないはずだ。空に描かれた魔術陣はふわふわとオレの体を取り囲むように漂っている。ここまできたら、あとは詠唱を行えば良い。
「いくぞぉー!ほむらのごとく、ちしおよ燃えよ!活水のごとく、ちしおようずまけ!」
オレが空中に両手をばっと上げると同時に、体を取り囲んだ陣がシュンシュンと音をたてて、オレの体に段々と吸い込まれるような形で、消滅していく。それと同時に、何やら体の血管という血管が伸縮運動をしているかのような不思議な感覚がしたとおもうと、魔術陣の光は収まった。
オレは見える範囲で、自分の体を確認してみたが、見た目には違和感が……あー……あり、ますね。肌がぼんやりと光を纏っている。あとは特に変わらず、いつものぷにぷにの腕だ。
それにしても、光っている……けどー……まさか、光っているだけじゃないだろうな……?
試しにオレはその辺に落ちていた棒切れを拾って投げてみた。すると、これがかなり力が入って、枝はまっすぐに向こうの方まで飛んで行った。
こ、これは……!!成功、なのでは!?
「や、やったやった!ねぇねぇセシルみたみた!?すごいでしょセシルー!!」
「おぉ~。おめでとう、良かったねぇ」
「えへへー!」
「……かわいい……」
……っは。いけない。ついつい、舞い上がってしまった。何やらセシルがぼそっと呟いていたような気がするが、些末な事だ。そして、これならばこの前悔しい思いをした剣の素振りも可能なはずだ!
「剣かりてくるー!!」
オレはいつもより地面の蹴る力が乗った駆け足で、大急ぎで向こうの剣術科の訓練場へ駆けだした。
走っていて思うが、これがやはり、いつものぽてぽてとした走りと違い、すたこらさっさという感じなのが実にグッドだ。この風を切って走る感覚、久しく味わっていなかった……!
あっという間に、剣術科にたどり着いたオレは、見慣れた金縦ロールなケイシー先生を見つけて、ダッシュで近づいた。
「せんせ!剣かしてください!」
「うひゃぁっ!?ちょ、後ろからいきなり話しかけないの!あ。あら、マオじゃない。剣は前の小さいのでいい……ってどうしたのその体……?」
「魔術をめぐらせられるようににゃったので!」
「…………そう、なの」
ケイシー先生はそういうと、考え込んでしまった。ふむ、恐らくは忙しいのだろう。オレはそのままケイシー先生にペコリと頭を下げてから、練習用の武器庫から剣を一本拝借し、足早に元の場所に戻ってきた。まぁ、ここまで来るうちに、剣を持って走れているのだ、これは振り回すくらいは余裕だろう。
「てや!」
剣を振ってみたが、しっかりと剣が空を斬り、体幹がふらついたりすることは無いようだ。自身が縮んだ分、若干振りにくくはあるが、これならば十分剣を扱う事が出来るだろう。
す、すばらしい……!これならば、ユウに勝つこともできるのでは……!?ふふふ、上がってきたぁー!
「ちょ、ちょっとマオ、鼻、鼻」
「はにゃ……?ふぇ?」
オレが剣をブンブンと振り回していると、セシルが大慌てで、鼻と言ってきた。疑問に思いつつ、オレは自分の鼻を少しだけ手でこすってみると、なにやら赤い液体が手の甲に付いた。 ……え、これ……鼻血?
「あ、本当にやばそう。マオちゃんストーップ!!」
なぜ血が……?と思っていると、剣術科のほうからシィが大急ぎで走ってきた。そして、オレの肩をがっしり掴むと、いきなりオレの首に魔封じの首輪をがちゃんと嵌めると、ふぅと一息ついた。
「はぁー……危ない。ケイシー先生に言われて、慌てて来てみれば……駄目だよマオちゃん、いきなりあんな魔力を……」
「はぇ?どうゆうこ……んにゃっ!?」
不意に、膝がいう事が聞かなくなって、オレがその場にへにゃりとへたり込んだ。いくら力をいれようとしてみても、これが全く力が入らず、手も指すら動かない。え、何故……?
オレが狼狽していると、シィがしゃがんでオレと目線を合わせつつほらぁと怒り始めた。
「いい?体に気を巡らせるのはほんの少量でいいの。あんな、体が光るくらい流したら、体が悲鳴を上げちゃうでしょ」
「そ……そうにゃの……?」
つまり、ウォウのおっさんが言っていた事は、オレの魔力の高さだと、その少量を見極めるのが大変だ、という事だったらしい。しかも、たったこれだけ動いただけで体が動かなくなるのだから、しっかりとした身体づくりも重要という事だろう。
しかし、シィが言うには、普通はこんなにならないそうで、これはオレの巨大な魔力のせいでこんなになっていそうだ……。
……な、なんてこったい……。
「は……はれぇ……?にゃんだか……ねむ……」
「あー。体が限界みたいだねぇ」
オレが頭を抱えていると、今度は強烈な眠気がオレを襲ってきた……。ふらりと体がふらついて、倒れそうになったところを、シィが抱きかかえてくれたのは何となくわかった。
……あー……意識がー……。
…………薄れていく意識の中、オレは思った。
先生のいう事は、ちゃんと聞きましょう、と……。




