43. 応用技術を学ぼう
「今日は最後に、魔術の応用の始まりの部分を学ぶぞォ!」
授業の終わりの頃、ウォウのおっさんが、大きな口を開けて宣言した。丁度初級魔術に関しては、細かい所を除いて大方履修し終わったので、本日は応用のさわりの部分をやるらしい。
「まず、応用には複数ある!代表的な物は纏わせるもの、巡らせるもの、癒すもの、そして、動かすものだ。纏わせるものはいわゆるオーラや幻影とよばれるもので、例えば剣に魔術を纏わせて戦う魔剣術なんかが有名だ」
ふむ……魔剣術、魔剣術かぁ……。そういうものがある事だけは知っていたが……。考えたことも無かったが、冒険者になったらオレがそれを振るう事もあるのだろうか。
『ふはは!オレのデストロイフレイムソードの錆となるがいい!ていやー!』
自分が魔剣を振るう姿を想像してみたが…。
……か、かぁっこいい……!魔術、やっぱり捨てたものじゃないじゃないか。これは是非とも冒険の御供に覚えたいスキルだ!
「だが、魔剣は剣自体がその魔術に耐え、魔術を纏わせる事が出来る事が条件になる。そうしないと、得物が灰になるからな。国に、魔剣は複数本あるが…まぁ、俺も実物は数回しか見たことが無いな!がっはっは!」
……まぁ、そうですよね……そりゃ普通の剣にエネルギー纏わせたら溶けるか燃えるわ……。強いものにはそれなりに制約があるわけだ。
……考えてみれば、魔剣は国の軍部の人間が所持しているはずだ。つまり、ユウの母である、エルさんなら持っているのではないだろうか。今度見せてもらおう。
「さて、次は巡らせるもの。これは体の内部に魔力を巡らせて、自分の力を内から強化する魔術だ。いわゆる身体強化だな」
……!
そ、それはいつぞやにシィが言っていたものじゃないだろうか……!こいつは僥倖だ。ぜひとも物にしたい。オレは急いで机に体を乗り出して、はいはい!と手を挙げた。
「せんせ、せんせ!」
「む?マオ、どうした?」
「オレ、それやりたい!おしえてください!」
「……ふむ」
オレがキラキラの視線を向けている最中、ウォウのおっさんはオレをちらりと見て、むうと唸って考え込んでしまった。 ……何かあるのだろうか。
「……マオは魔力がとんでもないだろう?そして、その細腕だ。やる気は物凄く買いたいのだが…物にするのは結構難しいと思うぞ」
……どうやら、これも何かしらの制約があるようだ。
しかし、ウォウのおっさんは出来ないではなくて、難しいと話した。それはつまり、不可能ではないということだ。だから、努力次第でどうにでもなるはずだ。
「それに、この応用技術はもっと先の授業で学ぶことになるものだ。まずは基本をしっかりな!」
「……むぅ~……」
だが、どうやらこの授業はまだ先になるらしい……。非常に残念だが、授業ではまだ覚える事が出来ないようだ。オレは肩を落として、ちぇっと舌打ちすると、大人しく席に座って、ウォウのおっさんの講義を終わりの時間まで黙って聞いていた。
―――……。
「……そう、じゅぎょうではにゃぁ!!」
……オレは放課後に学園にある図書室を訪れていた。理由は勿論、巡らせるもの、体に魔力を流す術を会得するためである。授業で随分先になってしまう、かつ、難しいのならば自分でやるのみだ。そして、会得できたとすれば、これはとても大きなアドバンテージとなるはずだ!待っていろユウ……オレはお前の先を行き、必ずやこの手で倒し、マオ・ウィンディはここにありと名を刻む!
と、まずは蔵書を探さなくては。この図書室だが、かなり広いのだ。図書室は3階建てで、中央が吹き抜け構造になっている。壁一面に蔵書がずらりと並んでいて、広さ的には恐らく王都の広場くらいはあるんじゃなかろうかという広さだ。上を見上げれば、本、本、本の山である。
分類別にまとまっているとは思うが、ここから探し出すとなると中々骨が折れそうだ。そこで、オレは目的はぼかしつつ、向こうにいる白髪でくせ毛のロングヘアな司書さんらしき人物に聞いてみる事にした。
「あのぉー……」
「うぅん?おやおやぁ?かぁわいぃ子がこんなところにぃ~?」
「ぴっ……!?」
オレは振り向いたその容姿に驚いて10歩くらい後ろに下がって、近くにあった低い本立ての後ろに隠れて様子を伺ってみた。
司書らしき人物……人物だと思うけど……その人物?は顔の半分を包帯で覆っていて、ぎょろっとした目でこちらを見下ろしてきている。小さい声で「あっ……やっちゃった……」と呟いている……。どうやら、悪い人……?ではなさそうだ。
「ごめんなさぁい。昨日躓いた拍子に頭をぶつけて、その上から本が落ちてきて、目を回していたら階段から落っこちて、こんなことになってるのよぉ」
ゆっくりととんでもない事を話しつつ、その司書らしき人物はにっこりと笑った。オレは本立てからひょいと姿を表すと、ゆっくりとその人は腰を屈めて、目線を合わせてくれた。なんだ、良い人だ……悪い事をしたかも……。
「わたしはぁ、マミィ・ヒエラティ。ここの司書さんですよぉ」
「あ、オレはマオです。あの、ほんをさがしてて……」
「ほぉ~、そのくらいの歳で、読書は中々関心ですねぇ~。どんな本をお探しかなぁ?冒険譚?それとも絵本かなぁ?」
……完全に子供扱いされている……。あと、オレはれっきとした15歳なわけで……。それはともかくとして、真の目的を伝えなければ。
「そういうのじゃにゃくて、魔術のおうよーぎじゅつにきょーみがあって、しらべてみたいにゃぁ~……にゃんて」
……少し直球すぎただろうか。でも、正直良いぼかし方も思いつかないので、もうゴリ押すしかない。オレの話を聞いたマミィさんはおやおやと呟くと、コホンと咳ばらいをした。
「案内いたしますが、危ない事に使わない事。良いですね?」
今までのゆったりとした話し方とは違うぴしっとした口調でマミィさんはオレに話をした。まぁ、今回探しているのは自己強化だ。火事になったり、水浸しになったり等の危ない事は無いはずだ。
オレがこくりと頷いたのを見ると、マミィさんは少し解けかかっていた包帯を上にくいっと直してまたコホンと咳ばらいをした。
「物好きちゃんですねぇ~。それじゃあ、案内しますよぉ。こっちねぇ」
……マミィさんは先ほどのゆったりした話し方に戻って、向こうの方へと歩き始めた。




