41. 買い物終了
「ぶー……」
「かわいいかわいい」
「にゃでるにゃ」
あれから、少しだけ逃げ回っていたが、結局捕まってユウの腕の中にいるわけである。オレがユウの手に抵抗している所に、マリが目の前に来てふむと腕を組んでこちらを見つめた。
「兄さん、下着の履き心地は?」
「……くやしいけどわるくにゃい」
……そう、なんというか、動きやすいのだ。今回、ユウの手から少しであれ逃げおおせる事が出来た。尻尾がフリーに動くようになったのが大きく、体の重心を色々な方へ持っていけて、ダイナミックな体の使い方が出来ている気がする。あと、股が擦れないのも良い。下着って大事だったんだな……。
「そう、それはよかった。サイズも問題ないかしら」
ユウに捕まっている所、マリがいきなりオレの着ているワンピースのスカートをぴらりと持ち上げた。
「ちょぉ!?にゃにすんだ!」
「…………その反応……表情……良い……」
オレは大急ぎで、ワンピースのスカートの部分を両手で押さえて、真っ赤になりながらマリを睨みつけた。いきなりスカートめくりとは…家族とはいえなんてやつだ…!
一方のマリは身震いしてから、少しだけ恍惚とした表情で何かを呟いている。 ……え、怖い……。
と、ともかくだ。もうサイズもわかったろうし、ここでの用事はおしまいだ。あとはこれと同じサイズを複数着買えば良いだろう。
「ともかく!ちゃんとはいてる!はいおしまい!」
オレは無理矢理体をよじってユウの手から抜け出すと、手を腰に当てて帰ると宣言した。それを聞いたマリは仕方ないとため息をついて、下着の入っていたトランクに手をかけて、今着せる候補であったろう下着を紙袋にひょいひょいと入れてユウに渡した。
……そんなにあったのか……危なかった……。
「あ、ちょっと待って。マオちゃん」
「んぅ?にゃに?」
ユウは紙袋をそばに置いてから、オレに駆け寄ると、ポスンと頭に何かを被せた。頭からソレを取って見てみると、ちょっと大きめの白いベレー帽のようだ。シンプルなデザインで、なかなかオシャレだ。
「ほら。町で居心地悪そうにしてたから。気が付かなくてごめんね」
どうやら、オレが試着中に抜け出していたのはこの帽子を買う為だったようだ。中が空洞で、オレの頭の上の耳にあまり干渉してこないから被りやすくなっている。
……むう。こうゆう所は優しいんだけどなぁー……。普段から抱きついてきたり、ちゃん付けしなかったりすれば最高のライバルだと思うんだけど……。
「……あんがとにゃ」
「どういたしまして」
とりあえず帽子を深く被りなおしてぷいと横を向きながらお礼は言っておく。 ……おいこら、思ってるそばからニコニコしながら抱きついて来ようとすんな。
オレがユウの腕をさっと躱している所、ゴーンと鐘が聞こえてきた。この鐘は学園に設置されている鐘で、朝、昼、夕と日に3回鳴る鐘だ。今のは夕の鐘であり、そろそろ学園の正面口が閉まる事を意味している。もう良い時間のようだ。
「……いけない。それじゃあマリちゃん。私たちは帰るね」
「ええ。また来てください、兄さんも」
「う、うむ。マリも体にきをつけてにゃ」
ユウとサキ、オレの3人はいそいそと荷物を纏めて店を出た。もう日は大分落ちてきていて、辺りは茜色に染まっている。元々先の2件の店で済ますつもりが、3件目になってしまったのもあるが、少し長居をしてしまったようだ。 ……このままだと夕食が遅くなりそうだ。
「……長居しすぎましたわね」
サキがそうつぶやくと、オレの方をちらりと見て「我慢してくださいね」といってこちらにしゃがみ込んできた。
…………嫌な予感。
「よいしょ」
サキはそのままひょいとオレを抱き上げて、抱っこをされる形になった。どうやら、荷物はユウが持ってくれているようだから、サキがオレを抱き上げたらしい。
まあ……知っていました、はい。
「……思った以上に軽いですわね。帰りますわよ」
「……ぐぬぬぅ」
このままオレの細足に歩かせておくと、結構時間がかかってしまう。 ……致し方なし……。オレは帽子を更に深くかぶりなおして、そのままサキに抱かれる形で、店を後にした……。
―――……。
寮の自分の部屋の中。オレはマリに持たされた荷物を確認するため、紙袋を開けてみた。
中には、猫が刺繍されていたり、リボンが付いていたり、一部レースになっていたり…ドロワーズのようなものも入っている。ぜんぶお尻のほうの上側がくぼんでいたり、穴が開いていたりするから、完全にオーダーメイドのオレ用である。
……本当にいつの間にマリはこんなものを用意したのだろうか。
「……にゃんだこれ」
ガサゴソと袋をあさっていると、奥底から、なにやら紐っぽい何かが出てきた。目の前に持ってきて広げてみると、形が逆三角形だ。 ……まさかとは思うけど、これ……。
……………………よし。あとで捨てよう。
オレはそのいかがわしい何かを丸めてぽいとクロゼットの奥にほうりつけて、ふぅとため息を付いた。今日だけでやたら色んな事があった気がする……なんだか、どっと疲れた。
オレは後の下着をしまわずにベッドにダイブした。心地よい微睡みと愛しのお布団様の抱擁がオレを包み込んで、すぐに意識が闇に溶けていった。




