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39. チョロいもんです

 

 ついに、時は来たようだ。


 ぽけーっとしながらしばらく美しい世界にトリップしていたが、自分に近づく影にハッとして目を覚ますと、複数枚下着を抱えたマリ一同がこちらを見ていた。ユウの手には店に置いてあった服もあるので、合わせて着ろという事らしい。


「まずこれね」


 マリとユウの手から服を手渡されて、オレはその服を広げて確認してみた。


 服の方は薄ピンク色の飾りがほとんどついていないシンプルなサマーワンピースのようだ。腕がノースリーブになっていて、これからの季節は涼しそうな感じの薄い生地で、着やすそうではある。


 一方の下着の方は……柔らかい布でワンポイントに小さな白いリボンが着いたパンツだ。


 ……え、本当にこれを着るんですか……?


「ほら、兄さん」


 おろおろとしているオレに早く行けというように、マリがオレを立たせて向こうにあるカーテンへと追いやっていく。いざとなると、やはり、抵抗が凄まじい。オレの手の中のこれを着てしまえば、何か、後戻りできなくなりそうな、そんな予感さえしてきて洋服を抱く腕に力が入ってきてしまう。


 ……やはりオレにコレは無理だ……。


「やっぱりやだ……」


 オレが小さく呟くと、マリが少しだけ考え込んでからオレの肩を持って話し始めた。


「兄さん。時の偉大な傭兵、アン・ダクシャ・コーナーって知っているよね」

「……うん?しってるけど……」


 傭兵アン・ダクシャ・コーナーとはイングス王国出身の女剣士で、A級と呼ばれる強大な魔物を2体屠ったアイミス連合で著名な傭兵の一人だ。その腕から放たれる剣閃は、大木をなぎ倒す程だったと言われている。勿論オレも冒険者を目指していたから、その名前は知っている。


 しかし、ここで傭兵の話とは……なんのつもりだろうか。


「傭兵アンは、生涯絶対に譲らなかったものがあるらしいわ。それは、必ず自分に合った武具、防具を付ける事。下着から鎧まで、自身に合ったものを着ていたらしいわ。そのおかげか、彼女は決して粗野にならなかったし、いつでも洗練された動きをしていた。これはそれと一緒。兄さんは自身に合った服を来て、理想の大人に近づく。良い事だと思わない?」


 ……う、うーん……?た、確かに……?そう……なのか……?


「これは兄さんの戦闘の為の服といっても過言ではない。自身に合った服を着てるだけなんだから、おかしい所は何もないの」

「で、でもぉ……」

「……兄さん……。気がついているかもしれないけど、これは兄さんに合わせて私が用意したの……どうしても、兄さんに傭兵アンのように強くなってもらいたくて……だから……」


 オレがたじろいでいると、マリが寂しそうな顔をして俯いてしまった。どうやら、やはりこの服や下着はオレの為に用意してくれていたらしい。いつもは素っ気なくて少し生意気な妹が、随分色々としてくれたようだ。


 ……そこまでしてもらって、着ないのもダメな気がする……。あのマリがオレが強くなるためにと、ここまでしてくれたのだ。ここでやめては兄の名折れという物だ。


「わかった……マリがここまでしてくれたんだもの。これ着てみる……」

「兄さん……!良かったぁ……!」


 オレが承諾すると、マリはほっとしたように胸を撫でおろしてからにっこりと笑った。やはり思う所はあるのだけれど……マリの花の咲いたような笑顔が見れたのだから、この決断で良かったのだと思う。


 オレはふっとキザに笑いつつ、カーテンの方へと向きかえり、歩を進めた。


 ……いざ……戦場(試着室)へ赴かん……!


 意を決して、ざっと勢いよくカーテンを開け、すぐさまばさりと勢いよくカーテンを閉めた。試着室の中は大体大人が6人くらい入れそうな大きさで、右側に椅子と数着服がかけられるハンガーラック。その反対側には小さな鏡が備え付けられている。後から増設されたもののようで、しっかりした造りとは言い難いが、着替えるだけなら十分なスペースのようだ。


 オレは椅子に渡された服を置いて、制服をはらりと脱いで、ハンガーラックにかけた。 ……一枚脱ぐたび、後悔が手を止めようとしてくるが……愛する家族、妹のためだ。もう、後戻りはしない!


 そして、シャツを脱ぎ終えて、ついに、例のパンツだ……。う、むむ……うむむ……うむむむむぅ……。


 ……ええい、男は度胸だ!こんな布がなんだ!


 オレはひょいとそれに両足を入れて、一気に上に引き上げた。


 ―――……。


「……ふふ、チョロいもんです」

「マリ、相変わらずですのね……マオも、変わらず素直で騙されやすくて……本当に危なっかしいったらないですわ……」


 一方。マオが試着室で一人葛藤しながら下着と格闘している中、その背中を見送ったマリが黒い笑みを浮かべていた。先ほどのやり取りは、どうやら演技だったようだ。


 マリの黒い笑みに対して、サキが困ったものだというように笑いながらぽつりとつぶやいた。このやり取り自体、昔から行われている物のようで、存ぜぬのはマオ本人だけのようだ。


「あはは……そんな所も可愛いんだけどねぇ……あ、そうだ。マリちゃん」

「何ですか?」

「えっとね……」


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