37. もちろん用意してありますよ
「はぇ?マリ??にゃんでここに?」
「家に居ても暇だったから、私が入学した時に変に不便でも困るし、お母さんから許可を貰って、この辺りの地域の商店を仕切っていたの。ここの地域は学生に固執しすぎて品ぞろえが微妙ね。地元の方々の話と学園の声を聞きつつ在庫を増やしたから結構売上は伸びたわ」
オレの問いにマリは黒髪をさらりと払いながら淡々と続けた。マリは母さんの血を引いてか、昔から取引に強く、商才がある。どうやらここの地域に目を付けて、学園に入学するまでにここの商店を強化していたようだ。相変わらず抜け目がない……。
ちなみにオレはというと、実は父さんと母さんの血は引いていない。父さんは金髪金眼、母さんが黒髪翠眼、顔も似ていないし、両親のどちらも背が高いが、オレは良くて中背という感じだった。マリと全く色が違うのもそのせいだ。
昔、オレが赤ん坊の頃、捨て子だったらしいオレを母さんが拾ったんだそうだが……まぁ今はその話は良いだろう。血は繋がっていなくても、オレの家族に間違いはない。
つまり。父さん母さん、マリとは違い、商才や取引なんかはさっぱり、というわけだ。母さんにくっついて勉強してきたつもりだけれど、オレはどうやらポーカーフェイスとか、商人の落ち着きだとか、そういったものがてんでダメらしい。
「マリ?マリですのね!?お久しぶりですわ、随分大人っぽくなってきましたわね!」
「サキ姉さん、お久しぶりです。ユウさんも、ご無沙汰しています」
「もう、相変わらず淡々としていますのね。前みたいにサキお姉ちゃんと呼んでくれてもいいですのに」
久しぶりにマリにあったサキが向こうで盛り上がっている。確かにマリはサキと遊んでいた頃の幼さは抜けて、背も随分伸びた。なんだったら、この体になる前のオレと背丈は変わらなかったくらいだ。
それにしても、大人っぽくなった…ねぇ。オレに対する嫌味ですかね……?一方のユウはマリの「姉さん」呼びに反応したのか、小さい声で「いいなぁ」と呟いているようだ。
「……マオちゃん。私の事お姉ちゃんって呼んでみない?」
「ぜったいにやだ」
「けちぃ~」
オレはユウの期待の眼差しをしっしと払いつつにべなく断った。ユウはライバルであって、決して姉ではない。ユウは断られることを分かっていたのか「つんつんしている所も可愛い」とオレの頭を撫でている。
「……そうですよ、マオちゃんは私の妹です」
撫でるな、抱きしめようとするなとオレはユウの手を避けつつ抵抗していると、ぽつりとマリが呟いた。オレはピタリと動きが停まってしまって、ユウに良いようにされているのを気にせずにぽかんとしながらマリのほうへ向きかえった。
「……は?」
「なんでもないわ、兄さん」
い、今何か、とてつもなく、良くない台詞が聞こえたような気がしたのだが……。
……気のせいだな!なんでもありませんってマリも言ってるし、きっとそうに違いない。マリとは小さい頃からずっと兄として威厳をもって接してきたから、そんなオレが妹なんてありえない。 ……ありえないよな?オレがざわ……ざわ……とざわついていると、マリがコホンと小さく咳払いした。
「そういえば皆さんは今日は何を探しにここへ?」
「ああ、実はマオちゃんのお洋服と下着を買おうと思って」
マリの問いにユウがオレの体を抱きかかえながら応えると、ニヤリとマリの口角が上がった。 ……おや?なんだろう、悪寒がしてきたぞ……。オレはユウの手を払いのけながら固唾をのみ込んだ。
「……ふふ、もちろん用意してありますよ」
……おお、天よ。何故哀れな子ひつ……子狼を見捨てたもうのか……。オレは自分の瞳のハイライトが消えていくのを感じつつ、その場にガクリと膝を落とした。
「兄さんは狼じゃなくて猫じゃない」
「……かんがえをよむにゃ」
何故かオレの心の叫びを読んでいるマリがにっこりしながらオレの手を取って「行くよ、兄さん」と向こうへと歩き始める。 ……まだ店外だから、魔術を使って逃げ出そうかとも思ったが、兄として、妹を傷つけるわけにはいかない。
仕方なく観念して、すっかりとオレより背が高くなってしまった妹に手を引かれつつ、マリの仕切るという商店へと向かうのだった…。
PVが10万を突破していました……!
読んでくださって嬉しいです!




