36. 学園街
そのままユウの手に揺られて、オレは宿泊棟の近くにある学園街に拉致されてきていた。
ここは学園内に出来ている施設の一つでお店が立ち並んでおり、小さな町が出来上がっている所だ。何故こんなものがあるかと言うと、学園自体は王都から若干離れた場所にあり、馬車で移動しても時間が掛かってしまう。なので、不便にならないようにとの学園側の配慮と、貴族の子供も多く通うこの学園に商機があった商人とで利害が一致し、学園向けに商店街が出来上がったという訳だ。たしか、実家の店もあったはずだ。
ここは学園以外の人間も利用できるようになっているため、学園の敷地内で一番賑わっている。今日も結構な人の往来があるようだ。
「おまたせ、マオちゃん連れてきたよ」
「……少し遅かったですわね。大方マオが逃げようとしたという所でしょうが……」
くそ、お見通しか……ユウもサキも昔からオレの行動を先読みするところがあって非常に厄介だ。嫌な顔をしているオレを見たサキはふぅと一息つくと、人差し指でこちらを軽く指さしながら、迫ってきた。
「マオ、良い事?いま、マオは可愛い女の子なのですから、身だしなみはきっちりとしたほうが良いですわ。健全な精神は、健全な体、健全な体は健全な身だしなみに宿るのですわ」
「そうそう、折角可愛いんだから、可愛くしないと損だよ」
今まさに不健全に損をしているわけだから、サキとユウの言う事は嘘っぱちだ。そもそも、オレは女の子ではない。 ……いや、まあ体はどこからどう見ても美幼女そのものだけど、中身は15歳の立派な男子だ。
だから身だしなみをきっちりとするとしたら、タキシードとか、ワイシャツとかそういう物になるはずで、決してこんなふりふりなスカートとか、リボンとかではない。 ……ともかく、早く解放して、そして帰して。
帰らせろと目の前のサキに念を送ってみたが「ダメですわ」という視線で返された。
「さて、買いに行きますわよ? ……サイズがあると良いのだけれど……」
……お?そうか、今のオレはコンパクトサイズ。ここは特に学生向けの店が多いから女児用の物は置いていない可能性の方が高い。これは上手くすればなんだかんだで有耶無耶に出来るのではないだろうか。
『オレに合うのは無かったな、いや残念。という事で今日はお開き』……これだ。これに賭けるしかない。絶対に女の子な下着なんて履かないぞ!マオ・ウィンディ、例え牙をもがれようと、狼としての誇りは失わない。いっそ、あったとしても魔術を使ってでも……!
「……マオ?言っておきますけど、お店の中は魔術はご法度ですわ。破ったら怖いお仕置きと前科ですからね?」
「………………。」
サキがじとりとこちらを見つめてきたので、さっと目を逸らす。 ……嫌だなぁサキさん。魔術はアブナイんだから、勿論穏便に済ませますとも。 ……っち。
「早くしないとお店閉まっちゃうよ。はい、マオちゃんも。ちゃんと手つないで?」
「……ぐぬぬ」
心で舌打ちしていた所で、ユウの腕から解放されたオレは仕方なく差し出された手を握り返しそっぽを向いた。2対1の今の状況では流石に逃げおおせる事は出来ないだろうから今は大人しく従っておく。
「それじゃあ出発。向こうのお店ね」
ユウに手を引かれながら、オレは着れるような代物はありませんようにと天に願いを込めて祈りつつ、しばらく歩いて着いたのは比較的小さめのアパレル店だった。窓越しに見える店の中身は棚こそ店の壁一面に置かれているけれど、品揃えはそこまで多くなさそうだ。
「うーん……。ちょっと話を聞いてきますわ」
店の外装を見たサキがお目当ての物があるか分からないからか、話を聞くと言い残して店の中に入っていく。しばらくすると、考え込んだ様子のサキが店から出てきた。その様子を見るに、恐らくは……。
「このお店じゃマオのサイズは無いようですわ」
「そっかぁ……。たしか、もう一つお店あったから、そっちに行ってみようか」
「そうしましょう」
くっ……どうやらもう一店舗あるらしい。流石貴族も通う学校なだけあって、たった一店舗で補える物ではないという事のようだ。仕方なしに、手を引かれながらそのもう一店舗がある方へと歩を進める。
……それにしても、出来れば帽子が欲しい。先ほどから、オレの頭とお尻に刺さる視線が痛い。学園内ではもう暗黙の了解みたいな扱いになっていて、好奇の目線にさらされる事は大分少なくなったが、学園以外の人もいるここだとかなりキツい。一応ユウがずっと通路側の方を歩いているから陰にはなっているとは思うけれど、流石に気休めだ。
早く終われと心で念じながら、着いた店は高級そうなブティックだった。恐らくは貴族御用達……といったところだろう。シャムロック家の物ではないようで、お店の外装は以前見た店とは随分異なる感じで、どちらかと言うと絢爛さを表に出した感じのお店だ。しかし、こちらもそこまで大きそうではない。
これは……もしかして。
「聞いてきますわ。少し待っていてくださいな」
サキが先ほどと同じように一人でお店に入っていくと、先ほどとは違い、少しだけ長い時間をかけて戻ってきた。
「……一回り大きいサイズはありそうなのですが……。マオに似合うようなものではなさそうですわね」
……天は我に味方せり!!オレは小さくガッツポーズをとってから、二人の方へ向きかえった
「オレに合うのはにゃかったにゃぁ。いやざんねん。てことで今日はおひらき!」
「……すごいドヤ顔ですわね……まあ、仕方ないのかしら……」
二人のほうへビシッと指をさしながら、用意しておいた台詞を自信満々に二人に言い放った後、オレは踵を返した。いやぁ、晴々とした気分だ。今だけは小さくなった事に感謝しなければ!
「あら。マオ……兄さん。お久しぶり」
そんなルンルン気分のオレを、最近聞いていなかった声が遮った。驚いて声がした方へ向きかえると、ここに居るはずがない、黒髪金眼の妹、マリがいつもの釣り気味の目をこちらに向けていた。
モンをハンしてアイルーとガルクを愛でるゲームが発売されてしまい、時間がとられがちです。




