32. よくあさ
朝。オレは言い知れぬ怠さの中で目が覚めた。枕元にあった時計を見ると……。
「……じゅういち」
……とっくに朝のHRが終わり、講習の時間の真っ最中だ。どうやら寝坊してしまったらしい。それにしても、昨日何か凄く嫌な事があったような気がする。そのせいなのかはハッキリとは分からないが「どうでもいいや」というような感覚が頭の中にあって、特に慌てる事は無かった。心が凪いだ海のようだ。
しかし、横に目を向けたところで、その凪の海はようやく波を立て始めた。
「……起きたか?」
横には見知った褐色の肌の女性。ディアナ先生が空いた布団の方に座っていた。寝坊したオレを呼びに来たのか、はたまた無断欠席のお説教に来たようだ。
「ね、ねぼーしました」
「あー。それは良い。今日は君は休むかもとケイシーから知らせられている」
どうやら、何か咎めに来たりしたわけではないようだ。金縦ロールさん……もとい、ケイシー先生から何やら話を聞いているらしい。
「……まぁ、人生そういう事もある。気にするな」
ディアナ先生はオレの頭をゆっくりと撫でている……いや、撫でるのはやめていただきたい。 ……けど……あぁ……だんだん思い出してきた……。
あの後、泣きじゃくるオレをケイシー先生と周りの女子が必死に宥めすかして、浴場に連れていかれて、そのまま汚くなってしまった体を洗われて……で、そこで眠くなってしまって記憶が無い。
……多分、寝てしまったオレに代わってケイシー先生やその他の生徒が粗相を片付けてくれたのだろう。気まずそうにディアナ先生がオレを見つめているあたり、大体の事情は察しているようだ。
「……あ……あぅぅ……」
「あ、あぁー……その、な。落ち着くまではここに居なさい。その、だ。もし辛いようなら教員棟に移転でも良いぞ?生憎空き部屋は無いから、私と共同生活となるが……考えておくといい」
そう言い残すと、「残念だが、業務がある」とディアナ先生はどこか後ろ髪を引かれるような目をしながらこの部屋を出て行ってしまった。
取り残されたオレは……。
「……ううぅー……うううぅー…………」
羞恥心で一杯一杯になってしまい、愛しのお布団様の優しさに包まれながら、真っ赤になった顔を唸りながら枕に押し付け、撃沈した。
うぅ、もう……何もしたくない……。
――――……。
「と、いう事があってねぇ」
「……そう、なんだね。それにしてもマオ、なんで夜に……?」
食堂の一席にユウとセシルが向かい合いながら昼食を食べていた。マオが居ない、珍しい組み合わせだ。というのも、セシルが今日学園に来なかったマオを案じて、ユウを訪ねていたわけだ。
「あー……その辺りは、マオちゃんの……いつもの意固地かなぁ」
セシルの至極当然の疑問にユウはスプーンを唇に当てながら答えた。ユウの答えは当然セシルの疑問を解決出来るものではない。
「……ホントに良く分からない子だね」
セシルは最後はコレに帰結する、と疑問を飲み込んでハァとため息をついた。セシルはマオの真の事情については良く理解していない。というか、理解しているのは一部の教師とユウ、サキくらいのものだ。
第三者の目からは、怖がりのくせにわざわざ深夜にシャワーを浴びに行くというのは当然奇怪な行動に映るわけである。
一方のユウは「分かりやすい子だけどなぁ」と呟いて小首を傾げた。
「とりあえず、僕は女子寮には入れないから……マオに僕も心配しているよと言ってもらえるかな?」
「わかった。後でサキちゃんやシィちゃんを誘って、マオちゃんを訪ねてみるね。 ……ごちそうさまでした。それじゃあセシルちゃん、またね」
ユウは食べ終わった食器の横に持っていたスプーンを添えて、空いた食器をカウンターへと返しに席を立った。セシルはそれを見届けると、まだ食べ終わっていないコッペパンを手で千切りつつ「……大丈夫かなぁ」と不安そうに呟いた。ただ、マオの事に関しては彼女以外に頼る人がいないのだから、仕方がない。これ以上酷くはならない事を祈りつつ、ちぎったパンをパクリと口に入れた。
……その後、結局マオは部屋でスンスンと不貞寝を決め込み、今日一日は学園に来ることは無かった。そして、放課後。部屋から出てこないマオを何とか説得する「マオツムリ懐柔作戦」が決行される事となる。
サブタイ考えるのが面倒くさい……!




