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31. 夜中のマオ

 

 夜。チリンチリンと時計に設定した時刻に目覚ましが鳴った。


「ふわぁ……んむぅ……」


 オレはもぞもぞと愛しのお布団様の中で身じろぎをしてからひょっこりと顔と手だけを出して時計を止めた。夜の少し冷えた空気が肌を撫でる。うーむ……出たくない。しかし、このまま寝てしまうと、朝になってしまうのは明白だ。仕方が無いのでお布団様にしばしの別れを告げ、ベッドから飛び降りた。


「……じゅんびぃ」


 時刻は夜2時。この時間はいつもお風呂に入らねばと夜に一度だけ起きる時間にしている。 ……なんだか、この見た目くらいの子供がこんな時間に起きてはいけないような気もするのだが、こればかりは仕方がない。少しだけ背伸びをして、欠伸を一つついてから、着替えを取り出すべくクローゼットのノブにつま先立ちしながら手をかけた。


「……んぅ? ……んぁー……しまった」


 下着を入れているクローゼットのチェストの中にはインナーとパンツが2枚だけしか入っていなかった。…そういえば、面倒くさがって洗い物を貯めてしまっていた。元々合うサイズの下着が無かったから、実家からはそんなに枚数を持ってきていない。油断をすると、着るものがなくなってしまう。


 まあ…明日洗濯すれば良いか。


 準備を終えて両手で着替えとタオルを抱き込んで、玄関の扉を体当たりでゆっくりと開けて、浴場を目指す。既に消灯の済んでいる廊下は暗く、静まり返っている。灯りは最小限の小さな魔道具のみだ。


「右ヨシ、左ヨシ……」


 まずはキョロキョロと左右に異常が無い事を確認。 ……言っておくが、別に怖いわけじゃない。


 ただ、敵とかが出てきたりした時に対応できないと困るし、足元に何か落ちていて、躓いたら危ないからだ。本当に怖いわけじゃない。 ……ちがうったらちがう。


 ……ともかくだ。何も異常が無い事を確認さえ出来れば後は問題ない。浴場まですたこらさっさだ。扉をゆっくりと閉めて、ぱたぱたと走り出す。今いる2階の廊下を抜けて、階段を下りてから1階をずっと右に行けば浴場だ。


 浴場の少し重い扉を体当たりで開けると、浴場もすでに静まり返っていて、誰の気配もない。灯りがついていないから真っ暗だ。 ……実を言うと、浴場の灯りのスイッチは丁度この扉の横の壁にある。だが、残念ながらこれが絶妙に高い位置にあって、今のオレの背ではギリギリ届かないのだ。


 ……だからこうする。


「やさしきひかりよ、てらせ」


 手のひらを宙に掲げると、卵くらいの大きさの小さな光が降りてきて、オレの斜め上辺りでふよふよと浮かび始める。初歩中の初歩の灯りの魔術だ。正直、これが無かったら深夜のお風呂なんて絶対に嫌だったのだが……あ、いや怖いわけじゃなくて、ほら。その……えっと……。


 …………この件は置いておいて、この魔術のお陰で夜にシャワーを浴びる事が出来るわけなのだ。ちゃっちゃと脱いだ服を強引にロッカーにぶち込んでー……あとはシャワーをさっと浴びて退散だ。


 タオルを適当に引っかけて、魔道具の水栓を上に勢いよくベコンと押し上げてお湯をシャワーから出し……。


「ひゃわっ!?」


 ちめたっ!? ……み、水かよぉ……。


 ―――……。


「ふぅ。かえろ」


 ささっと行水を終えて、着替えを着て、荷物を抱え込んだその時だ。後ろのほうで突然ガタリという小さな音が鳴った。


「ぴぃ!?」


 大急ぎで後ろをばっと確認したが、何もいない。ただシンと静まり返った浴場が見えるだけだ。 ……ま、まさかねぇ、そう、きっと何かが落ちたりしただけだ。多分ずり落ちそうになっていたのだろう。はっはっは……は……は、早く帰ろう。


 意を決して、荷物をぎゅっと強く抱いてから、大急ぎで出口の扉に手を賭けて廊下に躍り出ると、大急ぎで廊下を移動し始めた。 ……そして、階段までたどり着いたところで、気が付いた。何か、後ろに…いる。というのも、ひたりひたりと、足音が聞こえるのだ。


 その足音はオレが駆け足になったところでトタトタと走る音に変わったのが分かる。これは、確実に……追われている……!生徒達は皆寝静まっているはずだから、この寮で今起きているのはオレだけのハズだ。まさか、お、おば……い、い、急いで逃げないと……!


 オレはぎゅっと目を瞑って階段を駆け上がる。 ……後ろの気配、その足音も一緒に駆け上がってきているのが分かる。足ががくがくと震えて、上手く動かない。だが、ここで止まってしまえば……ヤラれる……!


 振り返るな、振り絞れ。そう自分に言い聞かせながら必死で足を動かし、ようやく2階にたどり着いた。あとは自分の部屋までたどり着けば…!しかし、その希望を打ち砕くかのように、走り出そうと身を踊り出したところで、すぐ後ろにゆらりとソレは現れて…オレの肩を掴んだ。


「ちょっと」

「んにゃあああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」

「え、ちょ、ちょっと!?」

「や、や、やだぁぁぁぁ!!にゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

「お、おちつ、落ち着きなさい! ……あっ」


 驚きと恐怖のあまりに取り乱したところで、なんだなんだと周りがガヤガヤし始めた事で、ようやく少しだけ冷静さが戻った。震える体を力いっぱい起こして見ると、目の前には見覚えのある金の縦ロールの髪。剣術科の先生が気まずそうな顔でこちらを見下ろしていた。


「……ふぅ……ふぅ……せ、せんせぇ?」

「あ。え、えぇ。夜、浴場に忍び込んでいる者がいると報せがあって、見回りをしていた……の、だけど……」


 一通りの事情を説明しながら、金縦ロールさんがそわそわと慌てている。なんだ、そういう事かとほっとしたところで感じたのは、下腹部の違和感と、鼻に刺さる臭い。おかしいな?と自分の足元をみると、何やら……湿っているような……。周りに集まった生徒の目も何やら「あちゃぁ……」というような、同情をするような目に見える……。


 ………………。


「………………ふぇ……」


 恐怖と羞恥で自然と涙が溢れる。頭が真っ白になって、そこから先は良く覚えていない。


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