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29. ユウvsサキ

 

 放課後。


 吹きすさぶ風の中、二人の勇がその力の程を確かめるべく相対していた。


 一方はアルカ王国四侯、シャムロック家の龍、ユウ・シャムロック。一方は北方イングス王国からの刺客、バーストロワ家の虎、サキ・ユニア・バーストロワである。


 戦場はまるで互い以外の何物も寄せ付けないかのような圧を放っているが、二人の間に取り交わされる視線はまるで静かな湖畔のように静まり返っている。そこはただ、風がこれから始まる血の饗宴を今か今かと騒ぎ立てるばかりだ。


 ……まさに頂上決戦。互いに譲れない物を賭け、これから戦いの火蓋が切って落とされようとしていた……。


 ……と、シィが何やら面白そうにその場に勝手に作られた実況席で好き放題言っている。一方のオレはその横で、何処からか用意されたフカフカで座り心地の良い椅子に座らされていた。


 ……なんだこれ。


「あ、マオちゃんはこれとこれ付けてね」


 何処から用意したのか分からないが、シィに勝手に頭の上に赤いリボンが付けられ、首からは襷がかけられた。訝しみながら襷を手に取ってみると、中央にでかでかと太字で「本日の賞品」と書かれている。


 …………いや。本当になにこれ。


「…………にゃにこれ」

「勝った時の賞品とかあったら盛り上がるかなって」

「……………。」


 無言で頭の上のリボンと襷をペイとその場に放りつけて立ち去ろうとしたところ、にっこりとシィに捕らえられた。そのままオレは、逃げられないようにとシィの膝の上に座らされて、両手で体をがっちりとホールドされた。やめれ。


 ……おいこらそこの戦場の勇ども。羨ましそうにこっちみんな。


 何でこんな事になっているかと言うと、あのBクラスでの決闘宣言の直後、騒ぎを聞きつけたシィが「面白そうな事してるじゃん!」 ……と。ノリノリで色々と場をセッティングし、今に至るという訳である。周りには観客の生徒たちもおり、なにやらちょっとしたお祭り騒ぎに発展している。


 …………本当に、どうしてこうなった。今更だが真実を話せなかった事が悔やまれる……。あとで言い訳を考えておこう…。


「オホン。何か、妙な事になりましたが……私から申し上げる事は変わりませんわ。私が勝てば、マオを元に戻してください」


 サキはそう宣言すると、腰に帯刀したレイピアを抜刀し、ユウのほうへとその切っ先を向けた。一方のユウは静かに剣術科で借りたであろうショートソードを構えた。


 ブオンと大きな音を立ててコロセウムが起動したのを合図に、弾かれたかのようにサキがユウへ向かってそのレイピアを突き付けた。しかし、ユウはすぐさまひらりと最小の体の動きでそれを躱し、剣先はユウの体を掠めることなく空を斬った。


「……なるほど、やるようですわね」


 サキは後ろにユウを見ながらそうつぶやくと、剣を翻し、連続で突きを放つ。それはまるで生きているかのように様々な角度から、ユウに襲い掛かる。その突きを一つ一つ丁寧に剣で撃ち落とし、ユウはひらりと後ろに飛び退いた。その口が口ずさむのは魔術の詠唱。


 詠唱が終わると、ユウの目の前にゆらりと火球が現れ、それをサキに剣を振るって放った。しかし、それに反応して今度はサキが詠唱し、風刃でそれを相殺した。辺りは白い煙で覆われ、爆風が観客たちの髪をばさばさと靡かせた。煙が収まると、二人のシルエットが見えてくる。どうやら、ユウとサキも、傷は負っていないようだ。


「……防がれたかぁ」


 ユウは一言呟くと、今度は剣先に光を作り出して、それを放ちながら前進する。 ……今回の光はオレの時とは違って、随分鋭く、速く感じる。サキは横に飛び退いて光を躱した後、続けざまに風刃をユウに飛ばして対抗する。


 ……二人の実力は拮抗しているようで、魔術と剣の応酬が繰り広げられている。まるで踊るように戦う二人はどことなく楽しそうだ。


 …………むぅ。


「むぅー……」

「ん?マオちゃんどったの?」

「あれ、オレがやりたかったのに……ずるい」


 ……たしかにサキは強かった。騎士の家系で戦いに関して元々英才教育を受けているだけある。それにセンスも抜群なのだろう。だけど、オレだって今まで散々苦労してユウに立ち向かってきたのだ。これがこうもあっさり拮抗しているのを見せつけられると、全然面白くない。なんだったら今からでもアレに混ざりたいくらいだ。


「マオちゃんじゃあれはちょっと……無理かなぁ……」

「……むぅ……そんにゃことにゃいもん。オレだってあれくらいできるもん」

「もうちょっと大きくなってからね」


 そんなどうしようもない嫉妬をむすっとした顔で考えていると、シィが優しく頭をぽんぽんと撫でてきた。それはやめろ、とシィの腕を払いのけたところで、向こうからバキン!と大きな音が聞こえてきた。


 二人の方を見ると、どうやら剣の応酬を繰り返すうち、鍔迫り合いになったらしく、サキのレイピアが折れてしまったようだ。


 レイピアは突きの剣だ。細身の剣では鍔迫り合いは絶対に避けるべきであり、それに持ち込まれた時点でサキは不利だ。今回の勝負はユウが制した、という事だろう。


「……っ……参りましたわ……。いつもマオが言っていただけありますわね……」

「ふふ、楽しかったぁ。サキちゃん強いんだね」

「……ふ、敗者に口無し、ですわ。私も猫耳にでもなんでもお好きになさい」


 サキが諦めて目を閉じ、捨て台詞を言った。猫耳にでもしろっていうのもなかなかの捨て台詞だと思う。そんな台詞にユウがキョトンとした顔で首を傾げた。


「え?」

「……え?」


 ……そして、今まで火花を散らすように戦っていたとは思えない微妙な空気が、二人の空間を支配した。


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