24. 着せ替えマオさん
……王都の道中は、何やら至る所から視線を感じ、物凄く居心地が悪かった。
恐らくユウのせいだろう。コイツは黙っていれば胸が大きくてスタイルの良い、大人っぽい感じの美少女だ。で、そんなのにこのちんちくりんが手を引かれているから、物珍しいのだと思う。
「あ、お嬢さん。ごめんなさいね、そこ、花壇に水をやりすぎちゃって濡れているのよ。気を付けて」
不意に道の途中でおばさんが声を掛けてきた。帽子を直して前を見ると、たしかに少しだけ水たまりになっている。
「ご親切にありがとうございます。だって、マオちゃん。ちょっと逸れるね」
「妹さん?かわいいわねぇ」
「ふふ、ありがとうございます!」
妹……妹か……せめて、弟にしてほしかった。ちょっと泣きそうだ……。
……涙を気合で引っ込めて、しばらく道を歩いていくと、ユウが「着いたよ」とオレに知らせてきた。オレは良くずり落ちてくる帽子をくいっと上に押し上げて、ユウの体の先に目をやると、どうやら大きな店の前のようだ。
店は3階建てくらいであろう大きさで、横に長く伸びているため、店内は結構な広さのようである。窓から見える内装はシックな雰囲気で、いかにも格調が高そうに見える。店の看板には片喰の意匠が取り入れられているので、シャムロック家の展開する店だという事がわかる。
……もちろんだが、こんな店には人生で一度も入ったことは無い。いっそ縁も無いと思っていた。
ユウに手を引かれて中に入ると、やはり広い。そしてオシャレな婦人服がずらりと並んでいる。しばらく圧倒されていると、奥の方から店員と思われる女性が綺麗な所作で歩いてきた。黒髪の美人さんだ。
「こんにちは!」
ユウが元気良く挨拶をすると、店員さんは「はい、こんにちは」と微笑んでから、しばらく硬直した後「お嬢様!?」と声を上げて、あわあわと慌てはじめた。…ご愁傷様です。
「お、お嬢様!事前に言っていただければ!」
「ふふ、ごめんなさい。今日はね、この子の服を選びに来たんだ」
ユウがそういうと、おもむろにオレを前に差し出した。…仕方が無いので、帽子を取って店員さんを見上げる。
それが、どうやら幼女が上目遣いでうるうるとした顔で見てきていると思われたらしく、店員さんが妙な奇声をあげて口をおさえた。 ……いや、そんなつもりは無いです。うるうるとしているのは先ほど泣きそうになっていたのを無理やり引っ込めたからです……。
「お、お、お嬢様。これはまた、凄まじい逸材を……!」
「ふふふ!でしょでしょ!もう可愛くて可愛くて食べちゃいたい位可愛い子なの!」
「すぐに準備いたしましょうそうしましょう!」
「やった!お願いね!」
おーう……もう、逃げられなさそうだ……。あんなに張り切っている人の好意は流石に無下にできない……。
……個室に通されたオレは、店員さんとユウがきゃいきゃいと盛り上がっているのを遠目に見ながら近くの椅子に腰かけた。なんだか、周りの格調高さのせいで、場違いな気がしてきたし、早くも帰りたい。……また美しい世界に思いを馳せることになりそうだ。
しばらく雄大な大地と優しき海に思いを馳せていると、店員さんとユウがこちらに戻ってきた。結構な数を持ってきたのか、腕で抱える程度に服を持っているのが見える。……はいはい着ればいいんでしょう……。
「じゃ、まずこれね!」
ユウに凄まじい速度で引ん剝かれ、すっぽりと着せられたのは、シンプルな薄青のワンピースだったようだ。素体はシンプルながら肩がレースになっていたり、後ろの首元が紐で結べる感じで小さなリボンになっていたり、可愛さも忘れていないという一品……と、店員さんは言っていた。
鏡の前に引っ立てられて、全身を見る。流した銀髪と合わさって、清楚な感じと可愛らしさが両立されていて、尻尾穴が無いから少しだけ腰の所が盛り上がってしまってはいるものの……悔しいけど、物凄く似合っている……と、思う。
「きゃー!!可愛いいぃ!!ね、ね、回ってみて?」
……言われたとおりにくるりと回ってみる。ワンピースのスカートと銀の髪がふわりと浮かんでから、ゆらりと止まる。服の生地と髪が光に照らされて、さらさらと輝く。まるで月の妖精のよう、という言葉がぴったりだ。
……がっ……着ているのはオレ……なんだよなぁ…………。おかげ様で鏡に映った顔は不服を前面に押し出した表情だ。
「これは……破壊力抜群ですね……」
オレが複雑な顔をしていると、後ろの店員さんがうっとりした声で呟いた。 ……服に破壊力なんてあってたまるか……。いや、トゲとかついていたら強い……かも?いっそ剣を全身に付けてみたりするのはどうだろうか。
黄色い声を現実逃避で聞き流していると「次はこれね」と早着替えさせられる。次はゆったりめのブラウスに長めのスカート。色合いもベージュにホワイトと、シックで落ち着いた感じで、若干フォーマルな出達である。
「……凄く可愛いけど、サイズ大きいみたいだし、ちょっと背伸びしちゃっているかしら?」
「……ええ、滅茶苦茶可愛いですけど、もうちょっと大人になってからですね」
…………。
このまま大人になってたまるかァ!!!
もっと際どいのも着せちゃおうかな?と思いつつ、マイルドテイストなのです。
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