18. 修行の為に剣を借りよう
セシルと別れた放課後。オレはずっと気になっていたことがあって、武術棟を再度訪れていた。というのも、幼女魔法事件以降、色々なイベントがありすぎた結果、朝の感謝の素振り1000回をすることが出来ず、ずっとモヤモヤしていたのだ。
この修行はオレが、精悍でワイルドで以下略な大冒険者になるために必要な事であり、打倒ユウの足がかりでもある。筋肉は裏切らない。こんな体になったとしても、また修行は再開させる必要がある。
……ただ、入学の際に何故かマリにこれはダメと言われ、実家でいつも使っている剣は持ち出すことが出来なった。だから、剣術科から剣を借りようというわけだ。
武術棟では、在校生たちが木人を相手に打ち込みをしているようだ。……皆、逞しい体をしていて、振るわれる剣は風を切る音がはっきりと聞こえる。比べるために、自分の体に目を落とすと……うん、オレの腕はぷにぷにだ……決して羨ましいわけではない。
とにかく、オレも剣を拝借するために、傍にいたやたら綺麗な見た目をした教師であろう人物のほうへと向かう事にした。
「あの、剣をかりたいのですけど……」
「うん? ……剣?あなたが?」
オレが話しかけると、金髪縦ロールな教師は目を丸くして、オレの体を頭のてっぺんからつま先まですいっと眺め下した。しばらくすると、金縦ロールさんは「もう……」とつぶやいて、オレと目線を合わせるようにしゃがんで、こちらを見つめた。
「……何をするのか分からないけれど、剣はね、危険な道具なの。人を殺す事も出来てしまうのよ?悪い事は言わないから、危ない事はしないようにしなさい」
……なにか勘違いをされているご様子。別に本物の剣じゃなくて、訓練用の刃が潰れているものが欲しかっただけだ。おままごととかごっこ遊びに使う訳でもない。……使うと思われてそうな気がするけど。
「あの……くんれん用のヤツです。刃がつぶれている……剣のすぶりがしたいので」
「……え!?あ、ああ、そうなの?でも……あなたの体格に合うようなのは無いわ」
「え?いや、あの人たちと同じやつでいいんですけれど」
向こうで打ち込みをしている生徒たちの使っている剣は丁度オレが以前素振りに使っていた剣と見た目は同じくらいだ。恐らくあれくらいなら問題なく扱えるはずだ。
「……えぇ……?大丈夫かしら……」
金縦ロールさんは戸惑っているようだ。 ……自分で思っていて悲しくなるが、確かに今のオレくらいの、しかもこんな恰好した幼女が素振りしたいから剣を貸してと言ってきたらオレでも戸惑って悩む気がする。でも、ここで引き下がったら、打倒ユウも遠のいてしまう。ここは意地でも押し通らせてもらおう。
しばらく金縦ロールさんとオレがにらめっこをしていると、後ろから「あれ?」という声と駆け足であろう足音が聞こえてきた。
「マオちゃーん!どしたの、武術棟に用事?」
後ろから声をかけたのはクラスメイトのシィだ。抱き着いてきそうな気配を感じたので、オレはさっと金縦ロールさんを盾にした。金縦ロールさんは驚いているようだが、ここはシィの回避に利用させてもらう。
「……素振りをしたいそうなのよ。でも、危なっかしそうだから、どうしようか困っていたの」
「そうなんですかー。 ……マオちゃん剣使うの?」
「ちゃん付けするにゃ。しゅぎょーのためにすぶりすんの」
シィは「修行?」と首を傾げていたが、小さい子が背伸びをして頑張っているように思ったのだろうか、何か微笑ましいものを見る目になっている。そして、金縦ロールさんのほうへくるりと向きを変えてにこっと笑った。
「あ、じゃあ私が見ていますよ。私、武闘科志望ですし、危なそうなら止められます」
「あらそう……?じゃあ……ええと……うーん……これが一番マシかしら……はい。危ない事に使っちゃダメよ?」
金縦ロールさんは横にあった棚から、一番小ぶりであろう剣をシィに受け渡すと、終ったら返しておくように言付けして打ち込みをしている生徒のほうへと向かっていった。シィのお陰で無事剣を借りることが出来たが…完全な子供扱いに、素直に喜べない。
「それじゃあマオちゃん。これね」
「……おう。 ……んぅ?あれ?」
シィに「はいどうぞ」と手渡された剣は、両手で持ってもズシリと重く、いつも持っていた剣の数倍は重く感じる。試しに柄を両手で持ってみると、体の重心が剣のほうへと傾いて、ふらりと体が前へと揺れた。
…………おかしい。そんな……まさかとは思うけど……。
「マオちゃん?あんまり無理はしないほうが……」
シィが後ろではらはらしながら見守っているようだが、こちとらそれどころではない。意を決して振りかぶってみるが、ぐらりと体が大きく揺れて、振り下ろすどころじゃない。
「危ない!ま、マオちゃん。さすがに無理だって。やめておこう?ね?」
シィがオレの体を支えると、優しく諭してきた。小さくなった体では、剣をまともに振るう事が出来ないようだ。
「……ふ、ぇぐ……」
不意に目頭が熱くなって、感情が溢れ出す。情けない、今のオレは剣を振るうことも出来ないのか……。こんなんじゃ、ユウを倒すどころか、冒険者にだって……。そう思うと、涙がぽろぽろと止まらなくなってしまった。
「……あーあーマオちゃん、泣かないでぇ」




