16. 友達ゲットだぜ
朝の教室。オレは昨日と同じ机にもたれかかっていた。
というのも、レインボー毒殺未遂で気を失っていたが、気が付いたら朝だったのだ。時計を見ると、もう準備をしないと間に合わない時間であり、大急ぎで着の身着のまま準備して、ここに至るという訳である。 ……昨日の夜から何も食べてないせいで、お腹がキュルキュルとなっている。
そんな様子を気にしてか、一人の男子生徒がオレのほうへ来ると、心配そうにこちらを覗き込んだ。綺麗に整えられた青髪のショートヘアに海のような青瞳。おしとやかそうな顔に高い声、小柄な体は制服が男物でなかったら、まるで女の子のようだ。
「あの、大丈夫……?」
初日は女子生徒にもみくちゃにされていたから、男子に話しかけられるのはとても新鮮だが、残念ながら今はエネルギー切れである。
「……おにゃか空いた」
「お腹……ビスケットで良ければ……どうぞ?」
「マジ!?」
青髪くんがカバンから取り出したのは、可愛らしい感じに紙に包まれたビスケットだった。オレはすぐにそれを受け取ると、大急ぎでかぶりついた。
……ちょっと一口が大きすぎたようで、飲み込めない。しばらくもごもごしていたが、ようやく飲み込めそうで、ゴクンと飲み込んだ。すっからかんになったお腹の中に、充足感が溢れる。はぁ、生き返る。しかも青髪くんはすぐに水筒も差し出してくれた。水筒は専用の魔道具のようで、中のお茶はほんのり温かい。 ……なんて良い奴なんだ。どこぞのメシデスとは大違いだ。
「はふぅ、いきかえるー、あんがとにゃ! ……えっと?」
申し訳ないが初日の自己紹介は、ささくれハートの影響でほとんど聞いていなかった。青髪くんは笑って「セシル・レーネスだよ」と答えてくれた。結構な無礼だったと思うのだが、やっぱり良い奴だ。
「そーか!セシル、この借りはそのうちかえす!」
「あはは……。気にしなくても良いよ」
ふむ、借りも要らないと……つくづく良い奴のようだ。それに、そばにいて、無遠慮にべたべたと触ってこないのもとても良い。折角の学園生活だ、ここは是非友達になりたい。オレは残りのビスケットを頬張りながら、青髪くん改めて、セシルの方に手を差し伸べた。
「にゃあ、セシル。友達に、にゃらにゃいか?オレはマオ・ウィンディ。ウィンディ家のちょーにゃんだ!」
「ちょーにゃん?」
「ちょうにゃ……にゃ……ちょうにゃん……うむ。きにするにゃ」
この体は何故か「な」の呂律が周らない。もう言えない単語はスルーだ。よく考えたら長男って言っても信じてもらえないし、気にしないことにする。セシルは友達の件に関しては、すぐに「こちらこそ、よろしくね」と言ってくれた。
友達、ゲットだぜ。
「ところで、今日マオはどこの学科へ見学に行くの?」
セシルが訪ねる。今日はHR後、自分の修める予定の各学科の説明である。オレ的にはいの一番にハンター学科に行きたかったのだが、特待生の縛りがあるため、今回は大人しく魔術科に顔を出すことにしている。
「魔術科。ちょっとやぼようがあって」
「あ、じゃあ一緒だね。僕も魔術科に行くんだ。一緒に行く?」
これはまた重畳である。というのも、一人で向かうと、恐らく「迷子?」と何度も声を掛けられる。というか、このクラスに来る最中も何度か言われているから、何をか言わんやってヤツだ。
迷子キャンセルシールド、ゲットだぜ。
「おう、一緒にいこっ」
オレは笑顔でセシルに返した。ちょっと顔が赤らんだセシルの口からボソッと「か、かわいい……」と漏れていたが、うん、気にしない。クラスでオレの笑顔をみたであろう連中の口からも「かわいい……」と漏れていたのが聞こえているが、気にしない。
……気にしないぞ。




