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10. お涙頂戴

 

「きゃあああ!かわいいい!!なにこの生き物!!」

「ほんと、かわいいわよマオ。ぷふっ……似合ってるわ」


 ……オレは大きな鏡の前に立たされていた。実はこれが客観的な自分を見る初めてである。何か、今の自分の体を見たら何かが崩れ落ちそうで、シャワーと着替えはずっと目をつぶったり逸らしたりしていたし、反射して不意に自分が映りそうなものには極力近づいていなかったのだ。


 鏡に映ったそれは何故か以前より長く、背中まで伸びた銀の髪にくりっとした澄んだ黎明の空のような大きな紅碧の瞳。小さいながらすらりとした鼻に可愛らしい小さな唇。そこに幼いあどけなさが加わり、小動物を彷彿とさせる。

 恐らく、一般的に見れば、とんでもない美少女…だろう。それが、リボンに鈴を付けて、恥ずかしさから目が潤んでいる。……これが、自分じゃなかったらオレもただ可愛い子だな、と思うだけだったと思う。だけど、鏡に映ったその子はオレが右手を動かすと、右手を動かすし、髪を振ってみれば、同じく髪を振る。まぎれもなく自分の体である。


 ああ……崩れ落ちそう、というのは多分これの事だ。自分の中にあった堰が段々と緩んでいくのを感じる。

 ……これ……ヤバい……。


「ふ……う……ふぇ……」

「「……え?」」

「……うぅぅ……ふぇぇぇん」


 不意に感情が爆発し、大粒の涙が自分からあふれ出した。自分は普段何があってもほとんど泣かない子供だったはず。それが、こんな事で涙を制御できなくなるとは……。


 ……頑張って止めようとしてみても、感情が洪水のように出てきて、止まらない。そんなオレの涙に、後ろの二人もあたふたしているのが、気配で分かる。


「ご、ごめん、ごめんね。からかいすぎたわ。あぁ……ほら、泣き止んで。ね?」


 母さんが優しくオレを抱き寄せる。ぶっちゃけ、ユウの前でこれやられるの、物凄く恥ずかしくて辛いんだけど……。でも、涙が止まないから仕方なく、母さんの服をぎゅっと掴んで涙を押し付けた。


「ごめんなさい……無理やり着せるものではなかったね……」


 ユウも申し訳なさそうにしている。……そういえば、ユウがこんなに動揺して謝るなんて、初めてかもしれない。

 まあ……この涙、着せられたというのも勿論あるのだけれど、今の自分の姿をハッキリ認識してしまったからという所に因る所が大きい気がする。


 しばらく涙が溢れていたが、だんだんと心が落ち着いてきて、ようやく涙は止まった。それを確認して、ほっと一息ついた母さんがオレの両肩を優しくつかむと、目線を合わせてこちらを見つめた。


「……制服、どうしても嫌?」


 機嫌を伺うように、こちらに尋ねてくる。心の中の声を大にして言わせてもらえば「嫌にきまってんだろ」なのだが……。こう、優しく諭されると、なんか、こちらが我儘を言っているかのような錯覚に陥る。仕方がないから、ちょっと腫れてしまった目をそらしてボソと小さな声で呟く。


「鈴取ってくれるにゃら……」


 これが、最大限の譲歩。窮地を助けてもらって、制服まで作ってもらった手前、あまり大きな声で文句も言えない。母さんがユウの方へちらっと視線を送ると、ユウもこくりと頷いた。とりあえず、鈴はとってもらえることになったようだ。


 ……しかし、泣いたら、なんだか物凄く…眠い。


 今の今まで、いろんな事がありすぎてあまり良く眠れていなかったのもあるのかもしれないが、瞼は鉛の様に重く、気を張ってないと落ちて来そうで、足もがくがくだ。……子供って不思議なハンデ背負ってるんだな……。ぼんやりとそんな事を考えていると、うつらうつらしているオレに気が付いたのか、母さんがひょいとオレを抱っこで持ち上げた。


 ……あ……なんか、温い。ねむ……ふぁ……。


 ヤバいと思いながらも、言い知れぬ心地よさに屈したオレはそのまま意識を手放した。


―――……。


「泣き疲れちゃったのね……。それにしても、こうしていると、完全に小さな女の子ね……体が変わると、心も影響受けるのかしら。マリと違ってほとんど甘えたりしない子だったのだけれど……」

「……泣いた顔も……眠った顔も……天使ね」

「あー……ユウさん?あまりうちの息子……娘?を、いじり倒さないようにしてくださいね?」

「……善処します」


 ユウは今だ熱の籠った目でマオの事を見つめている。「あ、これ善処されないな」と、ラミは察したが、逡巡のち、仕方ないと黙っておくことにした。


 余談だが、この後帰りの馬車の中で目覚めたマオが、目の前で迂闊に眠ってしまった羞恥と「リボンも取ってというのを忘れた……」という二重やらかしに絶望する事になる。


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