9. 奴の牙城にて
オレは制服を受け取るため、母さんと共に、憎き奴の牙城を訪れていた。
その牙城……シャムロック邸の客間。その禍々しきモノは誇るように中央に鎮座していた。
ブレザーは女子用のものがそのまま取り入れてあるが、首のリボンは大きめのモノになっており、中央には金の鈴が付いている。下半身はズボンではなく、スカートであり、ご丁寧に尻尾穴がついていて、その穴には小さなリボンがあしらわれている。何より恐ろしいのは、何故か今の自分に丁度良いサイズな気がしてならないという点だ。
……これを……着ろと……?
「ホントはもっと可愛くしたかったのだけれど、デザインを逸脱したのは駄目ってことで、普通のに少し加工するだけになっちゃったのよね、残念」
さらりとトンデモナイこと言うユウを睨みつけてみると、いやに良い笑顔をしている。まるで、「自分、仕事しました」と言わんばかりである。実に、実に余計な仕事なのだが……!
「にゃぁ……」
「なぁに?可愛く鳴いちゃって」
「ちっがう!にゃがいえにゃいんだ!オレ、オトコノコ!コレ、オンにゃノコ用!あんだすたん?!」
「オンにゃノコじゃない」
「マネすんにゃ!」
くそ、これはこのまま続けても、多分埒があかない。仕方がないから、横に控えている母さんの方へぐるりと向きを変え、制服を指さしてしかめっ面をする。
「母さん!」
「あらいいじゃない」
「まだにゃんも言ってねーよ!!」
話にならない!こうなれば、兵法にも書いてある通り……三十六計逃げるに如かずだ!
オレは足に力を込めて、後方にあるドアへと駆け出し、レバー式のドアノブを小さくジャンプして華麗につかむと、一気に下に引っ張った。しかし、かちゃんと乾いた音がするばかりで、扉は開かない。扉の隙間へと目をやると、ラッチが横に突き出ているのが見える。
……外から鍵掛けやがったな!?
他に逃げ場はないかときょろきょろ辺りを見回していると、不意に、後ろからおぞましい寒気がしてきた。恐る恐る振り返ると、笑顔のユウと母さんが制服を持ってこちらに音もなく詰めよってきていた。
間合いは……半歩。万事休す、もう、間に合わないだろう……。
「……ひっ……」
口からひきつった悲鳴が零れる。……しかし、悪の権化達はその手を止める事は無かった。
「……さ、お着換えしましょうね」
「んにゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!?」