表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1,000文字以下の短編

[短編]今日もニブい上司の助手を名乗る

 重いガラス戸を開けて中に入る。

 一瞬でメガネが曇った。


「おはようございます」


 曇ったレンズの向こう側にはイケメン警備員。

 ああ、金曜日か。

 私は挨拶を返して階段を上った。



 イベントに関係することならなんでもやりたい社長の影響か、設営、運営、営業の部署は活気がある。

 私の所属先の総務は静かだ。


 今朝も上司で同い年の長瀬はコーヒーを淹れている。


「警備員さんからレンタル品の破損はなかったってさ。今日は環菜(かんな)さんが書類受け取ってくれた」

「そうですか」


 社長の方針で夜間は警備員が常駐する。深夜早朝でもイベント用品のレンタルやその返却を受け付けるためだ。破損があれば後日担当が確認して請求することになっている。


「それで、高野さんに相談が」


 私のカップにコーヒーを注ぎながら、長瀬が声を(ひそ)めて言った。



「最近、環菜(かんな)さんの仕事配分が上手く出来ていないみたいなんだ」


 長瀬が言うには、急ぎの仕事はないはずなのに、残業や朝早く出社して仕事をしている。

 過重労働(オーバーワーク)をしないように仕事配分をしているはずなのに、実際は負荷が多いのか。

 それとも何か悩み事があって仕事が溜まったりしているのか。


 私は湯気で再びメガネを曇らせながら長瀬の話を聞いた。


「悩み事があるか聞くつもり。でも同じ女性同士じゃないと話せない内容だったら、高野に頼みたいんだ」


 こそこそと話す長瀬の肩越しに、返却記録を入力している環菜(かんな)の姿が見えた。


 私はこくりとコーヒーを飲んだ。

 美味しい。


「要は環菜(かんな)が定時退社すればいいんですね?」

「うん。体にもよくない」



「わかりました」








 私は近くの電話から内線通話をする。

 そして、電話の相手に彼女の有無と環菜(かんな)についての印象を聞いた。


 《彼女なし。環菜(かんな)は好み》


 それだけをメモする。


「課長、これを環菜(かんな)に渡して、『警備員室に物品の貸出受付書類の補充を()して欲しい』と口頭で。それで定時退社しますよ」


 長瀬は不思議そうな顔をしたまま、環菜(かんな)の席に向かった。


 その日から環菜(かんな)は定時退社するようになった。










 ある朝、長瀬に聞かれたので私は答えた。


「警備員と話すために残業と朝早い出勤をしていたんです。少しでも印象付けるために。その証拠にあのイケメン警備員の時だけ、残業と早い出勤です。

 互いに好意を抱いているなら、勤務時間外に会った方がいいですからね」

「高野さんはすごいね。僕の助手なんて呼ばれて心外だろう?」

「私が助手だと言いふらしているだけです」


 不思議そうな長瀬。


 長瀬はニブい。









年若い課長なのは、他の上司が現場好きすぎて「総務、やだー」と長瀬にお鉢が回ったから。

高野は内心ガッツポーズでした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i605003
― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵でした♪ 両方が上手くいくといいなぁと思います。高野さんの観察力、凄かったです。読ませていただき有り難うございました。
[一言] 環菜……あの女優の顔しか想像できない…… きっと警備員は平○みたいなイケメンだな。
[一言] 短い話のなかで上手くまとめましたね。 連続ドラマとかにできそうな作品。 長瀬と高野の関係ははどうなるんでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ