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おなかすいた

作者: 童貞卓

俺のこれまでの生き方は怠惰を極めていた。

自発的に動くことはほぼなく、与えられた仕事もろくにこなせないでいた。当然、仕事をこなせないと叱責をよく受けた。最初のうちは、それが嫌で、その場しのぎの嘘をついてやり過ごしていた。

しかし、それすらも面倒になってきた頃には仕事を与えてくれる場所も無くなっていった。

家もなけりゃ、明日生活できるかどうかの金すらない。正直、焦った。頭の中が真っ白になった。

だが、七日も経てば、焦って真っ白になった頭の中は唐揚げのいい匂いで埋め尽くされていた。当然だが、俺には一銭もない。


ーーー金がないのになぜ唐揚げが食べれてるのか。


そんなことはどうでもよかった。俺は唐揚げを食べたと思うことによって唐揚げを食べれているのだという実感が得たいのであった。


改めて自分について考えてみると、自分は他の人との圧倒的な壁を作りたがっていた。自分のことを特別視していた。時には、己を神に選ばれた人であると思うこともあった。

怠惰な性格のくせに、人から叱られたくないから嘘をつく。これは、周りに弱みを見せたくないという気持ちがあっただろう。ない体裁を保ちたかったのだろう。

そんな性格はここまで追い詰められているのにもかかわらず一切変化しなかった。だから、自分が唐揚げごとき食べられないと感じたら、俺は俺でなくなってしまうかもしれない。


口の中に不快感を覚える。顎を動かすとジャリジャリと、音がする。腹が減った。俺は細くなり、棒のようになった脚に力を込め、立ち上がった。

今からショクドウに向かう。

そこには、安っぽい緑色のプラスチック製のスコップを持った女達が店員として働いている。そこには、背広を着た俺と同じような客の男がいる。


「また来たの。おじちゃん。」


「すいません、唐揚げ定食大盛りを一つ。」


「はーい」


女から差し出された唐揚げをもらう。

指が震える。随分前から景色がぼやけて見えるようになっているため挙動が遅くなってしまっていた。

風が吹いた。とても心地の良い爽やかな風が吹いた。

唐揚げは風とともに舞い上がって塵となった。





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