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初めての料理対決


ガッシャーン!!



奥の部屋から大きな音が鳴り響いた!


思わずビクッとして、キープは身をひそめる。



その次に、

「あああああ!!」



変な声の叫びと、


「え、本当にそれ入れるんですか?」

マタルの声が聞こえてきた……。



(……)

一体奥の部屋で何が行われているんだろう……。


料理のハズなのだが……。


バーン!!


今度は爆発音が聞こえてきた……。



「な、何でヌメヌメに!」

「ちょ、ちょっと、こっちに来ないでぇぇぇー」


ナシュとマタルの声が響く。



(ヌメヌメって何!! そんな食材あったっけ?)


二人の声にキープは気が気でない。



「ヌメヌメがヌチョヌチョに!」


(あう……)

落ち着きがないキープに、横にいたエニフが優しく声を掛ける。


「大丈夫ですよ、キープさん。 お二人を信じましょう」


落ち着いた優しい声に、キープも落ち着きを取り戻す。


「そ、そうですよね。 食材は食材ですし」


キープの言葉に、エニフはニッコリと、


「万が一には『メサイア(蘇生)』がありますから♪」




全然大丈夫そうではなかった……。








そうして、第一回料理対決の試食が始まった。



落ち着きのないマタルと、落ち着いているナシュ。

想像していた構図と逆になっていた。


「じゃあ、まずは私か__ 」

「私から行きます!」


ナシュの声を遮って、マタルが大声で先攻に名乗りをあげる。


(危ない、ナシュさんのから食べると、私のを食べる前に師匠が倒れるかもしれなかった)


マタルは急いで、奥の部屋から料理を持って来ると、キープの前に皿を置いた。



「師匠、野ウサギの香草焼きです」


出された皿の上には、一口大に切り分けられた肉と、何種類かの香草が美味しそうな匂いを漂わせている。


見た目的にも美味しそうに盛り付けされており、香草も色ごとに置かれて彩りも綺麗だった。


「冷めないうちにどうぞ」


マタルが嬉しそうにキープに薦める。



「えと、じゃあ、頂きますね」


キープはフォークを持つと、肉の一切れと香草を少し乗せて、一緒に口に運ぶ。



そうしてモグモグして飲み込むと、



「美味しい……」



昨日の料理も凄かったけど、この香草焼きもかなり美味しかった。



キープの言葉に満面の笑みを浮かべるマタル。



焼き加減も申し分なく、固くなりすぎず、脂が少ないにも関わらずパサつきがない。


また、肉の匂いが余りしないウサギだが、香草によって匂いでも楽しめる。


何より、キープに合わせて一口サイズに切り分けてくれている配慮等も嬉しかった。



少食なキープであったが、これにはどんどん手が進み、全部食べきった。



「マタルさん、美味しかったです! ありがとうございます」


キープがマタルにお礼を言うと、


「いえいえ、これも勝負ですから!」


勝ち誇った顔でナシュを見た。




「じゃあ、次は私ね」


ナシュが奥の部屋に行き、料理の乗った皿を持って戻ってきた。


キープの前に皿を置く。



(……)

「……」

キープの瞳には黒い塊だけが映っている。


キープの脳裏に過去の記憶が蘇る。


それはカインが祠から持ってきた物。

ミーシャに呪いを掛けた物。



黒水晶。



「キープ?」

ナシュの声で我に返った。


ナシュの料理を見ただけでトリップしていたらしい。



改めて見ると、真っ黒ではあるものの、完全に丸ではなく平べったい楕円形をしている。

それが皿の上に大量に置かれていた。


(こ、これは何て言う料理だろう??)


戸惑いが止まらないキープの為か、マタルが、


「ナシュさん、料理を持ってきたら料理名を言わないと」

助けてくれた。


「こ、これは、クッキーよ」


「……」

「……」

「……」


キープ、マタル、エニフの三人からは何の言葉も出ない。


ようやくキープが、

「えと、じゃあ、頂くね」


恐らく30枚はある……。


(震えるな! 落ち着け!)


手の震えを必死に押さえて、手を伸ばす……。


一枚掴んだ。


サラサラサラ……。


灰になって消えていく……。



「……」

(掴むことすら出来ないなんて……)


「あ、今のちょっと焼きすぎたみたい。別のなら大丈夫だよ」


灰になるほど焼いて「ちょっと」らしい。




別な物体を掴む。


今度は握ることが出来た。


……が、持ち上げた瞬間粉々になって手からこぼれ落ちる。



「……」


「あ、ごめん。 それも焼きすぎたのかな?」

ナシュが首を傾げる。




焼きすぎたとか言う程度なんだろうか?

もうキープには分からなかった。



無心で次のに手を伸ばす。



次は掴めたし、持ち上げることが出来た。


ようやく食べれる。




キープは口に運ぶ。


目を閉じて、舌に全神経を集中させる!


一噛み、二噛み、……。



「……美味しい」


「そんな!」

マタルが叫んだ!


見た目黒い物体なのに、サクサクで焦げた味もしない。


甘すぎず、かといって甘くないわけではない。

丁度良い甘さだった。



キープは次々とクッキーに手を伸ばす。

どれもこれも美味しかった!

最初の二枚は何だったのか?

今までで最高のクッキーだった!!


「勝負はナシュの勝ちです!」


キープは立ち上がると高らかに宣言したのだった……。






「……プ! ……ープ! キープってば!」

「こうなったら……」


パン!


頬に痛みを感じて目を開ける……。


心配そうな、銀の瞳と緑の瞳が見えた。



「キープ、大丈夫?」

ナシュが泣きそうな顔で覗き込んでいる。


「あ、あれ? ここは?」


何故かキープは床の上で寝ていた。


「良かったです。 うまくいって……」


マタルもほっとしたような顔をしていた。




「一体何が?」


戸惑うキープにナシュが、


「ごめんね、キープ。 私のクッキーを食べた後、そのまま倒れて……」


マタルが引き継ぐ、


「心臓が止まったので『メサイア(蘇生)』で生き返らせたところでした」







……は?




…………え?



「え?ええ? 僕……死んだの?」


「……え~と、はい、そうなります」


マタルが気まずそうに目をそらして返事をした。



話を聞くに、ナシュのクッキー食べた後倒れて死んだらしい。


……じゃあ、あの美味しかったクッキーは……「夢」だったのか。






「何て言っていいか……」

さすがのナシュもかなり落ち込んでいる。




そんなナシュの頭に手を乗せて、


「えと、死にかけはしたけど、ナシュの思い出クッキーは伝わったから……」



ナシュはその言葉に、


「キープ~!」


キープに抱きついた!





それを見ながら、マタルは、

(「死にかけた」と言うか、死んだのですが……)


エニフは、

(これ、いい話なのかしら??)


突っ込みたいけど、突っ込めない二人であった。





ちなみにこれ以降、ナシュは調理当番から外されることになるのだった……。

ウサギ食べたこと無いんです!


だって可愛いですよ!



応援と評価、ブクマ、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 見た目ですでにヤバいのにそれに気づかないってことはナシュって黒いクッキーしか見たことない説 [一言] 灰はやべーなw 料理の概念壊れるww
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