初めての女性パーティ
翌朝
「おはようございます」
冒険者ギルドに入ると結構混みあっていた。
受領したクエストについて計画を立てているパーティがあちこち見られる。
キープはイリーナを見つけると、そちらに向かいつつ、
「ふぁ~あふ」
少し欠伸が出かけたのを慌てて抑える。
しかしイリーナにばっちり見られていたようだ。
「おはようございます、キープさん。寝不足ですか?」
「あはは……見られちゃいましたね。え~と少しだけ夢見が悪かったので」
悪戯っぽく言ってきたイリーナに対して苦笑しながら返した。
昨夜の夢は好き好き言いながらロードが追いかけてくるという、聞けば笑えるが本人としては最悪な夢だった。
おかげで夜中に2回ほど目を覚ます羽目になった。
(それもこれもロードさんのせいだ!)
本人は何もしていないのにキープの恨みを買うロードだった。
「こちらがキープさんに紹介するパーティです」
イリーナさんが紹介してくれるが……、
「ええと、ここにいる4名以外にいらっしゃいます?」
「いえ、『紅の三日月』はこちらの4名パーティです。ランクは銀ランクになります」
イリーナが言うが……キープは少し戸惑っていた。何しろ……、
「全員女性ですよね?」
「そうですね。そうなります」
そう、キープの前にいる『紅の三日月』は4名全員が女性だった。
4名とも年齢は見た目20台前半ぐらいだろうか?
戸惑っているキープを余所に、4名のうちひとりが一歩前に出る。
「このパーティのリーダーをしている。カペラだ。ジョブとしては斧使いで両手斧を使っている。そこらの男よりパワーは上だぜ」
カペラは真っ赤な髪でかなりのショートカットだ。女性だが本人の言う様に筋肉が盛り上がりかなり鍛えられているのが鎧越しでも分かる。
身体つきも大きく、身長もキープより結構高い……ロードと同じぐらいだろうか?
言葉からも身体からも自信が溢れている。はっきりした物言いで気が強そうだ。
そう思っているとカペラの左側にいた女性が、
「うちはアルタイル、盗賊をしているの。 斥候や罠探知などが得意よ。よろしく~」
細身だがスタイルがかなり良く胸はそれなりの大きさがある、茶色のウェーブが掛かったセミロングの髪を後ろで1つに束ねている。
ゆったりした物言いで、お姉さんタイプらしい。
「じゃあ、次は私ね」
キープと同じような身長の小柄な少女が前に出て来た。
「私はベガ、こう見えてドワーフなの。 近距離では格闘、遠距離では弓を使うわ。 よろしくね」
キープの中ではドワーフとはずんぐりしているイメージだったが、ベガはそうでもなく、小柄ながらカモシカを思わせる躍動感を感じる。顔つきも可愛らしく、黒い髪をツインテールにしていた。
明るい喋りでムードメーカー的存在かもしれない。
「最後は私」
3人の後ろから影が差すようにすっと前に抜けて来たローブ姿の女性。
「私はデネブ、魔術師よ。 魔法職同士仲良くしましょうね~」
妖艶な雰囲気を出しつつ挨拶してきた。
ゆったりしたローブにも関わらず、胸がその存在感をかなり主張している。
と言っても、腰回りは細くくびれており、ボン・キュ・ボンをそのまま描いたようなスタイルだった。
紫色の髪をストレートで腰まで伸ばしており、かなりの美人であった。
「あの、僕男なのですが……?」
女だけのパーティに男が入ると色々問題がありそうな気がして早々に告げるが、
「ああ、イリーナに聞いてるよ」
カペラが知ってると言わんばかりに答えた。
「うちらが女の子パーティなのは男が嫌いなのが理由だけど……」
アルタイルが引き継ぐ、
「男自体が嫌いと言うわけじゃなくてね、男の野蛮で・不潔で・暴力的で・自己中で・乱暴で・仕切りたがり屋で……そういった所が嫌いなのよね」
(それって男のイメージなのでは?)
キープが思っていると、続けてベガが
「その点、キープさんはそんな感じではなさそうでしょ?」
明るく話しかけてくる。
「でも、僕も男ですよ?何があるか……」
少し赤くなってしまう。
「へ~何かあるって?」
アルタイルが意地悪く訊き返す。
「えっと……年頃の男ですし……その我慢とかが……」
ニヤニヤしつつカペラが、
「キープはあたいらに力ずくで何か出来そうかい?」
力ずくで……出来るわけがないだろう……多分力は一番弱いはず。
「無理です」
即答した。
「だから安心なのよ。可愛いし、清潔だし、暴力とかもなく、仕切る様な感じでもないし……何より女の子に無理矢理~とかできないでしょ?」
ベガが笑いながら見つめてきた。
「『紅の三日月』のみんなには、キープさんの事を話したうえで承知して貰っているわ」
イリーナも続ける。
「って訳で、こっちとしては別に問題ないわけだ」
ぽんっとカペラが手を叩く。
「キープが嫌じゃなければ……」
デネブが静かに告げる。
キープとしては、色々お願いした立場もある。
冒険者としてではなくプライベート面での不安はあったがパーティに加えてもらうことにした。
……ただし、キープは気付いてなかった。
肉食獣は男だけではないという事に……。
『紅の三日月』メンバーは全員男の野蛮的な所が嫌いである。だが、別に男自体が嫌いな訳ではない。
これはアルタイルの言っていた通りである。
つまり「野蛮でなく、清潔な、暴力を振るわない、自己中心ではない、丁寧で、従順な」男には興味があるし恋愛対象だ。
メンバー達もイリーナからキープの話を聞き、興味が湧いたので会ってみた結果、理想通りの男だった。
かくしてメンバーそれぞれの思惑を胸に、キープを入れた新パーティが結成されたのだった。
キープ達はさっそく今後の予定を話し合う事となった。
クエストとしてカペラがチョイスしてきたのは、
【オーガーの討伐】
銀ランクであれば平均的なクエストで、もちろん『紅の三日月』も何度か経験をしている。
明日出発することにして、色々各自準備することで今日は解散となった。
(どうしようかな?)
キープは昨日のうちに準備をしていたので、少し時間を持て余していた。
なんとなく歩いていくとマーケットの広場にたどり着いた。
「あ、あの!」
後ろから声を掛けられて振り返ると、17、8歳だろうか? 青年が赤い顔で告白をしてきた。
キープがげんなりした顔で男と告げると、ロードの様に泣きながら走り去っていった。
(なんかデジャビュ……夢に出ないといいけど)
ちょっと気落ちしていると、
「あ、あの!」
後ろから再度声が掛かった。
(またか……)
振り返るとそこにはアルタイルがいた。
「アルタイルさんでしたか」
予想と違ったので安堵しつつも、今度は(どうしたのだろう?)と思った。先ほど別れたばかりだが……。
「『さん』付けしなくてよいよー、うちもキープって呼ぶから。それでね~、せっかく新しく組むわけだし、キープの事を色々知っておきたいなーと思って……」
笑顔でずいっと寄りつつ、キープに話しかけてくる。
「良いですよ、確かにパーティを組むわけですしね」
少しのけぞりながらキープも頷く。
「ええと、ではどこかお話出来る場所とか……」
「キープはどこに宿泊しているの?」
「? 『狐のお宿』って宿ですけど……どうかしました?」
「では、キープのお部屋でお話しましょう!」
「ええ!? でも……」
「さぁさぁさぁ……」
アルタイルに手を引っ張られ、引きずられる様に宿に到着した。
「あ、おかえりなさい……ま……せ?」
狐の子が目を白黒させて引きずられるキープを見送る。
「部屋はどこなの?」
「2階の端です」
有無を言わせぬ迫力につい答えるキープ。
部屋の前来ると扉を一気に開き、キープをぽいっと中に入れる。
部屋は清潔に使用している為綺麗に整っている。
アルタイルは満足げに頷く、
(よーしよし、綺麗じゃん。 清潔感もあって良し!)
「さぁさぁ、キープ。 お話しましょう」
お話と言いつつ、オオカミが羊を狙うような雰囲気が出ている。
キープにはアルタイルが舌なめずりをしている様に見えた……と、
「おじゃましまーす」
「ここかぁ……結構綺麗じゃん」
「ここが……」
部屋にベガ・カペラ・デネブが入ってくる。
「な! あ、あんた達……」
驚くアルタイルに、
「あたいらもキープの事知っておこうと思ってな」
カペラがニヤリとすると、
「そーです、そーです、私たちはパーティなんですからね!」
ベガも同意を主張。
「連携の為に、色々知っておいた方がいい」
デネブも続けた。
「くっ……!」
悔しそうなアルタイルに、
(抜け駆けはさせねーよ)
3名の視線が交差する
アルタイルの拘束が緩んだキープは、好機と見るや
「みなさんも、どうぞどうぞ」
部屋へ招き入れた。
こうなってはアルタイルもどうしようもない。
その後部屋で和気あいあいと女子会の様なおしゃべりが続いた。
夕方には4名とも帰って行ったが、お互いの戦闘時の動きや使用する魔法を知ることが出来た。
(仲良く話せて良かった……男一人だったから心配だったけど……大丈夫そうだ)
半ば引きずられる様に連れてこられたのを忘れてのんびり安心しているキープだった。