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初めての天然牢


ひんやりとした空気が体を包む。


薄暗く、どこかで水滴が落ちる音がする。


キープは藁の上で寝転びながら天井を見ていた。


キープの目には硬い岩盤が映っている。

ちらりと横を見ると、堅い木で作られた格子が見える。



キープは今、牢屋に閉じ込められていた。


(なんかデジャビュを感じるなぁ……)


王都についてすぐ、鉄格子の馬車に乗せられたのを思い出す。


あの時は、キープの為であり、監禁も守るためだったのだが……。



(今度は本当に捕まって……このままじゃ死刑になってしまう)


何か手はないか……、キープは横向きになると目を閉じて考え始めた。






「な、そ、そんな! 女王様」


いきなりの死刑に大声を出したのは、なんと後ろにいた女エルフであった。


「なんじゃ?どうかしたのか?」


女王が女エルフを一瞥する。



「た、確かに領地への侵入はありましたが、理由もあるかと思われます。それを確認してから判断を下すのが女王様としての役目ではございませんか?」

「確かにそうじゃな」

「で、ございましたら……」

「しかし、決断するのはわらわであろう?」

「そ、そうではございますが……」

「では、決定じゃ。下がれ」

「……」


女エルフは口をつぐむと、そのまま下がった。



「あ、あの、本当に申し訳ございません。 ですがせめて話だけでも……」

キープも続けて声を上げるが、女王は無言で手で『下がれ』と仕草で示した。


「で、ですが……」

死刑宣告のまま下がるわけにはいかない。


「だまれ……『サイレンス(沈黙)』」

女王が魔法を詠唱し、キープを無理矢理黙らせる。


「下がらせろ」

キープ達の後ろにいる女エルフに指示を出す。


女エルフは女王とキープ達の間に立ち、キープ達を追い立てる様に部屋の外に追い出すと、一緒に出て扉を閉める。




扉を閉めると、申し訳なさそうに、


「すまない」


それだけ告げると、そこにいた男エルフ二人に、キープ達を牢に入れる様に指示を出した。





それから数時間後、今は岩盤作りの牢屋に入れられている。


エルフの家が密集していた場所から少し離れた所に大きな岩があり、それをくりぬいて牢屋に改造していた。


ナシュも同じ場所の牢屋ではあるが、違う部屋に入れられていた。


牢屋は6部屋ほどあるが、1部屋は3m四方ぐらいと狭い。


寝床用として藁を敷き詰めた場所、部屋の隅には便所用としてツボがおかれており、木の蓋がしてある。



(死刑まではここに入れておくという事なんだろうけど…)


このままここにいては殺されてしまう。

逃げるとすれば、今のうちなんだろうが……。


牢屋を調べる限り、岩盤は硬くどうしようもない。

となると、木で出来た格子だが……。


格子もがっちりはまっており、傷んでも腐ってもいない。

除湿や防腐用に何か塗っているのだろう……しっかりした状態だった。



「てい!」

試しに殴ってみた。


ポカッ!


「くぅ~~」

手を押さえてうずくまる……。

ちょっと涙が滲んだ。


(まぁそうなるよね。僕の力じゃ……)

赤くなった手をふーふーしながら、後悔した。




コツ コツ ……


足音が牢屋内に響き、キープのいる牢屋の前で、あの女エルフが立ち止まった。

そして、キープを見ながら、


「すまない」


頭を下げて、開口一番謝ってきた。


「一体どういうことですか? どうしていきなりこんなことに……」


キープが責める様に尋ねると、


「エルフの土地に入った者は、まず女王に会って理由を話して、その目的に応じて女王が指示を出す。そういう掟なのだ」

「でも、理由なんて……」

「……本当なら尋ねるはずなのだ! まさか理由も聞かず、判断するとは私も思わなかった」


女エルフは声を荒げ拳を握ったが、ふっと力を抜くと目を伏せる。


「本当にすまない」そう告げると女エルフは立ち去ろうとする。


「せ、せめて逃がしてもらえませんか?」

キープは格子にすがって懇願する。



女エルフは辛そうに俯いて……、首を横に振って去っていった。





そのままどうにもできず夜になった。


木の格子に花差しが掛けてあり、光る花が差してある。

灯りの代わりのようだ。


仄かな光でそこまで明るくはないが、火を使うと格子を燃やされてしまうからかもしれない。




ナシュとは牢屋越しに会話を何度かしたが、キープの牢屋からはナシュの姿は見えず、会話もそこまで続かなかった。

せめて一緒なら脱出の相談が出来るのだが……。


岩の入口には門番がいるので、この状態で相談は出来なかった。



「お疲れさん」

「お、交代か?」

「ああ、ゆっくり休めよ」


門番が入れ替わったようだ。



その声を聞きつつ、キープは脱出の方法を考えていた。


キープの持つ魔法では、ここから脱出することは出来そうにない。

攻撃魔法が一つでもあれば違っただろうが……。




考えながらもウトウトしていたキープだったが、『ガチャガチャ』とした金属の音で目を覚ます。


「??」


音の方を見ると、門番が錠前を開けようとしていた。


「え?」


(も、もしかして、もう死刑の時間!?)

ちょっと慌てたキープだったが、


「……」

門番が人差し指を口に当て、『静かに』とジェスチャーしてきた。


錠前が外れると、格子の扉を開けて入ってきた。


そして寝床で座っているキープの前にしゃがむと、


「助けてやろうか?」


と言ってきた。


「ええ!? 良いんですか?」


よく見ると、昼間キープを送致していた男のエルフだった。

弓は持っていないが、キープに耳打ちしてきたので覚えていた。


「あなたは先程の……」

「そうだ、覚えていたか……」


男エルフはニッと笑うと、


「お前達を助けてやろう」

「あ、ありがとうございます!」


キープが満面の笑みで返す。

脱出手段が無かった状態だったので、本当に助かった。


……と喜んでいたキープだったが、次の言葉で固まった。


「その代わりに……抱かせてくれるならな!」

一難去ってまた一難です。


不運でないと! でもぎりぎりで回避してる主人公補正。

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