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初めての呪い


大魔法『オラクル(神託)』


遺跡で習得した2つ目の大魔法で、『ホーリーチェイン(拘束)』の上位版に当たる。


『ホーリーチェイン(拘束)』と違い、単体からある一定の範囲内全員を対象に選べ、相手を拘束する。

拘束と言ってもただ動けなくするだけではない。


『神託』と言う神の言葉を聴く為の姿勢を強制で取らせる……、つまり対象者に重力の負荷をかけて地にひれ伏せさせるのだ。


この重力は時間と共に増加していき、対象がひれ伏すまで続く。

そうして、対象がひれ伏したところでその体制を固定してしまう。


また、対象は音を立てる事、発音することが出来なくなり『サイレント(沈黙)』状態となる。

『ひれ伏して、静かに神の声を聴け」と言うわけである。




大魔法を掛けられたエルライには、もの凄い重力が掛かっていた。


「……」

何かしら叫ぼうとしたが声も出せない。


そのまま地面に不可視の力で押し付けられる。


(こ、これは……どうしようも……ないか……)


遂に膝が屈して、腰を落とす。


上半身も地に伏すのは時間の問題であった。


(こんなやつらに!)


このままでは人間どもに捕獲されるか殺されるかだろう。

万が一生き延びたとしても、ここでの作戦は聖女を殺せていない時点で失敗となる。


(そうなれば……)

エルライの体を一瞬震えが走る。世にも恐ろしい恐怖が待ち受けているだろう。



キープを忌々し気に睨みつける。


魔法を発動しているキープは仄かに光っており、天使の様だ。


(ちっ! しかたねーか!)


エルライは『ティルヴィング』を自分の胸に突き立てた。



このまま人間どもに殺されるのは真っ平だったし、魔王様への忠義も果たせず、罰として永遠の苦痛を味わされるのはごめんだった。



「なっ!!!」

魔法で押さえつけられているエルライを見ていたナシュから声が上がる。



そのまま、地面に押さえつけられる勢いのまま、更に刃がエルライの体に深く突き刺さっていく。


重力が解かれてうつ伏せに固定される。

しかし固定された姿でエルライは息絶えていた。





キープはそれを確認すると魔法を解いた。

キープの光も消える。


魔力も結構使ってしまい、肩で息をしていた。


が、それよりも……。




「おじいちゃん!!」


アルミナが叫んでニケルに駆け寄る。


キープもふらつきながらニケルによると、


ニケルは肩から胸にかけて切られていた。



「『セイントヒール(大回復)』」


キープが詠唱すると、傷が治った……が、


「そ、そんな! おじいちゃん!!」


ニケルの苦しそうな表情は変わらない。


「はぁ、はぁ、そ、そんな、どうして??」


キープも動揺するばかりだ。



ナシュも心配そうにみている、キープが再度、


「『セイントヒール(大回復)』!!」


ニケルの体が光って消える。……表情は変わらない。


「そ、そんな! もう傷は治したのに!!」


キープが声を上げるが、ニケルが苦しそうに手を上げてそれを止める。


「よ、よいんじゃ。キープ殿」

「おじいちゃん!」


アルミナがニケルに縋る。




「アルミナ、ま、まだまだじゃな。剣の声が聞き取れて……いないぞ」

「おじいちゃん?」

「もう一度、あやつの剣の声を聴いてみるのじゃ……」


アルミナがニケルに言われ、エルライに刺さったままの『ティルヴィング』に目を向ける。


「刃を……打ち合ったものを……破壊……する」

「ああ、そうじゃが……そうじゃない……よく聞くのだ」


「……打ち合ったものを……? 打ち合ったじゃない……。戦ったものを??……者!?」

「そうじゃ。あれは……戦った者を……破壊する……魔剣なのじゃ」


「そ、そんな! だから私を??」


ナシュが声を上げる。ナシュに戦闘をさせなかったのはその為だったのだろう。



「ふ、ふふ。 ア、アルミナも、まだまだ、じゃの」

苦しいだろうに、微笑みながら震える手でアルミナの頭を撫でる。


「それが本当だとすると、戦ったニケルさんは!」

キープが声を上げる。


「そうじゃの。破壊というのが、ど、どういうものか……お、恐らくは死、であろう」


「そんな! 何とかできないんですか??」


「剣が言うには……。ある種の呪いらしいが……。呪いを解くには『ディスペル(解呪)』が、い、いるようじゃ」



「そんな!!」

ここに来て、ミーシャと同じ『ディスペル』なんて……。


「キープさん! 何とか……何とかお爺ちゃんを助けて!」

アルミナがキープの足元に縋る。

しかし、キープには答えられなかった。


ニケルに外傷はない……、呪いが原因だとすれば『ディスペル』しかないのだ。


アルミナは手がないと分かると、倒れているニケルに抱き着いた。


「あ、アルミナ。 良いのじゃ。 本当なら、わ、ワシは昨日死んでおかしくなかった」

アルミナの頭を、髪を撫でる。


「そ、それに、それ以前に毒で死んでいたはずじゃった」

キープ達を出会った時のことだろう。


「そ、それが、ここまで生きて……そしてお前の手料理も食べられた……」


「お、おじいちゃん!」


「コールマインの孫たちも大勢失い、グステンや気のいい奴らも消えていった。ワシも潮時じゃろうて」


「そ、そんなことない!もっと生きて!!」


「アルミナ……お前は立派になった。 剣の声も聞けて、ワシの後を継いで鍛冶職人になり、ワシ以上じゃ」


「い、いやだ!もっともっと鍛冶の事教えてよ!!」


「こんなワシには勿体ない孫じゃったのう」



アルミナの声が聞こえていないのか、星天に目をやったまま独り言の様に話す。



アルミナは泣き叫んで抱きすがっており、ナシュも涙を流しながら立っている。


キープも悲しみから涙を流してはいたが……。



キープには……ニケルを救う事が出来ない。

ニケルは、このままだともうすぐ死ぬかもしれない。



泣きながらも、キープは心の中で、大きな決断に迫られていた。

もう少しシリアス回です。

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