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初めての今際


冒険者ギルド内で、キープを見る目が2つに増えた。

1つは可愛らしい容姿に熱情を込めた目線……これは変わらなかったが、もう1つはパーティを見捨てたもしくは裏切ったのではないかという軽蔑の目線だった。




勿論、冒険者ギルドとしても調査はしていた。

パーティで一人だけ、それも無傷で戻ってきた状況はそのまま見過ごすことは出来ない。

何より銀ランクの雷光の刃が全滅し、生き残ったのが銅ランクのキープだけだったことも理由だった。



そこで冒険者ギルドのギルド長立ち合いの元、冒険者カードの録音機能を確認する事になり、関係者であるキープも呼ばれて同席することになった。

関係者とは言われているものの、状況的にはパーティ壊滅の容疑者である。



確認するため呼ばれた冒険者ギルドの応接室には、すでに数名集まっていた。

キープが部屋に入ると座る様に進められる。

イリーナが冒険者ギルド側の席でちらちらキープを見ている……気にしているようだった。




「さて、キープ君。 大体の話は聞いている。聞く限りでは君には責任はなさそうだ」


ギルド長のレッド・ウィリアムがキープに話しかける。

この場にはギルド長であるレッド以外に、ギルド職員数名と、都市の安全・警備を管理するガードの方々が数名来ていた。


キープが仲間を罠に掛けたなどが分かった場合に即拘束する為だ。


「だが、銀ランクのパーティが全滅している。色々な可能性も考慮しないといけない。すまないが君にも立ち会って頂きたい。」


ギルド長のレッドは金冒険者だったこともあり、冷静で落ち着いた対応で進める。鼻の下にちょび髭がありそれによりダンディな男前な雰囲気をかもし出している。


レッドはキープから他の面々を見渡すと、


「では、これより冒険者カードの音声を聞いていく。権限はギルド長であるレッド・ウィリアム。同席としてパウス都市ガード主任、アイロン・バーンズが証人となる。」



宣言して全員で黙とうを行った後、音声の公聴が始まった。




ガイ、ギリム、ジュジュと音声が流れていく……怒号や弓の風切り音、何かが切られて落ちる、倒れる音。


ガイの死ぬ間際の「すまない」といった声や、ギリムのルマへの最後の言葉、ジュジュの呻き声などが流れていった……。


流れていく度につれ、キープの顔色は蒼白になっていき、気づけば涙が滝の様に流れている……抑えてはいたがしゃくり上げの声も響いた。


(自分がいなかった事で……気を失っていたせいで、みんなこんな苦しい戦いを……)


無意識なのか手は固く握られ、噛みしめ過ぎた唇からは血が流れている。


(僕のせいだ……僕がクリスタルを取ろうなんてしなければ……)


自分を責め立てるキープをよそに、公聴は続いていく。



そしてルマの音声の最後だった。

「みんな……私も一緒に行くね。そして……キープ、どうか無事で」


ズドッ!


何かを刺すような音がして、音の再生が止まった。




誰もが無言だったが、ルマの最後の言葉から

キープの身を案じていることが分かった。

この公聴により、キープには非がないというのが実証された。


しかしキープには『本当に自分だけが無事生き残ってしまった』と、

更に自分を責め立てることになるのだった。






【数日後】

イリーナは冒険者ギルドで姿を見なくなったキープを案じていた。


(パーティに入っていきなり自分以外が死んだなんて……ショックの大きさは計り知れないわよね……)



公聴会の後、亡霊の様に出ていくキープに声を掛けられず、ただ見送ってしまったのは悔いるばかりだ。


(あの時、少しでも声を掛けてあげれば良かった……)


キープに雷光の刃を紹介したのはイリーナだったので、イリーナはイリーナで責任を感じていた。

それだけに姿を見せないキープに一層の不安を抱えていた。


(自殺とかしてないわよね??)


泊まっている宿など聞いていなかったのでヤキモキするばかりだ。


(……ん?)


そんな時、キープが冒険者ギルドのドアを開けて入ってきた。

イリーナは飛び出すようにキープの元に駆け寄る。


「キープさん! あの……」


駆け寄ったもののイリーナは何て声を掛けようか戸惑っていた……が、


「すみません。自分が紹介した責任もあります」

深々と頭を下げたイリーナに、


「ううん、イリーナさんの所為じゃないですよ。そんな、頭を上げて下さい」

キープが弱弱しく微笑む。



状況が状況じゃなければ、儚げで可憐な美少女に見えただろう……ただし顔色は血の気が引いておりかなり具合が悪そうだった。



「それで……その、具合は如何でしょうか?」

言葉に迷いつつ、触れないようイリーナが尋ねると、


「その……今日は食事もとりましたし……少しは気分も良くなりました」

イリーナを心配させない為か微笑みつつ答える。



(今日は……ね)

イリーナは心の中でため息をつく……それは今日まで何も食べてなかったという事だろう。


(このままではキープさんが病んでしまうかも……冒険者もやめるとか言うかもしれない)

イリーナが考え込んでいるのを見て、


「すみません、イリーナさんにまでご心配をお掛けしてご迷惑を……」

「いえいえ、迷惑でも何でもないですよ。何かあったら言って下さい。ご協力いたしますので」


頭を下げるキープに、イリーナは心配かけない様に微笑んで返した。


「それに……」

言い辛そうにイリーナが続ける、


「キープさんもこのままと言うわけに行かないでしょうし……今後の事もあると思いますので」

暗い表情のイリーナに、


「そうですね……怖いですが僕一人ソロで冒険は無理そうですし、なんとかパーティを組んで引き続き冒険者を続けたいと思います。」


意外なことにパーティを組みたいという内容だったことに驚きつつも、前向きなキープに安堵もしていた。


だが、元々キープの目的は聖女を探してミーシャにディスペルを掛けてもらう事。

このまま冒険者を引退するつもりは毛頭なかった。


最初のパーティが……とのショックはあったが、それでもやっていかないといけない。

じゃないとミーシャが助からない。


そう考えているキープは何とか前を向いて進もうと気持ちを奮い立たせていた。

(そうだ……時間はあまりない、僕は強くないからゆっくりなんてしていられない)




「イリーナさん、今お時間空いています?」

「大丈夫ですよ、今は丁度冒険者の人達も出払っている時間ですので」


イリーナの言う通り、ギルド内は閑散としている。


「すみません、この前のことがあったばかりですが、それでも僕はパーティを組まないとクエストとかできそうにないので……」


声が小さくなっていく。

だが、イリーナはそんなキープの心情を汲み取ると、


「大丈夫ですよ、わかりました。 またパーティを探して紹介いたしますね」


目線を合わせて子供に告げる様に伝える。


「あ、ありがとうございます」


ほっとしたようなキープに、イリーナも心の中ではほっとしていた。


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