初めての戦闘
一部 残酷表現あるので注意です。
その頃、雷光の刃パーティは一向に減らないゴブリンに苦戦を強いられていた。
普通なら銀ランクパーティである雷光の刃にとって、ゴブリン程度なら余裕である。
ただし、それでも尽きることなく湧いて出てくると体力や気力が減り続ける。
ジュジュは魔力が尽きて後方で休んでいる。
ガイとギリムも傷だらけで、それでも二人で前線を支えていた。
ルマも矢が尽きてからは、予備の短剣で二人を抜けてくるゴブリンやジュジュを狙う矢を払っていた。
「くそっ、こいつらどんだけいやがるんだ!!」
ギリムが吐き捨てる。
その体にはいくつもの刃物キズが付いていて、防具や服も酷い状況だ。
「さぁな?ゴブリンに聞いてみてくれ」
ガイがゴブリンの腕を切り飛ばしつつ答える。
受けすぎて盾が壊れたので、剣を両手に持ち替えて振るっている。
ギリム同様に体中から血が流れているが
(倒れるわけにはいかない!)
リーダーであり、前衛の要であることを理解しているガイに倒れることは許されない。
まして後ろには守るべきメンバーもいる。
そんなガイを見ながらルマは祈る。
(キープ……どこなの?早く来て、みんなが死んじゃう……)
祈りつつも二人を抜けたゴブリンの胸に短剣を突き立てる。
回復師がいれば、体力はともかく傷は癒せる。
持久戦でも大きく戦局は変わるだろう。
「ルマッ!!」
「えっ!?」
ギリムの声にハッとする。
集中力が落ちていたようで、そんなルマに矢が数本飛んできた。
本来なら矢の来襲に対してルマが注意を促す立場だった。
(しまっ……)
ルマに矢が刺さる前に、ルマの前にギリムが飛び出した。
ドス!ドス!ドス!
ギリムはルマを庇う様に立ちはだかった。その背中に矢が数本刺さる!!
「ああ……ギリム……」
「おめーにちゃ珍しいな、ボーとしてるなんてな」
にやっと笑ったギリムだったが、そのまま崩れ落ちる。
「ああ……ギリム……ごめんなさい……私のせいで」
「ああ、気にするな……それよりお前はまだ俺のところに来るなよ……しばらくは口うるせーお前の面は見たく……な……い」
ギリムから力が抜けた。
「ギリム……ああああああ……」
ルマが項垂れる……が、
「しっかりしろ! ルマ!! まだ終わってないぞ!!」
ガイが叫ぶ。
ギリムがいなくなった事で、前衛は一人になりガイは孤軍奮闘状態となっていた。
剣を振り回しゴブリンを切り裂くがどんどん囲まれていく。
そしてゴブリンに囲まれたまま、その姿はルマから見えなくなってしまった。
「ガイ!!」
ルマが叫ぶが返事はない、ただしゴブリンがまだ囲っている様なので生きているかもしれない……。
しかしこのままではガイの命も時間の問題だろう。
(どうしたら……)
助け出すには一人では無理。
「ジュジュ?魔力はどんな感じ?」
ジュジュを見ると胸に矢が刺さって倒れていた。
先ほどルマを狙った流れ矢に当たったのだろう。
すでに瞳からは光が失われていた。
「そんな……」
絶望状態で座り込んだルマの前に誰かが歩いて来た。
(ガイ!?)
前を向くとゴブリン達だった……手には血だらけのロングソード……ガイの剣……。
ゴブリン達はニタニタ笑いながらルマを見ている。
ゴブリンが女性を慰み者にしたことは聞いたことがあった。
だが、ルマはそんなことには耐えられそうにないし、なにより仲間達みんないなくなってしまった事がもう耐えられなかった。
ルマは笑顔を浮かべると、
「みんな……一緒に……そして……」
自分の短剣を心臓に突き立てた……。
キープは1時間ほど彷徨ってようやく上に上がれそうな場所を見つけた。
斜めの道が続いていく……地面が抜けたりしない様に慎重に登っていき、更に続いている道を進む。
階層的に最初に自分達がいた場所だろう。
(この階のどこかにみんながいる、早く合流しなくちゃ)
目印を付けつつ歩いていく……やがて十字路に出くわした。
右の道から声や音が聞こえるが、人間ではなさそうな声だった。
(魔物だろうな……別な道に行こう)
キープは魔物から少しでも離れるため反対側の左の道に進んで行った。
慎重にゆっくり進む……と先の方に何か落ちているのを見つけた。
(これは……)
火の消えた松明だった。
(他に何か……)
ランプを高く掲げて周囲を照らした瞬間だった。
(ひっ!?)
声にならないような声を上げて立ちすくんだ。
目の前には八つ裂きにされた死体が、奥にはうっすらと矢が数本刺さって倒れている人も見える。
死んでいるのは明らかな状態だった。
回復魔法は使えるが、『メサイヤ(蘇生)』は聖女など一部の者にしか使えない……。
死んでる人達を救うことはキープには出来なかった。
冒険者ギルドでの説明を思い出し、冒険者カードだけでも持って帰ろうと取り上げた時、キープの手が止まった。
「【名前】:ガイ・クーレイ」
(えっ?)
そう、あまりに酷い状態にキープは気付かなかった……このぼろ雑巾の様な八つ裂き死体が雷光の刃パーティリーダーの「ガイ」であることに……。
まさか一緒に来ていた仲間達が……つい先ほどまで一緒に笑い合っていた仲間達が、この様な姿になっているとは露ほども思っていなかった。
キープは慌てて矢の刺さった死体に駆け寄る……。
見覚えのあるベルトやダガー……それは間違いなくギリムだった。
(み、みんな! ほ、他の2人は??)
キープは慌てて周りを見渡す。
奥の方で同じく矢が刺さったローブ……駆け寄るとジュジュだった。
そんなに汚れていないのは離れた所にいたからだろうか……傷も胸の矢傷しか見えなかった。
(そんな……ルマさんは!?)
残った1人を探してランプをあちこちに向けるとオレンジの髪が見えた。
(ルマさん!!)
キープが近寄るとルマは体育座りの様な姿勢で動かなかった。
「ルマさん、大丈夫ですか!? しっかり……」
キープが肩を揺するとルマの体がゆっくり横倒しになっていき……。
「うわあぁぁぁ……」
そこには腹を切り裂かれ、内臓を抜かれて死んでいるルマの姿があった。
顔の皮も半分剥かれている……ゴブリンが革製品を作る為に綺麗な人皮を剥いでいったのだろう……。
あまりの凄惨さに、そのまま横に嘔吐してしまう……しかし胃に何もなかったためか胃液しか出てこなかった。
嘔吐していたキープだったが、叫んでしまったことを思い出した。
勿論、それは穴中に響き渡っている。
「し、しまった!」
キープは急いで4人のカードを取ると走り出した。
4人が来たであろう方向、恐らくこのまままっすぐ行けば出口だろうと踏んで走り出す。
が、奥の方から騒がしい叫び声や多くの気配が迫ってくることに気づいた。
魔物か魔獣か分からないが気づかれてしまったのだ。
必死に走るキープだが足を取られる上、走る速度も速くない。
(こ……このままじゃ逃げ切れない)
ヒュン!
キープの横を矢がかすめて飛んで行った。
(どうしよう!?……何か手は??)
必死に走りながら考える……と、足を取られ転んでしまった。
「あう」
しかし転んだ事が幸いし、転倒した頭上を矢が通り過ぎる。
奥から魔物が現れる……キープは初めて見たが、村で勉強した知識からゴブリンだろうと分かった。
手には剣や手斧などの武器を持っている。
転倒したキープを見て、逃げ切れないと踏んだようだ。
醜い笑顔を浮かべ走ることなくゆっくりゆっくり迫ってきた。
(どうしよう……このままじゃ……)
色々考えるが、まとまらない。
ゴブリン達の考えている通り、走って逃げきることは難しいだろう。
(とにかく時間を稼がないと)
キープは近寄ってくるゴブリン達に色々物を投げつけ始めた。
「こっちに来るな!」
杖や薬草、ポーション、毒消し、火打石、クリスタル……。
しかしゴブリン達は意に介さず歩みを止めない。
当たっても痛くないようだ。
色々投げていたキープだったが、投げつけた物を見てハッと気が付くと……。
「神聖なる加護の光よ……魔の物を払い 安息の地を…… 『サンクチュアリ』」
投げたクリスタルを起点に洞窟内にあるクリスタルが連動して結界を作り出す。
クリスタルが採れたように、この洞窟内にはクリスタルが多く埋まっていた。
その多くのクリスタルを光が繋ぎ、キープとゴブリン達の間に結界の壁が作られた。
慌てたゴブリン達が結界を叩いたり殴ったりするがびくともしない。
反対側の道にも結界が作られ、ゴブリン達は通路に閉じ込められた形となった。
(今のうちに……)
キープは立ち上がると急いで逃げ出した。
その後、村に帰ったキープの情報から、冒険者ギルドへ緊急連絡が行き、
ダンジョン内のゴブリンは全て討伐された。
そして、雷光の刃の死体も全て回収されたのだった。
ポイントとブックマーク入ってた!
嬉しくて心臓ちょっと跳ねました。(物理的ではないです)
ありがとうございます!!