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初めての綱引き


「ここをお使い下さい」


ドワーフ娘の召使いに部屋へ案内された。


部屋は2階で客を宿泊してもらうのに使用しているようだ。

窓が大きく採光が多く入る様になっており、夕方になりつつも陽が入り明るい部屋だ。

部屋の壁紙などもベージュで統一されており、石造りの無骨さは見えない。


ベットと円形の机と椅子が2脚準備されており、ベッドの横にはベッドランプが乗った小振りな引出し付きの棚がある。


かなり洗練された部屋であった。



宿を探すと聞いたグステンが、


「ここに泊まると良いです。 部屋も余っておりますし、ニケルさんの恩人。ケイナンの事もお伝えして下さった訳ですし、これくらい構いません」


との言葉に甘えることになった。




部屋に入ると杖を立てかけベッドに腰かける。



固めで良い感じの反発がある。上等なベッドなのだろう。


ベッドに座ったまま、今後の事を考える。


所持金はほぼなし。

旅の備えも道具もなし。


このままでは食費など日々の生活が危うかった。




「よし! 何をするにしてもお金がいるし、まずは金策しよう!」

ぐっと拳を握り立ち上がったところで、部屋のドアがノックされる。



「はい?どうぞ」


部屋に入ってきたのはナシュだった。


「キープ、ちょっといい?」


入ってきたナシュだったが、部屋を一瞥すると、


「へ~、キープの部屋もなかなかいい部屋ね」


感心したように告げる。


「ナシュの部屋も良い感じ??」

「ええ、備品は一緒だけど、壁紙は淡い水色で石造りと思えないほど落ち着くわ」


部屋の感想を述べると、


「今日は流石にこのまま休むとして、明日からの予定を話そうと思ってね」


キープと同じことを考えていたようだったので、ナシュに明日から金策をすることを告げる。



「へ~金策ね。キープってどうやって金策するの?」

「こう見えても冒険者なんですけど? クエストとかを受けて金策するよ」

「ここ冒険者ギルドあるの?」

「ここに来る途中あったよ。ニケルさんの家から少し歩いて右側に看板が見えた」

「なるほどね。じゃあ明日はそこに行ってクエスト受けましょう」

「あ、でもナシュは冒険者じゃないんだよね?」

「う~ん……。実は私銀ランクの冒険者ではあるのよね」

「ええっ! 銀ランクの?」


キープより上のランクだった……。


「ただ家と一緒にカードも燃えちゃったから、登録とかどうなるか聞かないとわからないのよね」


困った顔で腕を組んでいたが、


「あ、そだ。キープは冒険者としてどんな感じ? カード見せて」

「い、嫌です。絶対見せません!」


(銅ランクってばれたら何言われるか……。次からお姉ちゃんとか言い出すかも)

キープはカードをバッっと隠す。


「ええ~いいじゃない? 別に身分証みたいなものでしょ?」

ナシュがにじり寄る。


「い、いいじゃないですか。人には秘密にしたいことの1つや2つ……」

「もしかして銅ランクなの?」

「あう、えっ! い、いや……」


図星を突かれて慌てて取り繕うが……。


「お、図星? だからか~。それは見せづらいわよね~。 まぁ仕方ないし、クエストはお姉ちゃんに任せときなさい」

胸をドンと叩く。すでに自分の事を「お姉ちゃん」と呼び始めた。


「うぅ……、べ、別にランクが全てじゃないんだからね!」

ツンデレみたいな返しをするとキープはフン!と布団をかぶって隠れるのだった。





【翌日】


宿泊のお礼をグステンさんに告げると、キープとナシュは二人そろって冒険者ギルドに向かっていた。


「グステンさんにはお世話になっちゃったね」

「そうね。まさか昨夜に続いて今朝もご飯頂いちゃうなんて……」


グステンさんは二人をかなり歓迎してくれて、晩御飯や朝食まで準備してくれたのだった。



「しかし、甘えるわけにもいかないし。何かしらクエストして稼がないと!」

「そうね。生活もだし旅や遺跡の準備するのにも色々買わないと」


2人で会話をしつつ目指していると、


ドンッ!


キープが曲がり角で誰かにぶつかり尻もちをついてしまう。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


尻もちをついた体勢で相手に声を掛ける。

相手は男性だったらしく、あちらも尻もちをついて転んでいた。


「つぅ。だ、誰だ! この俺をダビー公爵と知ってのことか!!」


尻もちをついたままいきなり喚いた。



ブラウンの髪はおかっぱのように切り揃えられており、顔はそこそこ美形である。

ヒョロリとした細身のやせ型、身長は高いが体はそんなに鍛えてなさそうだ。

まぁ、キープとぶつかっただけで倒れるようなやわなのだろう。


自分をダビー公爵と名乗った男は、憤りながらも立ち上がるとキープを見下ろす。


「キープ大丈夫?」


ナシュが手を出してくれたので、それに掴まり立ち上がると、


「すみません。大丈夫ですか?」


再度ダビー公爵に謝罪する。



ダビー公爵は、

「フン! 折角の服が汚れてしまったではないか!」


服をパンパンはたきながら、

「どうしてくれるんだ?」


キープに詰め寄る。


「す、すみませ……」

「ちょっと!ふざけないでよ」


ナシュがキープの謝罪を遮りダビー公爵に言葉を叩きつける!


「こっちだって転んだのよ?お互い様でしょ?それをキープにばっかり……」

「ナシュ、落ち着いて……、僕なら大丈夫だから」

「……はぁ、もう! 全くあんたってば」


ぶつぶつ言いつつもナシュは矛を収めたらしい。


いきなり怒鳴られて少し唖然としたダビー公爵だったが、

「な、なんだこの無礼な女は? お前の連れか?いったい何なんだ??」

「すみません。ですが彼女の言う通り、お互いに転んでしまい、お互いに服が汚れました。聡くてお心の広い貴族様でしたら寛大な対応して頂けるものと存じ上げます」


そう言ってニッコリ笑いかける。


どこからどう聞いても皮肉なのだが、ダビー公爵はそのままの意に取ったようだ。


「まぁ、そうだな。 貴族たるもの寛大でなくてはな! キープとやらわかってるではないか」

ダビー公爵は大仰に胸を張ると、


「お前はなかなかに賢いな。 しかもよく見ればかなりの美しさ。 今はまだ子供だが磨けば光るかもしれん」


ぶつぶつ一人呟くと、


「よし、お前。俺様の妾になれ!」

「は?」

「よし、では行こうか!」


キープの腕をガシッと掴むと引っ張りだした。


「ちょ、ちょっと何してるのよ!」


慌てて反対側の腕をナシュが掴んで引っ張る。


「む、女。これは俺のだ。手を放せ!」

「俺のって何よ! キープは物じゃないのよ!」


ぐいーぐいー と両方から引っ張られる。


「い、痛いよ、二人とも!」


キープが声を上げるが、


「ほら痛いっていってるぞ! 手を離したらどうだ?」

「そう思うならあなたが手を放しなさいよ? それでも男なの?」

「お前だって、こやつが仲間なのだろう? 痛がっているぞ?」

「仲間だから大事なんじゃない! そっちこそ手を放して!!」


引っ張る力が逆に強くなった。



道の往来で始まった。綱引き……ならぬキープ引きに人が集まってくる。


「なんだ?一体なんの騒ぎだ?」

「なんか男女のもつれかしら?」

「あの可愛い子を奪い合ってるのか?」


通行人が集まりはするが遠巻きに見ている。


キープは、

「だ、誰か助けて~。これ止めてー」

叫んだ瞬間!


「キープ!!」

通行人の中から小柄な影が飛び出すと、


「ぐわっ!」

「きゃ!」


ダビー公爵とナシュを跳ね飛ばした。


キープも勢いで仰向けに倒れると、その上に誰かが馬乗りになった。


「キープ。大丈夫?? ケガしてない??」

キープの上に乗った小柄な影が心配げに声を掛ける。


「あ、ありがとう。 だいじょう……」

大丈夫と言おうとした途中で言葉が止まる。

馬乗りになった影が誰かわかったのだ。


「ベ、ベガ?」



越前裁きかな?

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