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初めての山岳地帯


「……」


キープとナシュはケイナンがあったであろう場所に立っていた。



そこには小さく砕けた瓦礫しかなく、大きな塀も、家の後も、人のいた形跡も、何一つなかった。


ちょっと前までは、「聖女様」と嬉しそうに言ってくれた兵士さん達や、不安ながらも生きようとする市民の人達が沢山いたはずだった……。


「キープ……大丈夫?」


ナシュがキープを覗き込む。


「えっ? あっ……」


そう言われて初めて泣いているのに気付いた。



「キープ……」


そんなキープをナシュが優しく抱き締める。



二人は暫くそのままでいるのだった。






「もう大丈夫です。すみません、ご心配お掛けして」

涙をローブの袖でごしごし拭くと、ナシュに笑いかける。


目は赤く、まだぎこちない笑顔ではあったが、ナシュに心配かけないようにしているのが伺える。


「大丈夫。私のがお姉ちゃんだからね」


ナシュはキープに意地悪く笑って見せた。


「うー、でもお姉ちゃんとは呼びませんからね!」


キープはそっぽを向く。


「それは残念。でも何時でも良いからね?お姉ちゃんって呼んで」

「はいはい」


キープはそれを流すと、


「これからどうしましょうか?」


と、考え込んだ。


事態は色々最悪だ。

聖女デネボラは死亡し、身に着けている荷物以外はケイナンと一緒に消滅してしまった。


ここから王都まで一週間以上掛かるだろうし、人も馬車も通る可能性は低い。


現時点でどう動くかだが……。


「勇者ミアプラが言っていた南に向かってみます?」

「あの勇者の言うことを信じるの?」


ナシュは信じられないと言った表情だが、


「ミアプラのあの性格を見るに、嘘をつくタイプでは無さそうですし、魔王や魔物を倒すことには積極的でしたから、何かしらその方面にはプラスになるのかと」

「まぁ、……確かに」

「殺そうと思えば、今からでも僕達を殺しに来ていると思いますしね」


ナシュは暫く考えていたが、軽く頷くと、


「まぁ私はキープに従うわ。 あなたに全てを捧げてるもの」



そうして2人は焦土となったケイナンから南に向かって歩いて行った。




魔法によって焦土地帯となった場所を抜けて、山岳地帯に入る。


途中で山岳地帯特有の魔物である、『デスウィング』と言う、鳥形の魔物に襲われたが、飛行中に『ホーリーチェイン』を掛けることで、墜落させ倒すことが出来た。



山をひとつ越えた辺りで日が暮れてきた為、岩の間に窪みを根城にキャンプとすることになった。


ナシュが周辺の探索をしてくると言うことで、その間キープは火を起こすことにした。


幸い火打ち石はキープの腰袋に入っていたので、火を起こしてナシュの帰りを待っていると、


「キープ、ちょっと来て!」


戻ってきたナシュが、少し興奮気味にキープを呼んだ。


「どうしました?」

「あっちに何か明かりが見えたの。 一緒に確認して貰える?」

「分かりました。行きましょう」


キープはナシュの案内でキャンプ地から少し離れた場所へ向かった。


そこは少し開けた場所で、少し先の山々が薄暗く見えていた、

その中に、二つ目の山間だろうか? 明かりか幾つか見える。


「ほら、あそこに」

「確かに明かりですね。幾つかありますし、やはり人工的な明かりでしょうか? 村や街なら助かります」

「夜が明けたら向かってみる?」

「ですね。行きましょう」


大体の方向を確認してキャンプ地に戻ると、2人は寄り添う様にして寝る体勢をとる。

寝袋や布団、テント等は全て失っていたため、お互いに寄り添う事で暖を取りつつ寝たのだった。




そして翌朝、腰袋に入れてあった幾ばくかの携帯食を2人で分け合うと、昨日の明かり目指して進み始めた。



昨日からの山道に、キープの疲労もかなり貯まってきており、休んでは歩いて、休んでは歩いてをこまめに繰り返す。


ナシュがおぶろうか聞いてきたが、それをされるとお姉ちゃんポジションが確定しかねないので、丁重にお断りした。





そうして、時間は少し掛かりつつも、昨日の明かりが見えたであろう場所に近付いた時だった、


「うぅ……」


何やらうめき声みたいなのが聞こえて立ち止まる。


ナシュにも聞こえたらしく、キープと顔を見合わせる。


そうして再度音を聞こうと耳を澄ますと、近くの草むらの中から、再びうめき声が聞こえた。



二人して慎重に草をかき分けて覗き込む。



そこには足を押さえてうずくまり、うめいている老人の姿があった。


キープ達は、直ぐに駆け寄ると、


「どうしたのですか? 大丈夫ですか?」

「お、お主らは?」


老人が苦痛に顔を歪めつつ、キープとナシュを見やる。

ずんぐりした体型をしており、色黒の皮膚はかなりのシワが浮き出ている。

顎下や鼻下に髭を蓄えていたが、髪共々白く変わっていた。


「ただの旅の者です。 それよりどうかなさいましたか?」

「旅のお方でしたか。 丁度良かった。 ワシはすぐそこの街にいるニケルと言うものじゃ」


老人は苦しそうに息をつきながら、


「ワシはもう駄目じゃ。街にアルミンと言うワシの孫がいる。 その娘に『ニケルは死んだ』と伝えて下され」

「どうしてですか?まだ生きているじゃないですか?」

「駄目なのじゃ。ワシはもうすぐ死ぬ。後生である。孫に伝言を、どうか……」


ニケルと言う老人はキープにすがり付いてきた。


老人は苦しそうではあるが、押さえている足などに大きな外傷は見られない。

何がどう駄目なのだろうか?


「ニケルさん、どうしてもうすぐ死ぬなどと?」

「先程この近くの山でキマイラに出会ってしもた。必死に逃げたのじゃが、尻尾の蛇に足を噛まれてな。 その内毒が回って死ぬじゃろう」


そう言うと再び苦しそうに足を押さえてうずくまってしまったのだった。

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