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初めての逃走


「そ、そんな……ケイナンの、ま、街が……」


ファクトが力なくへたりこんだ。


キープもナシュも呆然となっていた。


こんな広範囲、そして強力な魔法……。

そして1人も残さず消えてしまっただろう、ケイナンの人達。



「これで掃討したはずだ。 これで用はないだろう?」


勇者ミアプラが窓を背にキープ達に告げると、階段の方へ歩いていく。



「ど、どうしてだぁぁ!!!」


崩れ落ちたままの姿勢でファクトがミアプラの背中に声を叩きつける。



歩みを止めて振り返ると、


「どうして、とは?」


ミアプラが不思議そうに聞いた。



「ケイナンの中には、私の戦友や家族、そしてケイナンの人々が大勢いた。 何故殺した!?」



ファクトはゆっくり立ち上がると、怒りを込めてミアプラに問い掛ける。




「私はケイナンを包囲している魔物を掃討しただけだ、別にケイナンのやつらを狙ったわけではない。そこにケイナンのやつらがいただけだ」


淡々と告げる。


「ケイナンの人々を助けてほしいと言ったはずだ!」

「私は『助ける』とは言っていない。ただ勇者の使命に則り魔物を倒しただけだ」

「お前は人間じゃないのか? 同じ同胞を助けようと思わないのか!?」

「私は人間のお守りじゃない。 助ける云々なんてどうでもいい。ただ魔王や魔人、魔物を倒すだけだ」


ミアプラは迷いなく返答する。

その顔は無表情で何も感じていないようだ。



「くっ! お前みたいのが勇者とは思わなかった……。お前なんかに助けを求めるんじゃなかった!」

「お前達が勝手に求めただけだ。私が望んだことではない」

「お、お前はぁ!」


ファクトが剣を握りしめる。


「ファクトさん、落ち着いて下さい!」

キープとナシュが激昂したファクトを止める。


そんなキープ達を見ながら、


「自分の実力も分からないで剣を握るか……愚かなやつ」


ミアプラがボソッと呟くと、再び階段を目指して歩きだす。


「待てぇ! ミアプラぁ!」


ファクトがキープ達を振りほどき、ミアプラに斬りかかった。



「仲間のかたき!」


ファクトは全力で走り間合いを詰めると、剣を横凪ぎに切り払う!


ミアプラは背中越しにも拘わらず、前に一歩出て剣先をかわした。


そしてファクトに向き直ると、


「良いのか? 死ぬぞ?」


ミアプラがファクトに問い掛ける。


ファクトはそれに答えず、横凪ぎの一閃から一歩下がると、上段に構え直して素早く振り下ろした!


ミアプラは横にスッと動いてかわすと、ファクトの手首を掴み……。


窓の外へ押しやった!!


ファクトの体が窓から宙に放り出される!と、瞬間ファクトの姿が見えなくなり砦の下から何かが潰れる音がした。



「「ファクトさん!!」」


キープ達が同時に叫ぶ!


しかし今となってはどうしようもなかった。



「さて、面倒な事だ、このままだと只の殺人者になってしまう」



シャ!


ミアプラが双剣を抜いた。


「死人に口なし。 一番手っ取り早いと思わないか?」



ミアプラの表情からは何もうかがい知ることが出来ない。


キープの前にナシュが剣を抜いて立ちはだかる。


「キープ、逃げて……。私もさすがにどうしようもない」


ナシュは震えているが、続けて背中越しに、


「せめてあなたを逃がす時間だけは……」



!?


ナシュが言い終わる前にキープの前にミアプラがいた。


「えっ?」


ナシュが振り返ると同時に崩れ落ちる。


キンッ!


今になってナシュの構えていた剣が折れた。



早すぎた。


ナシュもキープも目で追えなかった。


ナシュは剣ごと叩き切られていた。


「ナ、ナシュ!」



ミアプラがキープに、


「お前も聖女か……運がなかったな」


瞬間!ミアプラが横へ跳躍してキープから離れる。



ヒュッ!


ミアプラが立っていた場所がなぎ払われた!


「キープに、手を出すな!」


床に這った状態のまま、ナシュが折れた剣でミアプラの足元を払っていた!



スタッ!


ミアプラは着地すると、


「剣を折った分、浅かったか……」


呟いた。




キープはその隙を逃さなかった!



「聖光を紡いで鉄鎖とならん『ホーリーチェイン(拘束)』!」



油断と着地直後な為か、ミアプラは魔法をかわせず光の鎖に拘束される。



「これは……」


「『セイントヒール(大回復)』!」

ナシュの傷が治る。



「成る程」


ミアプラは拘束されながらも特に抵抗するでもなくキープを見ていた。


「ナシュ!大丈夫?」

「う、うん。ありがとう、助かったわ」


ナシュが立ち上がりつつ、ミアプラを警戒する。



「そこの聖女、お前名前は?」


ミアプラが拘束されたままキープに問い掛ける。


「キープ」

キープはミアプラを睨みつつ答える。

何のために名前を聞かれたのか……殺すつもりなら不要だろうが。



ミアプラは嬉しそうに、


「お前なかなかの魔力だな。私を拘束出来るやつはそうそういない」

「……」


キープがミアプラの真意を計りかねていると、

「キープ、今のうちに……」


ナシュがキープの袖を引いた。


確かに、このままではいずれ拘束が解け殺されてしまう。


キープはナシュに頷くと階段に向かい走り出した!



その背中にミアプラが、


「このままケイナンから南に向かえ。 そこにお前の力を高める方法があるだろう。……それまでは見逃してやる」




キープ達がいなくなるとミアプラは呟いた。


「楽しめそうだ……もっともっと強くなれ。キープ」




体の魔力を高める……。光の鎖が引きちぎれる!


「さて、行こうか」


誰も居なくなった砦の階段を、ミアプラはゆっくり降りていくのだった。

すみません。四十話修正いたしました。


勇者ミアプラの容姿を付け足しております。


申し訳ございません。

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