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初めての王城

深夜__


キープが被っている布団が静かに……ゆっくりと捲られる。

キープは布団の中で背を丸めて丸くなり寝ていた。

スヤスヤ寝息を立てており、完全に夢の中にいるようだ。


布団を捲った何者かはほくそ笑むと、

キープに手を伸ばす……肩に触れ、背中を撫でた。瞬間!


「ひゃぁ!」


キープが跳ね起きた!


寝ていた体勢のまま、文字通りそのまま1mぐらい飛び上がった。


そのまま器用に部屋の隅までずり下がる。


「な、な、な……」


驚きすぎて「な」しか言えていないようだ。


深呼吸して、


「何してるんですか!レグルスさん!!」


深夜だからか、声小さめで怒鳴る。


そこには卓上ランプに照らされた、頭を掻いて目を泳がせているレグルスの姿があった。


「あー、布団が掛かっていなかったので、掛けてあげようかと……」

「……本当ですか??」


キープは疑わしい目で見ている。

「じゃあ、どうしてここにいるんですか? ここ僕がお借りしている部屋ですよね?」

「あー、と、それは……、おお!私はキープさんの監視役でしょう?監視に来たのであって、何ら問題はありません!」


さも、『今思いつきました』感じでキープに弁解する。


キープは暫くレグルスを見ていたが、ふっと力を抜き、


「はぁ、分かりました。もうそれでいいですから」


盛大な溜息をついた。



レグルスは弁解が通ったと思い笑顔になると、


「おお、分かっていただけましたか。 ではキープさんが寝るまで添い寝をしてあげましょう」

「何でですか!」

「いや、これも監視の一環で……」

「そんな監視は聞いたことがありません!! もう! 逃げたりしないから部屋に戻って下さい!!」


非力ながらもレグルスを部屋の入口に押していく。


「うう、仕方ないです。分かりました。今日は大人しくしていましょう」

「今日『は』ってなんですか!? 今日『から』です!!」


レグルスを部屋から追い出すと、扉を閉める。

この部屋には鍵が付いていないようだ。



「まったく……」


キープはぷりぷりしながら布団に戻ると盛大に頭から布団をかぶる。

布団に入って横向きになった時だった。


ふよん


頭が何か柔らかにものに当たる。


(あれ?こんな枕だっけ?)


手を伸ばして触ると、ふよふよして温かい??


「!?」


ばっと飛び起きて布団を捲ると、



「やほ! キープさんって結構積極的?」

アルドラがネグリジェ姿で布団の中にいた。


「!?」

またもベッドから部屋の隅まで器用に下がる。


「な、な、な、なにしているんですか!!」


今度は言えたようだ、小声で怒鳴る。


「いやー、キープさんが寂しくないかな~と」

「いえ、大丈夫!間に合ってます!」


アルドラが上半身だけ身を起こす。

その姿にキープは赤くなり目を逸らしながら、


「僕はもう寝るのでお部屋にお戻り下さい」

「えーだって」

「お、も、ど、り、く、だ、さ、い!」


語気を強めて言うと、


「はぁ、仕方ないわね。 寂しいけど、戻りますか」


アルドラはやれやれという風にベッドから降りると部屋の出入り口に歩いていく。

キープも一応出るのを確認するためついていく。



部屋から出て扉を閉める直前に、


「もし寂しくなったら何時でも言ってね。その時は__」


バタン!!


言い終わる前にキープが乱暴に扉を閉める。



「はぁ、つ、つかれた」


ドアに寄りかかってずりずりと腰を落とす。


こうして王城の一日目は過ぎていったのだった。




【翌朝】

「「おはようございます。キープさん」」

何故かめっちゃ元気な兄妹に挨拶される。

部屋で朝食を食べようとしていた時だった。


「……おはようございます」

対してキープは少し寝不足だった。

あいさつした後欠伸をかみ殺す。


「寝不足ですか?ちゃんと睡眠はとらないといけませんよ?」

レグルスが心配したように言ってきた。


(誰のせいで!)

キープはむーとレグルスを睨む、

レグルスは視線を受けて小首を傾げるとニッコリ微笑んだ。


(駄目だ、わかってなさそう……)

キープは心の中でため息をつくと、食事を再開する。


「本日はどういたしましょう? 何かなさいますか?  ただし城から出ることは許されません」

アルドラが訊いてくる、

「城からは出られないのですか?」

「はい、すみませんが。 捕縛対象である認識は変わりませんので……すみません」

「そうですか……では、まず城の中を案内してもらっても宜しいですか?」

「では、お食事の後にでも」



食事の後、歯磨きをして着替えや身だしなみを整えると、レグルスとアルドラに挟まれる形で城の中を見て回ることとなった。


王様含めた王族関係者の部屋と玉座の広場は見る事が出来なかったが、


ダンスフロア、ロビー、武器庫、倉庫、台所、食堂、中庭、裏庭、鍛錬場、図書室、応接室……など、二人が色々説明してくれた。

最後に召使や、執事、メイドの部屋も回ったが、昨日のメイドさん……ミモザさんは見当たらなかった。


お昼になり、昼食をとるため自分の部屋に戻ってきた。

ベッドなどがメイキングされ、綺麗に掃除がされていた。


昼食は豆と鶏肉のスープ、それにハムとレタスのサンドウィッチだった。

食事ととっている間、レグルスとアルドラはずっと側に控えていた。

キープの食事風景をじーっと見ている。


キープも流石に居心地を悪く感じ、

「あの? せめて一緒に食べませんか? 自分だけ食べるのもあれですし、食べるのを見つめられるのも、ちょっと……」


「キープさんが宜しければ、是非!」

2人はどこからか椅子を持ってくると、キープと一緒に食事をとり始めた。


3人で会話をしながら食べていると、

(この二人、こうやって話していると普通っぽいんだけどなぁ……)

キープが話している限り、昨夜のことが嘘の様に普通の会話が展開している。

何はともあれ、少しでも距離が縮めばと思っていたキープとしては目論見通りな感じであった。

……初対面から、ゼロ距離だった気がしないでもないが。



午後は図書室を見せてもらう事となった。

何かしら『魔人を倒す手段』や『魔導書』などがあればとの考えだった。



夕方まで読みふけった結果、

現王国の歴史や成り立ち、過去の魔王との戦いを調べることは出来た。

ざっくり言うと、やはり魔王は勇者でないと倒せないらしい。

過去に王国軍が魔王城まで攻め込んだことがあったらしいが、魔王に傷ひとつ付かなかったらしい。

勇者でないと傷を負わないとか……。


ただ、どの時代も勇者は1人ではなく、2人、3人と同時期にいるらしい。

いかに勇者といえど、1人だと何が起こるか分からないからではないかと推測されていた。

確かに聖女も世の中には何人かいるらしい。

特に王族には必ず娘が生まれるようで、全員が聖女となっている。

そして聖女の力で外から魔を防ぐ結界を張っているそうだ。



(聖女様! この国の女王か王女が聖女……)

予想外のところで聖女の名が出てきた。

ただし、キープは王城から出られない身。どうにかミーシャに『ディスペル』をお願い出来ればよいが……。


「レグルスさん」

「何でしょう?」


キープが本を読んでいる傍らで、同じように本を捲っていたレグルスがこっちを見る。

「この国に女王様か王女様はいらっしゃいますか?」

「王女様がいらっしゃいます」


キープはちょっと言い淀むと、

「会えたりとかは……」

「すみませんが……」

即駄目だった。


それはそうだろう、キープは捕縛されている身であり、城に居るものの、本来王女に会えるような身分ではない。


(何か手を考えよう……魔人を倒した時の褒章とかで~とか)


一旦考えを納めて本をパタンと閉じたのだった。


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