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初めての宿屋


(次は……え~と、宿屋やかな?)

キープは冒険者ギルドを出て、泊まるための宿屋を探し始めた。

数多くの露店が並ぶマーケットを見つけ、通りがかりの人に訊きつつ、「狐のお宿」と書かれた建物に着いた。


(ここだな、外見は小ぎれいで結構良さそう……お金安いといいけど……)

とドアを開けて中に入る。


「いらっしゃいませー」


元気で明るい声が響く、奥からパタパタと赤い髪をポニテにした女の子が走ってきた。

年はキープと同じ15歳ぐらいだろうか……赤い着物に白い前掛けをしている。

特徴的なのはその耳と尻尾……狐の獣人らしく、大きな膨らんだ尻尾が揺れている。

狐のお宿の由来が分かった気がした。


「いらっしゃいませ! ご宿泊ですか?お食事ですか?」


どうやらここは宿屋とお食事処を兼ねているらしい。


「宿泊なのですが、一泊いくらぐらいでしょうか?」


まだ資金の心配は大丈夫だが、それでも無尽蔵ではない。なるべく節約していかないといけない。

「一泊が…………」

狐の子が説明をしてくれる……そんなに高くはなさそうだったので安堵し、数日泊まることを告げると

嬉しそうに尻尾がブンブン振られる。

「ありがとうございまーす。おひとり様ご案内です」

案内されて付いていくと、2階の端部屋だった。


中は綺麗に整理整頓された部屋で、真っ白いシーツのベッドに机に椅子が2脚。机には水差しとコップがおかれている。2階なので眺めもそれなりで大きな窓からは家々の屋根が見える。

(綺麗で結構良さそうな部屋だ……)

リュックを降ろして財布と杖を持つと、再度部屋を出る。


「あら?お出かけですか?」

狐の子が目ざとく見つけて声を掛けてきた。

「うん、ちょっと買い物に行ってくるね」

「はい~、行ってらっしゃいませ」

お辞儀されて見送られた。



さっきのマーケットまで戻ってきたキープは明日の準備をし始めた。

(初めてのパーティだし、色々準備をしっかりしないと……うん!)

心の中でぐっと握りこぶしを作り気合を入れる。


ポーション、薬草、毒消し、包帯、ランタン、火打石……


自分で回復魔法が出来るが何が起こるか分からない……一応薬も準備していくことにする。

そして一通り買い物が終わると宿に戻ってきた。


「おかえりなさいませー」

狐の子に晩の食事時間を訊いて部屋に戻る。

明日の準備や食事などを終わらせて早めに寝床に入った。

(明日は初めてのパーティだ……頑張らないと!)

再度気合を入れて目を瞑る……意外に疲れていたのかすぐに夢の中に落ちていった。



【翌朝】

狐の子に見送られ冒険者ギルドに向かう。

(しまったなぁ……いつ来ればよいか時間聞いてなかった)

イリーナは落ち度なくきちんと話してはいたのだが、色々考えていたキープは聞き逃していた。

ひとまず遅刻だけはしない様に早めに冒険者ギルドに到着する。


「お、おはようございます」

恐る恐る扉を開ける、すでにいくつかの冒険者グループがおり各テーブルでクエストについて話し合っているようだ。

冒険者ギルドに入ってきたキープの可愛さに数名が目を奪われているが……キープは気付かずイリーナの方へ進んで行った。


「おはようございます。イリーナさん」

「あら?おはようございます、キープさん。パーティの方々はもう少ししたら来ると思いますので、空いている席でお待ちくださいね」

「はい、わかりました。ありがとうございます」



イリーナと言葉を交わすと端の空いている席に腰を下ろした。

(ううーどきどきする。どんな人たちだろう??)

キープが期待と不安でぐるぐるしていると、


「こんにちは~ 君1人?お名前は~?」

(ん??)


声を掛けてきた人の金髪に一瞬ミーシャの面影を見たものの、それが若い男性と知ると首を振り面影を追い出した。


「ええと、こんにちは。キープと言います。今は一人ですけど、パーティメンバーを待っています」


キープが返すと、金髪の男は嬉しそうに微笑み会話を続ける。

背はそれなりに高く、がっしりした体型にも関わらずスラリとした細身を思わせる。

顔つきも非常に整った目鼻立ちをしており、大抵の女の子は黄色い歓声を飛ばすと思われた。

(世の中の格好いいラインは良く分からないけど、おそらくイケメンになるのかな?)

と思っていると、


「僕は『セイ』って言います。 パーティを組んでいるのだけど一緒にどうかな? 『蒼龍の牙』ってパーティだけど」


周りがざわつくのが聞こえた。

(あいつ蒼龍のメンバーか)

(あの金ランクパーティの?)

(あのイケメンってリーダーのセイじゃないか?)


「どうかな?」

にっこり笑いかけて来た。


(うーん……有名な人達なのかな?でも約束しているしなぁ)

「せっかくのお誘いですけど、ごめんなさい。  先約がありますので……」


キープが申し訳なさそうに頭を下げる。


「いやいや、それなら仕方ないよね。機会があったら宜しく。考えといて」


言葉尻は柔らかく、だからこそ誰も気づかなかった……セイの表情に一瞬憎悪が現れた事を。

キープも頭を下げていて気付いてなかった……頭を上げた時にはセイの表情は元の笑顔に戻っていた。

「では、またね」

セイはそのまま他の場所へ行ってしまった。



(悪いことしちゃったなぁ……せっかく誘ってくれたのに)

キープは少し後ろめたい気持ちになって、下を向いてしまった。

他の人たちも各々別な話題になっており、キープへの興味は薄れたようだ……まだキープを熱い目で見ている人もいたが……。




一方で、セイは苛立ちと憎しみで荒れていた。


「ちくしょう、あの銅ランク風情が! この白金ランクの俺様の誘いを断るなんて!」


元々セイはキープを使い捨て程度に考えており、回復師として使えればそれでよいし、使えなければその可愛い容姿から奴隷商人に売り払う予定だった。


それがまさかの、お断り……しかもあんな大勢の前で……。

それがセイのプライドを大きく傷つけた。

無論キープからしたらそんなつもりは毛頭なく、セイの勝手な自爆なのだが……。


「キープ……名前は覚えた……。 この罪償わせてやる……」


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