初めての送別会
「俺たちの前途を祝して~」
「「「「カンパーイ」」」」
ジョッキをぶつけすぎて中身が少々こぼれるが、誰も気にしない。
ここは「雀のお宿」から少し離れた所にある飲み屋だ。
値段は安く、お酒の種類もそこそこ、つまみとして串焼きが有名な店だった。
キープ、ロード、アリア、ミラの4名はそれぞれの旅路を祝して、そして再会を誓ってお別れ会をしていた。
ある程度飲み会も進み、皆ほどほどに酔いが回っていた。
(ただしキープは飲んでいない)
「しっかし、キープの新しい魔法かっこいいな」
ロードがもも肉の串焼きを頬張りながらしゃべる。
「もう! ロード! 食べてから喋って!! 口からなんか飛んできた!!」
アリアが非難の声を上げるが気にせず、
「俺なんて剣壊されて散財もいいところだぜ……」
シリウスに剣を折られたロードは新しく剣を購入する羽目になったのだ。
「まぁまぁロード殿、剣は折れたけど命が助かったのだ。 ロード殿の代わりに逝ったと思えば……」
「ミラの剣は『クラウ・ソラス』じゃねーか!折れも欠けも錆びもしないなんて……お前の剣をくれぇ」
「えぇ~」
ロードの矛先がミラに向かう。
ミラは困った顔でキープを見た。
明らかに助けを求めているが……。
(がんばってミラさん! 酔っぱらいの相手は任せました)
視線で応援を送り、ぐっと拳を握って見せる。
それを見たミラがますます泣きそうな顔になる。
「ロード殿、そういえばキープ殿の魔法がどうとか?」
(ミラさんなんてことを!)
「あ~そうだった、キープの魔法だ」
と、ロードの視線がキープを向く。
ミラさんはこちらにお願いポーズをしている……投げられたようだ。
「ん?キープはお酒飲んでるか??」
ロードがキープのジョッキを見てくる。
キープは実は酒を飲んでおらず、ビールに似た色のジュースを飲んでいた。
「の、のんでますよ?」
少し狼狽えつつ手のジョッキ(ただし中身はジュース)を見せる。
「なら良し!」
ロードは上機嫌でつまみに手を伸ばし始めた。
(あ、危ない……飲まされるかと思った)
ほっとしたキープだがじーと見ている目線に気づいた。
アリアだ。
キープの近くに寄ると、
「キープってお酒駄目なの?」
小声で訊いてきた。
「駄目と言うか、なんか村にいた時周りのみんなに止められたんだよね。『お前は絶対酒を飲むな』って」
「ふ~ん、何か酒乱なのかしら??」
「さぁ? 実は飲んだ時の記憶が全然なくって」
2人して話をしていると、
突然ミラが叫んだ。
「1番、ミラ 脱ぎます!!」
「は?」
いつの間にか真っ赤になっているミラが服を脱ごうとしていた。
どうやらロードに強い酒を飲まされたらしい。
机の上には酒瓶が並んでいる。
ミラは上着の裾を握っている。
飲み会なので鎧ではなく簡易的な服しか着ていない。
脱ごうとすれば即脱げるだろう。
「いやいやいや、待って! ミラさん待って!!」
キープとアリアが慌てて止めに走る。
「いいぞーねーちゃん脱げーー」
「ヒューヒュー」
「おっしゃー」
周りからのヤジが半端ない。
ミラは更に乗せられて机の上に立つと上着を脱ごうと……。
『ホーリーチェイン(拘束)!』『バインド(束縛)!』
ふたつの魔法がミラを動けない様にする。
「「あ、あぶなかったー……」」
キープとアリアが同時に安堵をつく。
あまりの衝撃に2人とも無詠唱で魔法が出来たぐらいだ。
「何だ脱がねーのか?」
ロードが固まったままのミラを見ている……と思ったら。
「手伝ってやろうか?」
ミラのズボンに手を掛けた!
「ロー……」
キープが言うより早く、アリアが酒瓶でロードの頭を殴った!
「ぐふっ!」
そのままロードが倒れこむ……。
「えぇ~……」
キープがあまりの衝撃に固まった。
「まぁロードなら石頭出し大丈夫(多分)」
「な、なるほど……(今多分って聞こえた!絶対言ってた!)」
「へぇ、奇遇だな。キープ達じゃないか」
急に声が掛かりそちらを見ると、
「シャウラさん!」
シャウラがジョッキを片手に立っていた。
仕事上がりに飲みに来たのだろう。
シャウラは机の上で固まっているミラと、机の下で倒れているロードを見て、
「まぁ、なんだ。……どんまい!」
何故かキープの肩を叩いて行ってしまった。
(なんか励まされた! いや、慰められた??)
微妙な顔つきのキープだったが、新しい串焼きがテーブルに届いたのを見て手を伸ばす。
「あ、キープ。その串焼きは……」
アリアが言った時にはキープは串焼きにかぶりついていた。
「ロードが頼んだ……激辛の……」
「!?!?」
串焼きにかぶりついたままのキープの顔が真っ赤になっていく……。
串焼きにはこれでもかと香辛料が掛けられ、練りこまれ、中に詰め込まれていた。
「うぅ……」
かぶりついたものを出すわけにもいかず、キープは涙目になりながらも我慢してもぐもぐしている。
「だ、大丈夫? それかなり辛いよ? 私も無理だったし」
アリアが心配そうにキープを見つめる中……。
ごっくん!
串焼きを飲み込んだ!と、同時に!!
「ひ、ひゃらい!!!!!!(辛い) ひたふぁ~(舌が~)」
叫ぶとジョッキの中のジュースを一気に飲み干す。
「ふぁたたふぇでふゅ~(まだ駄目です~)」
そこら辺のジョッキを片っ端から空けていく……。
「キープ、それお酒……」
アリアが言うが、キープには何も聞こえていない!
机上のジョッキを全て空けると、ようやく落ち着いたようで、
「はぁ、はぁ、はぁ、か、辛かったです~……」
テーブルに突っ伏した。
「あ、あはは……」
アリアはそれを苦笑いで見ていたが、
「はぁ、はぁ、はぁ……」
キープの様子がおかしくなってきた。
「ちょっと、大丈夫?お冷や貰ってこようか?」
キープが突っ伏したまま頷く。
「わかった。ちょっと待ってて」
アリアがカウンターに行き、お冷を頼んで準備してもらっていると……。
「「「おぉ~~」」」
いきなり後ろが騒がしくなり、振り返ると……何故かキープが大勢に囲まれている!
「え!何! 何事!!」
アリアが急いで席に戻ると、
お酒が回って赤く火照っているキープの服が何故かはだけている。
「あ~暑いのれふぅ!」
胸元を開いて手でパタパタしている。
キープ自身は男だし、全然気にしていないようだが……。
「「「おおおーーー」」」
周りにいる観客(?)から声援が飛ぶ。
「いいぞー嬢ちゃんぬげぇ!」
「さっきのねーちゃんの代わりだ~」
「嬢ちゃんに惚れそうだ!」
周りはキープが女の子と思っているようだ。
確かに、火照って真っ白い胸元に朱が差している、可愛い風貌は……女の子にしか見えない。
むしろアリアにもそう見える。
(っていうか、見てる場合じゃない!)
「ちょ、ちょっとキープったら!!」
急いでキープの元に寄ると服を直そうとする。しかし……。
「いや! 暑いのぉ。パタパタするの~」
キープは子供の様に嫌々をし始めた。
「こ、こら! 暴れないの!」
アリアが言うとシュンとして、
「うー……駄目なの??」
上目遣いの涙目で見つめて来た。
ズキューン!!
アリアの心を何かが突き抜けた!
(わ、私には……もう……無理、止められない)
アリアが白旗を上げようとしたその時、
「ほらよっ!」
バッシャーン!!
キープ中心に水が降ってきた。
「よぉ、大丈夫か?目ぇ覚めたか??」
そこにはバケツを持ったシャウラが居た。
「シャ、シャウラさん。助かりました」
アリアが涙目でシャウラに縋る。
シャウラはため息をつきつつ、
「はぁ、全く……。お前達の飲み会は大変だな」
キープは水を掛けられた状態で「??」と首を傾げている。
目は覚めたものの状況が良く分かっていないようだ。
この後アリアはキープに「絶対酒を飲むな!」と幾重にも釘を刺したのだった。
ちなみに、
ミラとロードは閉店までそのまま置き去りにされた。
(ついでに飲み会の支払い先はロードになっており、翌日ロードの叫び声が街中に響いたとか何とか……)
たまには穏やか(?)に。




